誕生日、どこか行きたいところある?したいことは?そう、目を輝かせて聞いたら。 「どこも行かずに自室でぼーっとしたい。」というまさかのお答えが返ってきた。 *** ジリリリリ、と目覚ましの音が鳴ってリノアはふわりと目を覚ました。カーテンから透ける陽の光は清かにほわりと白くて、今がまだ朝と呼べる時間だということを教える。今日も暑くなるのかな、そう思いながらよいせ、とリノアは体を起こした。リノアは基本的に寝起きはいい。休みの日も大抵普段通りに起きる。スコールと一緒に夜を過ごすと寝過ごしてしまうことが多いが、それはもっぱらスコールのせいであって、リノア本人が寝汚いからでは決してない。出張でスコールが留守にしていたここ4日間は勿論十分に睡眠を取れていたので、今朝の眼ざめもすっきり爽やかであった。 テレビをつけると、にこやかな女性アナウンサーが今日の天気を告げている。 「うわー、今日のバラムは35度まで上がるの〜?」 本日も猛暑日が続くでしょう。熱中症にはお気を付けください。爽やかに涼しげに言い放たれた言葉は決して喜ばしいことではない。リノアは顔を顰めながら洗顔する。心なしか蛇口から迸る水もぬるく感じられた。 「さて、今日スコールくんは何時くらいに連絡くれるのかな。」 一通り身支度を終え、朝食を食べながらリノアはそう独り言ちた。スコールは今日の明け方にバラムに帰ってきている。予定が狂ったとの連絡はないから、きっとそのはず。そして今は泥のように自室で睡眠を貪っているに違いない。今回の出張はSレベルモンスターの駆逐だったから、相当疲れているはずだ。 先日、スコールに誕生日の予定を聞いたときのことを思い出して、リノアはくすりと笑った。 今年の8月は、スコールは出張続きだ。7月末から8月頭にかけてエスタのモンスター殲滅状況の調査。戻って5日程のバラムでの内勤を終えたら今度はドール、ティンバー、ガルバディアへの歴訪。バラム帰還後2日で今度はトラビア山間部でのアルケオダイノス掃討。誕生日の今日から2週間程休暇ではあるが、誕生日翌日からは例年恒例のウィンヒルへの墓参りが待っている。実際心底のんびりできるのは、ウィンヒルから帰還後だろう。 まさにワーカーホリック状態と言ってもいい状態だ。でも、そんな姿は非常にスコールらしいとリノアは思う。真面目で、頼まれたことを断るなんて考えもしない彼は、やはり出会った頃と変わらない。スコールが真面目だったからこそ、自分たちは出会えたし一緒にいられたし、好きになることが出来た。子どもの遊びだと言われ、今の自分でもそう思う愚にもつかない作戦にも、断らず付き合ってくれた。もしスコールに何かひとつでも断られていたなら、自分はここにいることもなかっただろうし、魔女でありつつ心の平穏を保つこともできなかっただろうし、もしかしたら未だにひとり、誰かを愛したくて愛されたくて彷徨っていたかもしれない。今の自分がここに在れるのはスコールのおかげ、その思いをリノアは強烈に胸に抱いている。 うまくやれば、誰かに仕事を押し付けたり逃げたりすれば、ここまで忙しくはならないのにね。仕事を多少断ったって、誰も非難何てしないのにね。しかしそれを良しとはしない彼の姿勢はとても素敵だとわたしは思う。尊敬すべき点だと思う。わたしもそうでありたい、とそう願う。 まあとにかくそんな訳で、きっとスコールから連絡が来るのは昼頃なんじゃないかとリノアは予測した。起きたらきっとお腹空いてるだろうな。時間的にお昼ご飯だろうけど、寝起きにガッツリ食べるのは無理だろうから、軽めのブランチ用意してあげよう。昨日、美味しいって評判のベーグルを買っておいたから、それに野菜とチーズとツナやハム、サーモンを挟んでサンドイッチにしたらどうかな。