告白 〜変わり行くキモチ〜










アタシはいつも楽しい毎日を送っている。
このままで十分楽しいのに。










それなのに、そのままでいることはできない。
みんな変わっていく。
アタシは、変わりたくないって思うのに、そんなアタシの気持ちを置き去りにして。










いつまでもこのままでいたいと思うアタシは、まだ子供?
オトナになるためには、変わらなくてはいけないの?










だったら、アタシは。
オトナになんてなりたくないって思うのです。










***










あの戦いが終って、アタシたちは一月の休暇をもらった。
今まですっごく忙しかったし、なんだかんだで結構疲れてたアタシ
にとっては、それはかなり嬉しかった。
学園長やるじゃん!!って気持ちでいっぱいだった。
そしてアタシはやっぱりトラビアに行くことにした。










ずっと、トラビアのことは気になっていたんだ。
戦いの最中も、ずっと心配だった。
アタシも忙しかったし、とりあえず戦いの方を何とかしないといけない
って思ったから、それほどトラビアとは連絡とっていなかったんだけども。
でも、今はとりあえず目先に大変なこともないし、だからトラビア復興の
お手伝いでもできればなあ、なんて思った。
やっぱり、トラビアはアタシの大事な故郷だから。
心の中で、密やかに思うこともあるけど、それでもトラビアのことが心配なのは
変わりない。










トラビアは北の地方だから、どこよりも雪が舞うのは早い。
ちょうど今の時期だったら、どこよりも早く雪景色を楽しめるはずだ。
みんなにも見せたかったけど、とりあえず来れそうなのはアービンだけだった。










まあ、いいよね。
戦いは終ったし、これからいくらでもみんなで遊びに行けるよね。










でも、少し胸が痛いこともある。
それは、リノアのことだ。
リノアは、ガーデンからの外出は認められていない。
戦いが終って、唯一ティンバーへ行っただけ。
それ以外は息を潜めて、ガーデンに隠れていなければならない。
傍にはスコールがいるけども。
でもそれでもリノアのこと考えると、胸が痛い。










リノアは、笑ってアタシたちに、「お土産話楽しみにしてるから!」って言った。
話なんかじゃなくって、ホントはリノアも連れて行きたいんだよ?
そう言ったら少し驚いて、それから嬉しそうに笑ってありがとうと言った。
でもね。
そんなリノアの笑顔は、初めて出会った頃のものとは全く違っていて。
こちらが切なくなるような、繊細な笑顔だった。










昔は、あんな風に笑わなかった。
どこまでも明るく陰りのない笑顔が、アタシは大好きだったのに。
だけど、やっぱり変わらずにはいられないんだ。
だって、リノアは魔女になってしまったから。
それが、すっごく悔しいし、切ない。
アタシたちと会わなければ、リノアはもしかしたら今もあの頃のまま笑っていられたんだろう
とか、そういうことをやっぱり考えてしまう。
これは、口に出しては言わないけれども。










だって、アタシがそんなことを思ったらいけない。
一番そのことが辛いのは、きっとスコールだ。
でも、スコールはリノアのために頑張っている。
だから、アタシは言わない。
これからどうなるか、三ヵ月後の世界会議が終ってみないとわからないけれども。
でも、アタシは二人の味方だから!!










それでも、アタシ少し思うことがあるんだ。
みんな変わっていく、それが大人になることなのかな?って。
大人になるためには、変わらなくちゃいけないのかなって。
だったら、いつまでも変わりたくないって思うアタシは。










アタシは、ただの我儘な子供なのかもしれない。










***










「セルフィー、おっかえりー!!」
「マリアナ、ただいまー!!」










トラビアに着く日を連絡しておいたら、マリアナが待っていてくれた。
マリアナはアタシの親友。
ずっと一緒だった、アタシの理解者。










「セルフィーが帰ってくるって、みんな大喜びしてたんよ!!」
「ホンマ?それは嬉しいわ〜。
結構バラムから遠いから、遅くなってしもたんやけど。」
「ええよー。来てくれただけで嬉しいわ。」










マリアナが車で迎えに来てくれたので、それに早速乗り込んだ。
肌を刺すような冷気と、けぶる雪景色が、アタシがトラビアにいるということ
を実感させる。
マリアナはエンジンをかけると、早速ガーデンへと向かった。










「こんなにもう雪が降ってるんやなー。」
「今年はちょい早いんよ。」
「こんなに雪が多くて、大丈夫なん?」
「あははは、なんとかな、宿舎とかは再建できてん。
それにみんな慣れとるしな。」










