Driving 〜香辛料と刺激物なあなた〜 「もしもし?」 「ああ、俺。今からガーデン出るから。」 「おっけー!!じゃあ、45分の特急だから、7時に駅だね?」 「ああ、でも気をつけろよ?」 「了解でっす!!」 いつもの彼からの帰るコール。 ここのガーデンは駐車禁止で(まだ小さいからそんなにスペースないらしい)、 電車通勤をしているスコールを車で迎えに行くのがわたしの日課。 わたしは夕飯の支度をぱぱぱっと終えた。 習うより馴れろっていうのは本当だわ。 昔は全然ヘタクソだった家事も、最近ではそれなりにこなせるようになった。 そりゃあ、完璧とはいかないけど。 まあ、普通にはこなせるようになったと思う。 「じゃあ、アンジェロ。いいこでお留守番しててね? 旦那様をお迎えに行って来るから。」 くう〜んとわたしを見上げるアンジェロの頭を撫でてから、わたしは鏡の前でちょっと身づくろい。 ヘンなところはない、よね? ちょっとグロスをひいてにっこり笑ってみる。 よし、大丈夫!! *** 最寄の駅までは高速道路使って25分。 ちょっと遠いから、車がないと困るんだよね。 わたしもガーデンにいた頃免許をとった。 最初、みんなして絶対無理とか言った。 それって結構酷くない? わたしだって、運動神経はそんなに悪くないんだからとれるわよ。 そりゃあさ、みんなはラグナロク運転できたりするけど。 そっちの方がおかしいと思うの、わたし。 ラグナロクはさすがに運転できないけど、車くらいなら運転できますよ、わたしだって。 わたしはアクセル踏んで加速をかける。 ホントはね、これって彼との約束破っているんだよね。 いっつも、「気をつけて」とか、「あまりスピード出さないように」とか言われてるんだけど。 でもね、ついスピード出しちゃうの。 急がなくったって、あなたがちゃんと待っていてくれるのわかってる。 十分間に合うんだから、急ぐ必要なんかないのもわかってる。 でもね。 毎日顔を見て、一緒に暮らしてずいぶんたつのに。 すぐにでもあなたに会いたいの。 会えるときは、すぐに会いに行きたい。 一分でも長くあなたを見ていたい。 贅沢かしら、わたし? まるで刺激物みたい。 あなたがいないと、何かが物足りない。 まるでスパイス(香辛料)みたいにわたしを虜にさせる。 スパイスって、いったん使いはじめると、もう使わなかった頃には戻れないじゃない? わたしにとってのスコールもきっとそんな感じ。 あなたを知らなかった頃にはもう、戻れない。 *** 「ただいま、リノア。」 「お帰りなさい。」 7時ちょうどの特急からスコールは降りてきた。 周りの人が振り返って見ている。 それはそうだよね。 だってスーツを着たスコール、めちゃくちゃかっこいいんだもん。 遠くからでもすぐにわかるくらい、目立ってる。 こんなこと言ったら嫌がられるかもしれないけど。 「リノア、鍵。」 そう言って、スコールはわたしに手を差し出した。 「えー?いいよ、スコール疲れてるでしょ? わたしが運転するよ。」 わたしはそう言って、首を振った。 彼といるとき、わたしが車を運転することはあんまりない。 すぐにスコールはわたしから鍵を取り上げて、自分で運転してしまう。 どうしてかなあ。 わたしがそう言うと、スコールはちょっと溜息ついた。 ・・・・・・・そんなにわたしの運転が嫌なんですか、あなた。 一応、安全運転してるつもり、なんだけど。 セルフィとか、キスティスとかだって、何も言わずに乗ってくれるし。 「どうしてもしたいのか?」 「・・・・・・たまにはわたしが運転したっていいじゃない。」 「・・・・・・まあ、たまにはいいか。」 「そうでしょー?ま、まかしといてよ!!」 そう言ったわたしに、スコールがぽつりと「あんまりまかせられなさそうだが」とか 呟いてたけど。 聞こえてますよ、スコールさん? でも、いいんだもん!! 