挟むだけだしわたしにも簡単に作れるし。未だ自信を持って料理をふるまうことが出来ない自分の不器用さが口惜しいけれど、千里の道も一歩より。頑張っていればいつかはきっと、凝った料理をふるまうことが出来るようになるだろう。 つけっ放しのテレビはもうニュースの時間は終わって、今度は朝の情報番組になっている。今日の特集は、夏の終わりを満喫できるデートだそうだ。様々な場所の楽しげな情報を流し見しながら、そういや今年の夏はまだどこにも行っていないんだわ、とリノアは思った。バラムでセルフィやキスティス、三つ編みちゃんたちのお茶とかショッピングとか、そういうちいさなお出かけはしているけれど、どこか遠くへ出かけたりすることはしなかった。魔女の自分が遠出をしたり、まして泊りがけでどこかへ行くというのは中々面倒くさいし、スコール以外にその面倒さを背負わせるのは気が引ける。そこまで甘えられない。 基本、リノアは甘えっこのようでいて甘えることはあまりしない。誰かに頼る前に自分で何とかしようとする。自分で動こうとする。それが他者の眼から見てどれほど無謀で突拍子もないことだったとしても、自分で出来ることは自分でする。誰かに甘えて助けてもらうこと、それに慣れていない。そんなところは、リノアとスコールは良く似ていた。甘え下手なくせに、誰かに甘えて欲しい、頼ってほしいと願う。スコールとリノアの根底には、同じ渇望が揺蕩っている。正反対のようでいて、限りなく同じでもある自分たち。だからリノアはスコールにだけは甘えられる。 そうなのだ。リノアはスコール以外の人間に甘えない。自分の面倒さを背負わせる気はない。スコールにだから、自分の面倒くささも任せてしまえる。そしてスコールに甘えていられるから、他の人に甘える必要なんてない。自分一人で立っていられる。 前は、スコールにこんな面倒さを背負わせるのなんて間違っているんじゃないかと、誰よりも愛おしい人に、大切な人に迷惑かけたくない、そうリノアは思っていた。だけど、本当に大事な人に、愛おしい人に頼ってもらえないというのはとても寂しくて切ないことなのだ。自分が何の役にも立たないように、自分の居場所は相手の隣にはないように思えて、身を切られるような痛みを刻み込まれる。それをリノアはスコールと歩んできた道のりの中で知った。だから今はそんなことは思わない。むしろ、スコールだけには自分のすべてを背負ってもらいたい、自分もスコールのすべてを背負ってあげたい、そう思う。そう思える自分は、ほんの少しだけ、愛の欠片を手に入れられたのではなかろうか。 部屋の片づけを軽くして、スコールの部屋に持っていく食料をまとめ、洋服をどれにしようか悩みながら着替え軽いメイクまで終わったところで、プルルルと優しく電話の音が鳴った。スコール専用の着信音は母が書いた曲のオルゴールバージョンだ。優しいメロディなのに聞くと胸がキュンとするのは、これがスコールからの電話だとわたしに教えるから。いつも味わう感覚を胸に抱きながら、リノアは電話を取った。 「おはよ、スコール。」 「おはよう。さっき目が覚めた。」 「うん。じゃあそっち行くね。」 「ああ。」 どことなくぼんやりとしたスコールの声に、リノアはこそりと笑みを漏らした。もしかしなくても相当疲れてるみたいだ。声色から疲労感が滲み出ている。だったらもっと寝ていたっていいのに、彼はそうはしない。リノアが待っている、そのことを知っているからこそ、どれほど眠くてもきちんと午前中に目を覚ました。昼過ぎまで惰眠を貪るなど思いもよらないのだろう。 やっぱり、スコールってば真面目だ。 リノアはにやける頬を抑えながら荷物を持って扉を開けた。 *** 「悪い、ちょっと寝過ごした。」 リノアがスコールの部屋を訪ねると、髪を拭きながらスコールが出迎えた。