3.約束は真剣に
(FF8・Irvine×Selfie)


「ねぇ、アービン。」
「何、セフィ?」
「アービンって、アタシのどこが好きなわけ?」
「・・・・・・はい?」


 ふと、たまたま廊下でセルフィと行き会って、聞けばお昼をこれから食べるらしい。僕もまだ食べてなかったので、じゃあ一緒に食べようということになり、そして各自昼食を受け取って学食の席に腰掛けた。
 いただきまーす、とスープを一口飲もうとしたときに、いきなりくるくるとした翠色の瞳でそんなことを尋ねられて。
 僕は、思わず真顔で問い返してしまった。
 ああ、スープまだ飲んでなくてよかった。もし飲んでたら、ぶほっと盛大に噴出すところだった。それは避けたい。


「なあに、アタシのことが好きって言ったの、嘘やったん?」


 僕が真顔でしげしげ、と見ているのが気に入らなかったのかもしれない。セルフィは細い眉を少し顰めて、そんなことを言った。僕は慌てて手を振る。


「いや、嘘じゃないですけど・・・・・・。一体いきなり何ですか?」
「うーん、アタシってアービンに好かれるようなことしたっけ?とふと、思って。
 昔はどっちかいうと、パシリにしてたような感じだし。今もそんな感じ?
 だから、どのあたりがいいのかさっぱりわかんなくて。」
「・・・・・・パシリ。」
「あ、もののたとえね。ホンマにパシリにしてたわけやないからね!」
「・・・・・・分かってるけどさ〜。」


 パシリ、とか、ちょっと酷くない?ま、そりゃあ惚れた欲目ってやつだろうか、セフィの頼みは基本断らない僕だけど。
 でもさあ、何だかさ。この片思いって成就する日来るの?って気持ちになってしまうよね、少しだけ。
だって、普通そういうロマンティックなこと、学食で聞くか?聞かないだろう。そんなこと平気で聞いちゃうあたり、まだセフィは僕のこと特別に思ってるわけじゃないんだなあと実感する。それはちょっと凹むね。まあ、いいんだけど。


「で、どこが好きなわけ?」


 改めて、セルフィはこくり、と首をかしげて問い直した。そんなセルフィに、僕もはさっき掬ったスープを一口飲んだ。それは少し冷めてしまっていて、ぬるい液体はまるで今の自分たちの関係のようでおかしかった。


「・・・どこって言うと難しいんだよね。」
「・・・そんなもん?」
「そんなもんだよ。ここが好き、あそこが好き、とか色々思いつくんだけど、決定的なひとつとなると難しいんだなあ。
 セフィが聞きたいことって、そういうことでしょ?」
「そうだけど。
 ねえ、好きってさ、周りの人間とは明らかに別なものを感じるから、だから好きだなあとか特別だなあとか思うわけでしょ?
 アタシ、そこが謎なんよ。」
「・・・・・・こだわりますねぇ、セルフィ・ティルミットさん。」
「だってさぁ。」


 つんつん、とサラダをつつきながらセルフィは口を開く。珍しい、と純粋に思った。あんまり、セフィはこういう話をマジですることってないと思う。そりゃあ、スコールやリノアをからかったり、ゼルをせっついたり、そういうお節介はいつもしていたけれど、いざ自分のこととなるとてんでニブイ。何も考えてないんじゃないか?っていうくらいニブイ。恋に憧れる、夢を見ている眠り姫って感じ。だから、どうしたのかなあと素直に思って、問いかけた。
 そしたら。セフィは勢いのまま、こんなことを言った。


「アービンのまわりにいる子たちって、皆可愛かったりいい子だったり、明るくて素敵だったりするじゃん?前カノのあの先生も素敵やったよね。そういう人たちに比べて、アタシ、そんなにいいところなんてないよなあ・・・とか思って。
 あんまし、可愛くないしさ。元気なのが取り得くらいなもんで。」


 ・・・・・・やっべー。
 超可愛いじゃないか。
 もしかしなくても、嫉妬ってやつですか?
 何ですか、いきなり。いきなり、そんな不意打ちアタックを繰り出さないでよ。心臓に悪いよ。


 僕が、思わず口を押さえると、セフィも自分の語った内容がやっと理解できたらしい。いきなり、ばばばっと白い頬が真っ赤になって、それから慌てて手を振った。


「や、ちょっと今のナシ!アタシ変なこと言ったよね!?今のは忘れて!!」
「やだよ〜。なーんでこんないいこと、忘れなきゃいけないのさ。」
「やだ、やめてよ。さっきのはナシ!嘘だってば!」
「嘘なの?それはちょっと悲しいなあ。一気にアゲられて落とされる気分だ。」
「・・・・・・うう。」


 困ったように、苦虫を噛み潰したようにパスタをくるくるとフォークに巻きつけるセフィに、僕はそっと微笑をもらした。
 嘘だよ、分かってるよ。
 今のセリフも、きっとセフィはあんまり深く考えて言ったわけじゃないんだろうってこと。ただ単に、興味があったから聞いてみただけなんだってことも。言ってみて、何だか深読みしなくても凄い台詞になってしまって、慌ててしまっていることも。
 このまま放っておいたら、きっと。きっと、照れ屋の眠り姫さんは、オーバーヒートしてぐるぐるしちゃうってことも。ちゃんと分かってるよ。
 だから、僕は、肉のソテーをひとつ頬張りながら、こう提案する。


「オッケーオッケー。今のは忘れてあげましょう。」
「・・・・・・ホンマ?約束する?」
「ホンマ、ホンマ。約束します。。
 あ、でもさっきの質問、答えてないけど、それはそのまんまでいいわけ?」
「いいです・・・。」
「ふぅん。ま、聞きたくなったらまたいつでも聞いてよ。セフィの好きなところ、たっぷり教えてあげる。」
「・・・・・・アービン、顔、笑ってる。」
「あ、そう?それはま、仕方ないね〜。一応、忘れる努力はしますよ。約束する。」


 忘れる努力は、するよ。
 多分忘れないけどね。
 そう思ってほくそえむ僕に、セフィはいまだ赤みの残る頬で、こちらをうらめしそうに見た。そして、フォークに巻き取ったパスタをぱくりと食べて、ぽそっと呟いた。


「・・・なんか、約束って言葉がムナシイ感じがする・・・。」
「酷いなあ。」


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無意識の行動にこそ、本音が現れるものだよね?