3.Cherry Blossom
(FF8・Zell×Michiru)


「わ、可愛い・・・・・・」
「へ、何が?」


 たまたま、ゼルさんと一緒にバラムの街を歩いていた時に、ふと私はお店のウィンドウに置いてある可愛らしい瓶を見つけた。それは、薄いピンクのガラス瓶で、透かし彫りのように小さな花たちが飾られている。どうやらこのお店は、スキンケアのお店のようだった。中には女の子達でいっぱいで、見るからに華やかな感じ。
 うん、またバラムに来ることあるから。だからそんときにはちゃんと見てみようかな。
 私はそう思って、そのまま通り過ぎようとしたのだけど。ゼルさんはそのまま立ち止まった。わたしが見ていたウィンドウを覗き込んでいる。数歩先に進んでしまった私が振り返り、首をかしげると。ゼルさんはちょいちょい、と手招きして私を傍に呼んだ。


「ゼルさん、どうかした?」
「今、可愛いって言ったの、アレ?」
「あ、うん。あの奥にある、ピンクのガラス瓶。」
「へー。じゃあ、店ん中入って見てみれば?」
「え、いいですよ。」


 ゼルさんの提案に、私は慌てて手を振った。だって、このお店、とっても可愛いけど。だからこそ店内には女の子しかいない。こんな如何にも女子、な感じのお店、男の人は苦手なんじゃないのかしら。
 でも、慌てて手を振る私のこと、ゼルさんは不思議そうな顔で見ている。そして、首を捻りながら言葉を紡いだ。


「何で?アレ、気になるんじゃねえの?」
「気になるけど・・・、でも、今度また1人でバラム来ることあると思うから、そのとき見るからいいの。」
「じゃあ、今見たっていいじゃん。どうせ時間は空いてるし、入ろうぜ。」


 ゼルさんはそう言うと、私の手を握ってそのままお店のドアを開ける。カラン、とドアに取り付けられているベルが鳴る。その音を合図に、店の中にいた女の子達が振り返った。私、思わず身を竦めてしまったけど、でもゼルさんはそんなの全然気にならないみたいだった。フンフン、と鼻歌なんて歌いながら、目当ての瓶が置いてあるところにさっさと辿り着く。そして、瓶を取って私に手渡してくれた。


「コレ、だろ。」
「うん。有難う。」


 それは、本当に透けるようなピンクが可愛らしい瓶だった。どうも中身は香水みたい。シュワッとひと吹きしてみたら、ささやかだけど咲き誇る花の香りがした。いい香り。だけど、こんなに使うかなあ、と思う。私、図書委員だから、普段は香水をつけない。香水の香りが本に移ったら困るもの。私物ならともかく、共有されるものに誰かの香りがついているのって、嫌じゃないかなと思うから。
 私がひとしきり眺めて、それからその瓶をそっと元あるところに戻したら。ゼルさんがちょっと不思議そうな顔をした。


「それ、気に入らなかった?俺は結構いい香りだと思ったけど。」
「ううん、いい香りだと思ったけど。でも、香水って私、あまり使わないから。ちょっとこんなにあっても困るかなあ。」
「あ、そっか。あんまり香水ってつけてないもんな。」
「うん。私図書室にいること多いでしょ。本に香りが移るのもどうかなと思うし、勉強しに来てる人もいるから、集中を乱したくないしね。」
「なるほどね。」


 私が言う言葉に、ゼルさんはふうん、と頷いて。それからまたそのシリーズが置いてある棚を見た。そして、ふと1つの瓶に気がついて、それを手にとった。


「ゼルさん?」
「これなら、いいんじゃねえの?ちょっとさっきのより色が濃くて、杏色だけどさ。」


 尋ねた私にそう笑いかけて、ゼルさんはその瓶を私に手渡した。さっき私が見ていた瓶と、デザインは全く同じ。だけど中に入っているものが違うみたい。さっきの瓶はもっと淡いピンクだったけれど、この瓶はもっと濃いピンク。ラベルを見ると、シャワージェル、って書いてあった。少し蓋を開けて香りを確かめてみると、さっきの香水と同じ香りがする。だけどこれはシャワージェルだけあって、香水よりもずっとささやかで淡いものだった。私は思わずゼルさんを見上げた。


「な、これならいいんじゃん?香水じゃないから匂いキツくないし、でも身体洗う時に使うから、それとなくいい香りするだろうし。」
「うん。そう思う。私、これ買ってくるね。」
「ああ。」
「ありがと、ゼルさん。」


 私がぎゅっとその瓶を抱えて笑うと、ゼルさんは一瞬だけ瞳を細めて、それからにっかりと太陽みたいに笑った。ぽんぽん、と大きな手が私の頭を軽く載せられる。その手が暖かくて、私、とてもドキドキした。


「ねえ、ゼルさん。」
「ん?」
「何だか、私とゼルさんで、ひとつのものを一緒に選んだみたいね。」
「・・・・・・そっかな。そうかも。」


 レジに向かう途中、振り返ってゼルさんにそう言うと。ゼルさんは少しだけ瞳を丸くしたあと、ぷっとおかしそうに笑った。

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天然タラシ