どうやら電話の後軽くシャワーを浴びたらしい。女子寮のはずれにあるリノアの自室と男子寮のはずれにあるスコールの自室は真反対に位置している。急ぎ足で歩いたとしても、リノアの足では10分以上かかってしまう。それを見越して、スコールはシャワーを浴びていたのだろう。 どうぞ、と扉を抑えてくれているスコールの脇を通り過ぎたとき、ふわりと清潔感溢れる石鹸の香りがして、リノアは胸をわずかにドキドキさせた。 「ううん、全然早いくらいだよ。まだ10時半とかそのくらいだもん。昨日遅かったんでしょ?もっと寝ててもよかったのに。」 「まあ遅いといっても夜のうちに帰れたから。」 「でもさ、疲れてるでしょ?もっとゆったりしたら?」 「今日は1日フリーだし、大丈夫。」 「そういうもん?」 「そういうものだ。」 スコールはそんなことを言うが、それはちょっと疑わしいなあとリノアは思った。何故なら先ほどからずっと、彼は何だかアンニュイな雰囲気を醸し出している。それは、いつもより緩やかに穏やかに瞬く蒼い瞳のせいだったり、どこかゆったりとした仕草だったり、視線も表情もふんわりとしたものだったり、そういう事実から簡単に分かる。それでも、リノアはそれ以上「疲れているだろう」と言い募るのは止めた。スコール本人が「違う」と言っているのをいつまでも否定するのは、彼の言葉を信じていないように見えると思うし、それにそこで本当に「疲れてるから1人にしてくれ」なんて言われて自室に帰る羽目になったら。今日はせっかくのスコールの誕生日なのに、同じ場所にいるのに、ほとんどお喋りも出来ずにただ顔を合わせて終わり、なんてことになったら。そう考えただけでブルリと震える。余計なことは言わない方がいい。 リノアは持ってきた食材を持ってスコールの部屋の簡易キッチンに入る。そこはいつものように殺風景で、申し訳ない程度にカップが置かれているだけだった。冷蔵庫を開けてみると、中はもちろん清々しいまでに空っぽだ。元々あまり冷蔵庫内に食料を置かないスコールだが、まるで新品のように何もない庫内はスコールの最近の激務を如実に表していた。スコールが忙しかった間、あまり用もなくのほほんと毎日を平穏に過ごしていた自分を顧みて、リノアはほんの少しだけ胸が痛むのを感じた。 「アイスティー買ってきたの。飲む?」 「ああ。」 ほぼ自己満足に過ぎないであろう胸の痛みを振り払うかのように、リノアは振り返ってスコールに問いかけた。スコールはリノアの後についてきていたようで、簡易キッチンの入口のところで壁にもたれてリノアを見ていた。どことなくぼんやりとして、だからだろうか妙に優し気で暖かな色をした蒼い瞳で彼はリノアを見ている。その事実が何だか妙に気恥ずかしくて、リノアは慌てたようにグラスを棚から取り出した。 いくつかの氷をコップに入れ、そっとアイスティーを注ぐ。リノアが好きなオレンジアイスティーの香りが辺り一面にふわりと漂った。スコールはその香りを感じ、目を細めた。 「いい香りだな。」 「でしょ?さっぱりしていて夏らしくて、わたし好きなの。」 「甘くない?」 「甘くないよ。これ、無糖タイプだから。スコール甘いのあんまり好きじゃないでしょ。わたしは後からシロップ足せばいいから。」 「……サンキュ。」 リノアの言葉に、スコールはふわり、と頬を緩ませる。やっぱり、胸がどきどきして止まらない。リノアは自分の頬が赤くなっているのを自覚した。久々に会えたから、だからこんなにドキドキするのかな。それとも、今日のスコールは何だかすごく無防備で、いつも周りに張り巡らせている鋭い雰囲気がないから、こんなにときめくのかな。ううん、今の笑顔がものすごく綺麗だったから?リノアには分からない。