吹雪く雪は周りを閉ざす。
ガーデンは冬の間、孤島のようになる。
でも、そんな環境だったからだろうか。
トラビアの人間はやたらたくましい。










雪がなんぼのもんや。
それぐらいでへこたれるようなうちらではないねん!!
そう言うみんなの声が聞こえてきそうだ。










***










アタシたちがガーデンに着くと。
みんなは作業中だった手を休めて挨拶してくれた。
アタシも嬉しくって、挨拶を返す。










宿舎に着いて、マリアナに個室に案内された。
そこはガーデンの来客用個室だった。










「あれー、アタシマリアナと一緒じゃないん?」










てっきりマリアナと一緒に過ごすつもりでいたアタシはちょっとびっくりした。
マリアナは申し訳なさそうに笑う。










「あのなー、セルフィには言ってなかったんやけど・・・・。
実はな、彼氏が出来て一緒に住んどるのよ。」
「うっそ、マジ!?」
「もう三ヶ月くらいになんのかなー。
だから、セルフィは個室のほうがゆっくり出来るやろうし、こっちにしたんよ。
あかんかったかな?」
「ううん、平気やで!!
そっかー、ついにマリアナにも春が訪れたんかー。」
「あははは、ありがとう、セルフィ。
セルフィ忙しそうやったから、報告しそびれててごめんな。」
「かまへんよ、そんなん。」










マリアナにも彼氏が出来たんだ。
それはよかったなーとアタシは思う。
アタシの好きな人が幸せな姿を見るのは、アタシにとってもすごく嬉しい。
みんな幸せになって欲しい。
いつもアタシはそう思ってる。










でも、ね。
どうしてかな。
アタシ、何か置いていかれたみたいな気持ちもするんだ。










一年前は、マリアナと「彼氏なんていらんよねー」と笑ってたのに、マリアナには大事
な人ができたんだね。
それは、嬉しいけど、でも、否応なく人は変わっていくことを見せ付けられたような気
もする。
この年齢になると、やっぱりみんな彼氏とか出来て、可愛く変わっていく。
リノアもそうだし、実はスコールもそうだった。
前よりずっととっつきやすい人に変わった。
みんなそうやって素敵に変わっていくのに、アタシは。
やっぱり変わりたくないって思うんだ。










夜もふけてあたりが静まると、ここでは雪がさらさらいう音が聞こえる。
アタシはその音を聞くのが大好きだった。
なのに、どうして。










どうして今のアタシは泣きそうになっているんだろう。










***










あちこちから響く工事の音。
会議室では喧々諤々の議論の声。










これを聞いていると、トラビアはホント大丈夫なんだなって思う。
トラビア人はやっぱりしぶとい。
ちょっとやそっとじゃへこたれない。
今、トラビアガーデンでは、ガーデン生徒、教師たちが一丸となって復興作業に
勤しんでいる。
みんなが各自得意な分野で働いているという感じだ。










「すごいね、やっぱりトラビアやわ。」
「そうやね、でも最初はやっぱり大変だったんよ。
こんな風になったことなんて今までなかったし、危うくパニックになりかけたな。」
「でも、生徒会が頑張ってたんやろ?」
「俺らだけやないよ、みんながな。」










生徒会長は頭脳派って感じの人だったのだけれども、しばらく会わないうちになんだか
たくましくなったような気がする。
でもそれを言ったらみんなそうか。
マリアナも、ちっさい子たちも、生き生きと働いている。
その姿を見て、アタシは。










「アタシな、みんなはまだあの事件のせいで落ち込んでるかななんて思ってたんよ、実は。
ごめんな。」










アタシは少しうつむきながら、生徒会長に言った。










みんなは強いね。
アタシはダメだったよ。
アタシは未だにあの事件を引きずっているんだ。










戦いの間はよかったの。
しなきゃならないことがてんこもりで、考えることを先延ばしに出来たから。
でも、今落ち着いてみると。
アタシの心は、あのときの痛みをそのまま抱えてる。










こうして復興していくトラビアを見ても。
でも、アタシの思いはやっぱり、ミサイル基地で飛んでいくミサイルを見上げたあの
ときのキモチに還っていく。
あのやりきれない後悔と懺悔の気持ちから抜け出せない。
あれほど、自分が嫌いだったことはなかった。
あれほど、自分がいなくなりたいって思ったこともなかった。










アタシはトラビアに来たのは、もちろん復興が心配だったって言うのもあるけど。
でも、ほんの少し、心のどこかで、癒してもらいたかったってのもあるんだ。
みんなが落ち込んでいたら、励まそうとか、そうやって自分もトラビアのために役に立てる
ことをして癒されたかった。
だって、そしたらアタシの失敗をなしにできるんじゃないかとか思ったんだ。
死んでしまったみんなも、アタシを許してくれるんじゃないかとか、思ったんだ。