許しましょう、いまのわたしはちょっと機嫌がいいのです。 わたしは車を運転できるのが嬉しくて、いそいそと車のロックを解いた。 *** 車のオーディオをつけると、わたしの好きな曲がかかり始めた。 「あ。この曲いいよねー。わたし結構好きなんだ!!」 「リノア、よく歌ってるもんな。」 「スコールは歌わないよね。」 「・・・・・・・・・。」 スコールはあんまり歌とか歌わない。 いい声なんだから、きっと上手だと思うのに。 もったいないなとわたしは思う。 わたしは歌が好きで、よく口ずさんでいる。 そんなときにスコールと目があうと。 決まって彼はなにか穏やかな笑顔を浮かべていることが多い。 そんな彼の顔を見ると、胸が騒ぐの。 どきどきして、壊れてしまうんじゃないかって思うくらいに。 わたしの歌、あなたも好きかしら? そうだと嬉しいな。 *** うん、順調順調。 スピードも車間距離もばっちりよ。 これでスコールも安心したでしょう。 わたしだってこれくらいできるんだから。 わたしは調子よく運転していた。 このまま快適なドライブが続くと思ってた、のに。 いきなり、ぽつりと、スコールが言った。 「次のサービスエリアに入ってくれ。」 「どうして?このまま帰ったほうが早くお家に着くよ? スコールだって、早く帰ったほうがいいでしょ?」 「ちょっと休憩しよう。」 「どうして?」 わたし、訳がわからないよ。 早く帰りたいんじゃないの? わたしが不思議そうに首をかしげたから。 スコールは少しばつの悪いような顔になった。 その顔がなんだか気になって、わたしはサービスエリアへと入っていった。 *** 「いったいどうしたの?」 とりあえず、車を止めて、わたしはスコールに尋ねた。 スコールはちょっと切なそうな顔をしていた。 そんな彼の表情にわたしは、くらっとした。 そしたら。 「!!」 いきなり、彼の唇が重なる。 甘く、ついばむようにそっと何回も重ねて。 「・・・・・・いきなり、なあに?」 「・・・・・・なんだかしたくなったから。」 「・・・・・・それだけ?」 赤くなった頬を隠すようにちょっと彼を睨む。 そうすると、彼は溜息をひとつついた。 「わかってやっている・・・・んじゃないのは、知ってるけど。 でも、たまに罪だよなって俺でも思うぞ?」 「・・・・・・・なんのこと?」 「・・・・・・・別にいい。」 「気になる。教えてよ? いけないことなら直すようにするから、ね?」 すると、彼は困ったように笑った。 そのへにゃっとした笑顔、わたしは大好き。 多分本人気づいてないんだろうけど、その顔って、わたし以外の前ではしないんだよ? それがね、わたしにとってどんなに嬉しいか、わかる? 誰も知らないあなたのことを、わたしだけは知っている。 「いいんだ、そんなリノアが俺は好きなんだから。」 そうやってあなたは。 いっつもわたしのことを虜にするんだから。 これ以上好きにならせてどうするの? 「スコールってばズルイよ。 わたしばっかりあなたのことが好きすぎて、おかしくなっちゃう。」 わたしがそう言うと、スコールはいつものように意地悪そうに笑った。 「もっとおかしくなってくれよ。」 そう言うと、今度はさっきなんかよりもっと深く口付ける。 片手であごを固定されて、もう片方の手はわたしの髪を梳いて。 あなたの大きな手がわたしに触れる。 そしてわたしを揺らすの。 わたし、あなたがいない頃ってどうやって暮らしていたかしら? そんなに昔のことではないはずなのに、今ではもう思い出せない。 まるで、スパイスだわ。 使わなかったころの味には戻れないの。 あなたのキスは、わたしを劇的に変える。 あなたの大きな手が、わたしを違う色に染め替える。 きっと毎日、わたしはあなたによって変わっていく。 そして、そんな毎日が愛しい。 きっとこれからもずっとそうなんだわ。 end. |