分からないけれど、身体は正直に反応していく。止めることなんてできなかった。 スコールがそっと近づき、アイスティーの入ったグラスを一つ持ち上げ、一気に飲み干した。ごくり、とアイスティーを嚥下していく喉仏を、うっかりリノアは食い入るように見てしまった。 「もう一杯もらってもいいか?」 「あ、え、うん、もちろん!スコールお風呂上がりだったもんね、喉乾いてた?」 「ああ。」 「はい、どうぞ。」 まさか、言えない。スコールが勢いよくアイスティーを飲んでいるところが、妙に色っぽくてセクシーだったなんて。ゆっくりと上下する喉仏と首のラインが、非常に男の人らしさを醸し出していて、ドキドキしてしまったなんて。リノアは自分の心の中を知られたくて、慌ててアイスティーを再度淹れてスコールに渡した。スコールはそのときちらり、と自分を見たような気がしたが、俯きがちにグラスを手渡したから定かではない。 リノアが差し出すグラスを、スコールはゆっくり受け取った。そのとき、彼の骨ばった指がリノアの指をそっと掠めた。どきり、と緊張して手が固まる。そんなリノアに気付かないように、スコールはアイスティーを今度はゆっくりと飲んだ。半分くらい飲んだところで、グラスをキッチンのカウンターに置いた。 「もう、いいの?」 「ああ、それより。」 スコールはそう言うと、両手をリノアに向かって差し出す。何だろう、そう問いたげに首を傾げるリノアに、スコールもリノアに向かって首を傾げた。 「ハグハグ。」 「……。」 「ハグハグ」が一瞬、「はぐはぐ」に聞こえた。でも、ハグハグ、って言ったのよね、今?ハグハグ、って抱っこして、って意味よね、わたしがよく使う。 頭の中をすごい勢いで色々な思いが駆け抜けていくせいで、リノアは一瞬真顔で停止状態になってしまった。そんなリノアを見て、スコールは顔を真っ赤にさせ慌てたように言い募った。 「いや、これはアレだ。その、リノアの口癖がうつったっていうか……。」 「スコール。」 色白の彼が真っ赤になった姿をリノアは初めて見た。全身燃えるような赤に透けるように染まっている。とても綺麗だ。もうちょっと見ていたい、そう思わせる程。でもそれはあまりにも意地悪だわ。そう思い直して、リノアは真っ直ぐスコールに抱き付いた。所在無げにあわあわと動かされていた彼の腕が、そっとリノアの身体に回ってぎゅっとしてくれる。抱き付いたときに感じたスコールの身体の緊張は、すぐに柔らかく溶けていった。 「そうだね、久々に会えた時は、一番にぎゅーってしてほしい。スコールもおんなじ?」 「……。」 スコールは返事をしなかった。ただ、リノアの身体をぎゅうっと抱きしめただけだった。でもその仕草だけで、リノアは酷く幸せで甘い心地になる。いつも正直で真面目なスコールが、自分の言葉を否定しない。だからそういうことなのだ。 「ね、スコール。」 「何だ。」 「ぎゅうもいいけど、もうひとつ、忘れてない?」 抱き付くのは止めないまま、リノアは顔を上げてスコールに首を傾げて見せた。スコールはまだほんの少しだけ頬がピンク色だった。リノアの問いかけの意味は分からなかったらしい、青い瞳をきょとりと見開いて彼も首を傾げて見せた。そんな彼に、リノアは微笑んで自分の唇を人差し指でとんとん、と叩いた。 「ねえ、ちゅうってして。」 スコールは笑って、リノアの頬に手を滑らし、顔を傾けた。近づいてくる彼の吐息を感じながら、リノアはそっと瞳を閉じる。やがて柔らかでしっとりとしたスコールの唇を感じた。軽く触れ合わせてから、今度はしっかりと重ね合わせる。そっと潜り込んできた舌と触れ合えば、爽やかなオレンジの味がした。 「……やっと、帰ってきたって気がしたかも。」 ぽつり、とまるで溜息を零したかのように言うスコールにリノアは微笑んでもう一度ぎゅうっと抱き付いた。 