そうなの。
アタシは、自分のことしか考えてなかったの。
だから、こうして自分たちで復興しつつあるトラビアを見て、とても寂しいんだ。










アタシが通っていた頃のガーデンは、もう帰ってこない。
アタシの覚えているガーデンは、アタシの記憶に残るだけ。
アタシがいなくても、トラビアはきちんと復興している。
アタシがいなくても。










もう、ここにはアタシの居場所はないんだ。
そういうことを、復興作業を見ていると思い知らされる。
子供のように、変わらないで、と泣き叫ぶ自分がいる。










そんなアタシが、アタシは。
世界で一番キライ。










「俺らは、まあ毎日生活していかなきゃならなかったからな。
それで精一杯で、落ち込んでる暇なんてなかったっていうのがホントやな。」










生徒会長はそう言うと、豪快に笑った。
そういう強さが、アタシは羨ましいよ。










雪が解けて、その後には何も残らないように。
こんな気持ちを抱えているアタシも、どこかへ消えてしまえばいいのに。










吹きすさぶ雪が、アタシの心を締め付ける。










***










「・・・・・・もしもし?スコール?」
「・・・・・・なんだよ。」










アタシは、スコールに電話をかけた。
リノアと話をしたかったから。
でもリノアの居場所を知っているのはスコールだけ。
だから、スコールに電話するしかなかったのだ。










ホントは、こんな風に落ち込んでいるときに、スコールの声はあんまり聞きたくないんだけど。
必要なことしか言わないし、簡潔にしゃべるから、自分の情けなさを思い知らされるような気
になるんだよね。
アタシの言うことをきちんと聞いてくれるのはありがたいんだけど、でも帰ってくる言葉は的確
すぎて、時々心に痛いことがある。










「リノア、いる?」
「ああ、いるぞ。」










そう言うと、ちょっと遠くなった電話口から、スコールの「電話だぞ」という声がした。










「もしもし?」
「リノアー、元気にしてた?」
「セルフィ!!うん、もちろん。セルフィも元気そうだね。」










電話越しに聞こえるリノアの優しい声。
アタシは少しほっとした。
そして、アタシに楽しんでる?と聞かないリノアの優しさに感謝した。










分かっちゃったのかな。
アタシが不安な気持ち抱えているの。
アタシが、居場所がないように感じているの。










「リノアさ、ガーデンはどう?」
「え?」
「いや、リノア暇じゃないかなあ、なんてね。」










リノアもガーデンには居場所がないと思う。
リノアはあくまでも隠れていなければならないから。
それで、リノアは平気なの?
リノアも、こういうやりきれない気持ちを抱えているんじゃないのかな。
そう思ったんだけど。










「わたし、毎日楽しいよ。スコールが一緒にいるし、一人じゃないから。
それにゆっくり本が読めて嬉しい。」
「そっかー、それはよかったねえvv」
「心配してくれたの?ありがとう。」










そう言ってリノアは笑った。
だけど、アタシは。
アタシはなんて。










心の中に抱えてるキモチを隠して、わざと明るく振舞った。










「アービンこっち来るって言ってたのに、全然来ないんだよねー。
嘘つかれたんかなあ、とか思うんだ、アタシ。」
「ええ?そんなことないと思うけど・・・・・。」










そう言うと、リノアは後ろを振り返ってスコールにそのことを告げたみたいだった。
いきなり電話口からスコールの声がする。










「もしもしセルフィ?」
「何、スコール。何かあったん??」
「アーヴァイン、多分トラビアに行くの無理だぞ。」
「なんでそんなことスコールが知ってるん?」
「アイツ、今ガルバディアガーデンで強制的に勉強させられてるからな。
アイツだけ、一ヶ月休暇なくなったんだ。」
「・・・・・・・マジ?」
「俺も今日聞いた。
あいつだけSeeD資格ないだろう。休暇明けにSeeD認定するために、今単位取得に
明け暮れてるらしい。」
「・・・・・・そうだったんや・・・・・・。」










アービン、また適当に口からでまかせでも言ってたんじゃないかとかちょっと思ってたんだけど。
アービンにも見捨てられたのかとか思ってたんだけど。
そうじゃなかったんだ。
来たくても来れなかったんだ。










アタシ、今ちょっとおかしいのかもしれない。
こんな風にマイナス思考のアタシはアタシらしくない。
でも、そんな風にしか考えられない。
アタシ、どうしちゃったんだろう?










その後はまたリノアと代わってもらって、適当におしゃべりして。
そして電話を切る。










「・・・・・・・外、またすごい吹雪やなー・・・・・。」










窓に叩きつけるように、激しい雪が舞う。
それを眺めて、アタシは。










涙が出て止まらなかった。










アタシは、いったいリノアに何を期待してたの?
リノアは辛い生活を送っているっていう答えでも望んでた?
居場所がなくて辛いのは自分だけじゃないって、安心したかった?










