4. 針千本、用意するのはどっち?
(FF8・Squall×Rinoa)


「本当にごめんなさい!!」


 必死に手を合わせて、お辞儀をして。謝罪を受けた彼はどんな表情をしているのかしら。ふと、気になって上目遣いにそーっと伺ってみる。
 その彼は、いつもどおり。腕を組みながら無表情にこちらを見つめていた。こころしか、ムッスリとしているように・・・・・見えなくもない。
 ああ、そうよね。怒るわよね。わたしが、「絶対に約束だよ。こんど破ったら、針千本飲んでもらうからね。」って言ったのに。まさか自分が約束破りをする羽目になるとは思わなかった。情けなくて申し訳なくて、本当に自分が嫌になる。


 今度の春の休みは、どこか行けるかな?行けるといいな。そんなことを呟いたわたしに、スコールは書類を読みながらだったけど、2日だけなら予定が空けられる、と言った。1週間の休みの中の、たった2日。だけど、その休みを得るのがどんなに大変なことか、わたしには痛いほど分かる。基本的にスコールは仕事に手を抜くことはしないし(だからいつも忙しすぎるのだわ)、依頼がひきもきらないのも知っている。だから、2日も休みを取れるの、とすごく嬉しかった。
 せっかく2日もあるんだもの、どこに行こうかしら。フィッシャーマンズホライズンに行って、遥かな海原でも見ようかしら。それとも、シュミ族の村に桜見に行ってみようかしら。わたしがウキウキと提案するプランに、「リノアが行きたいところでいいよ。」と優しい目で答えてくれて、それが嬉しくて嬉しくて。だから、日にちを決めたときも、「絶対だからね。絶対に約束だよ。こんど破ったら、針千本飲んでもらうからね。」と念を押して。そんなシツコイわたしに、彼は笑いながら、「ああ、約束だ。」と言ってくれた。


 なのに。
 約束の2日の初日に、なんでよりによって魔女検診が入ってしまったのだろう。
 本来のスケジュールでいけば2週間後に魔女検診だったはずなのだが、ここ1週間ほどのわたしの魔女としての仕事の最中、魔力稼働率に揺らぎがあり、その原因を探るために急遽魔女検診がセッティングされてしまった。
 多分最近ちょっと頭痛がしてたからだと思うのだけれど、でも魔女検診はわたしの義務のようなものでもあったから、私用のために断るわけにいかない。
 ああ、もうわたしのバカ。
 せっかく、スコールはちゃんと約束守ってくれたのに。言い出しっぺのわたしが約束破りだなんて。なんで頭痛なんて起こしちゃったのかしら。わたしのバカ。


「本当にごめんなさい・・・・・・。」


 スコールもどうしても仕方なく約束破りをしてしまうことはあって、そのたびにわたしは仕方ないなと分かっていても何だか、寂しいなあとかまた一人ぼっちかとかいう気持ちを抱いて、色々楽しい気持ちが逃げ出してしまった後の風船のようにしょんぼりと萎れてしまう。どうしようもないことだと、ただの我侭だと思っていても、限界まで膨らんだ期待が一気に萎んで、どうしても悲しくなってしまう。スコールも、もしかしたら、ううん、もしかしなくてもきっと同じだ。楽しみにしてたぶんだけ、ガッカリも大きくなる。
 そう思って、消え入りそうな声で、でもわたしはごめんなさいを言うしか出来なくて。


 そしたら、ぽん、と大きな手のひらがわたしの頭の上に載った。柔らかな暖かさがじんわり伝わって。それからくしゃり、とちょっと乱暴に撫でられた。
 ちろり、と上目遣いにスコールを見ると。彼は怒っていなかった。ただ、仕方ないなというように、そっと笑っていた。


「そんな気にするな。大丈夫。フィッシャーマンズホライズンのホテルはキャンセルしておく。今度また、行けばいいさ。」
「・・・・・・うん。ごめんね。」
「謝らなくていい。大体、約束破るのは俺の方が多いしな。」
「いや、だってスコールのはいつもスコールのせいじゃないもん・・・!」
「リノアの今回のだって、リノアのせいじゃないじゃないか。」


 そこまで言うと、スコールはぷはっと笑った。最近、本当にたまにだけど、スコールはすかっと青空のように笑うことがある。あまり見たことのない表情に、わたしはいつもびっくりしてしまって、それからドキドキが止まらなくなる。どうしよう、今もきっと顔が赤いかも。だってこんなに頬が、燃えているように熱いんだもの。きっと赤くなってるに違いない。
 ーーーーーそのこと、きっと彼にもばれてしまった。
 だって、今、そっとわたしの頬から耳を彼がそっと撫でたから。


「リノア、魔女検診は休みの初日だけ、だろ?」
「・・・・・・うん。」
「場所が気に入らないけど、今回の休みはエスタで過ごそうか。そしたら検診後、一緒にいられる。」
「・・・・・・わたし嬉しいけど、でもいいの?」
「ま、仕方ないさ。」


 スコールは、ふん、とひとつため息をついた。
 スコールはあんまりエスタに行きたがらない。エスタに行くと、ラグナさんやキロスさん、エルオーネさんやウォードさんなど、多くの知り合いがここぞとばかりに押しかけてきたりするからだ。これじゃ休暇にならん、とよく苦虫を噛み潰したような顔で言っている。だから、いいのかな、って思ったけど。でも、どうであれスコールと一緒にいられるのは嬉しい。エスタに一緒に着いて来てくれるなら、バラムからの移動時間だって楽しいわ。だから、わたしはこくり、と頷いて、それからにっこりと笑った。
 スコールは、そんなわたしをまじまじ、と見て。それからきゅっとわたしの手を引いた。
 あまりに急だったから、わたしは思わず彼に倒れこんでしまった。ごめんなさい、と言おうとして顔を上げたらそこには彼の綺麗な顔がすぐ近くにあって。
 そして。
 そっと触れられる薄い形のいい唇に、わたしの声は全て吸い取られてしまった。


「そういや、約束破ったら針千本飲ます、んだよな?」
「・・・・・・え?」
「飲んでもらおうかな、リノアに。」
「ええ?」
「何だよ、嫌なのか?」
「・・・・・・嫌じゃない、デス。」
「結構。」


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約束破りの罰は、何でしょう?