「お帰りなさい、スコール。」 「ただいま、リノア。」 「それから、誕生日おめでとう。」 「有難う。」 にこり、とお互い同時に微笑んだ。その笑みも、さっきぎゅうっとしたいなと思った気持ちも、キスしたいなと思った気持ちも。全く同じとは言わないけれど、ふたり限りなく近しくシンクロしているみたいとリノアは思った。 手を伸ばしてスコールの髪に触れてみた。まだしっとりと濡れているせいか、いつも以上に柔らかい。リノアが撫でると、スコールは少しだけ擽ったそうな顔をした。 そして。 ぐう、というお腹の音がスコールから聞こえた。スコールはぎょっとしたような顔になり、リノアはくすくすと笑いだした。 「さっき起きたばっかりだもんね、お腹空いちゃったよねえ。待ってて、すぐにご飯作るから。ベーグルサンドの材料持ってきたの。」 「……準備がいいな。」 「でしょでしょ?多分、スコールのことだから睡眠優先だろうなって思ったから。」 「俺のことをよくご存じで。」 「ええ。だっていつも見つめてますから。」 リノアがおどけたようにそう言うと、スコールもぷはっと笑いを零した。それからくしゃり、とリノアの頭を大きな掌で撫でて「髪を乾かしてくる」とバスルームへと行ってしまった。彼が触れていった頭にそっと触れて、それからリノアはくしゃっと嬉しそうに笑った。 以前のスコールだったら。リノアが「お誕生日の日、どうやって過ごしたい?」って聞いたらきっと、「どこか出かけるか?」とか言ったと思う。どんなに疲れてても、どんなに面倒だったとしても、リノアが楽しみにしてるだろうと頑張って希望を叶えていただろうと思う。けれど、今回の誕生日、スコールはそんなことは言わなかった。本当に自分がしたいこと、ゆっくり部屋で休みたい、とそう正直に言った。それはきっと、リノアに対する信頼の証だと思う。わたしがちゃんとスコールを受け入れているって知っているから、甘えてくれてるの。リノアにはそう思える。心が暖かくなってふわりと解けていくのを感じる。 確かに、スコールとどこかへ出かけるのはとっても楽しい。2人で色々なものを見たり、食べたり、お喋りしたり、それらは絶対に楽しいピースたちであることには間違いない。 でも、楽しくて幸せなことって、それだけじゃなくて。 本当に何でもない、ただ部屋でまったりしてるだけの時だったとしても。何も喋らなくても。2人並んでぼんやりしてるだけだとしても、相手の心が全て委ねられている、そう実感できるなら。 それはとても愛おしくて心ふるえる瞬間だと、そう思う。 さくり、とベーグルをナイフでカットし、用意してきた具材を挟む。切るだけ、挟むだけのランチは非常にお手軽だけど、すぐに食べられていいだろう。多分スコールのことだからあっという間に髪を乾かしてしまって、空腹を抱えながら自分のことをおとなしく待っている。 「お待たせ。」 ベーグルサンドを皿に載せてスコールの居室へと姿を見せれば、やはりさっさと身支度を整え終わったスコールが待っていた。手に料理を抱えているリノアを見て、ふわりと優しく微笑む姿は、やはりいつもの雰囲気とは違って優しく緩やかなもの。たった1人、こころの鍵を完全に預けた人にだけ見せる、無防備な笑顔だ。それはなんて心をときめかせるものか。 どこにも出かけなくたって、何もしなくたって構わない。 何かしなきゃ、なんて強迫観念は青い空の向こうに投げ捨ててしまった。 そう、余計なものがまるで飛行機雲のように放物線を描いて消えていった先には、何もないように見えるけれど、確かに存在しているものがある。そこにあるのは綺麗で純粋で、やさしくて暖かい本質のような気持ち。 ーーーーー一緒にいられれば、それだけでいい。 end. |