そんなことを考えるアタシは、なんてズルイんだろう。
どうして自分のことばかり考えているんだろう。
アタシはなんて、子供なんだろう。










リノアのようになりたい。
ああいう風に、誰も恨まず穏やかに自分を受け入れられる人になりたい。
だけど、その一方で、まだ変わりたくないって思っている自分もいる。










トラビアの冬は長い。
一度も日が差さない日も結構ある。
閉ざされた室内は、考え事にはむかない。
気持ちが、迷い小路に入り込んでしまうから。










***










「もっとここにおればええのに。」
「ウン、でもまた来るよ。
アタシ、ここにいてもあんまり役に立たないしさ。」
「そんなことあらへんよ?」
「でも、それでええんよ。みんなの力で再建すべきやと思うし。」










マリアナに、ガルバディアに行くということを告げたら、すっごくびっくりされた。
まあ、それはそうだろう。
だって、当初の予定では一月まるまる滞在するつもりだったのだから。
でも、アタシには一月もここにいるのは辛かった。
何もすることがないからか、考えはどんどん暗い方へと向かっていく。
そんな自分に神経すり減らすのはもう嫌だった。










「・・・・・・あんな、セルフィ。なんかセルフィ変なこと考えてない?」
「なんで・・・・?」
「ここの冬はキツイやろ。この雪景色を見ていると、余計なことまで考えてしまうから。」
「そうや、ね。」










マリアナは吹雪く外を眺める。
あたしも、暖炉にあたりながらそんな彼女を見た。










「忙しかったから、セルフィとあんまり話できへんかったけど。
それでよかったと思ってる自分もいるんだ。」
「・・・・・・・マリアナ?」
「セルフィのせいではないねんけど。でも、あんた見てると昔のことを思い出してしまうねん。
それがうちには辛いんやわ、まだ。」
「・・・・・・そっか。」
「セルフィはきっと、変わっていくここを見るのが辛いんやろ?
自分の故郷が変わっていく姿を見るのはあんまり気分のええもんではないしな。」










マリアナはそう言った。
あたしもそれに頷き返す。










「アタシ、ずるいんだよ。
復興していくここを見て、喜ばなきゃいけないのに、それでもアタシは。
いつまでも昔のまま変わって欲しくないとか思ってしまうんや。」
「今の建物は全然昔とは違うからな。でも、みんな昔を思い出させるようなものは
残しておきたくなかったんよ。
みんな、気にしてない振りしてるだけやねん。この痛みから目をそむけてるだけやから。
うちもそうやわ。」
「・・・・・・・そうなんや・・・・・。」
「あのときのこと、まだ思い出したくない。未だにうなされる子らもようさんおる。
でもそこで立ち止まってるともっと辛いから。
だから、ムチ打って気張ってるんや。忙しかったら、余計なこと考えんですむしな。」
「うん。アタシもそうやったよ。」
「セルフィの気持ちはわかるよ。でも、あんたはいつもここで暮らしてるわけではないから。
だから余計に変わっていくのが辛いんやろ。
うちらは、反対に、変わらなかったら辛いんやわ。いつまでもあの悪夢から抜け出せないような
気がしてな。」










アタシは、ここから離れてしまったから。
いつもここで暮らしているみんなの気持ちはわからない。
同じように、みんなにはアタシの思っている気持ちはわからないだろう。
遠く懐かしい故郷が変わっていくことに対する恐れとか。










分かり合えないけど、でも絶対にゆるがない気持ちもある。
アタシは、本当にトラビアのみんなが大事。
みんなには幸せになって欲しい。
そうなってくれたら、アタシの変な感傷なんか、どうでもいいと思うんだ。
そんな感傷を吹き飛ばすほど、幸せになってもらいたい。










きっと、アタシたちがこの痛みを乗り越えるには、時間が必要なのかもしれない。
時間が、この痛みをきっと和らげてくれる。
だから、それまでは。










「また、アタシここに来るよ。
再建出来たときは絶対来る。」
「うん、待ってるわ。
春になったら、きっとこの新しいガーデンのことも気に入るで?」
「うん、そうだといい。」
「うちもな、セルフィはバラムに行ってしまって寂しかったで?
でも、セルフィバラムに行って、ちょっと変わったような気もするわ。
なんとなく、落ち着いたっていうかな。
そうやってみんな変わっていくねんな。」










マリアナにそう言われて。
でも、アタシにはよくわからなかった。
だって、アタシはあんなに変わりたくないって思っているのに。
そんなアタシが、変わった?










アタシ、わからないよ。










***










なんでガルバディアガーデンに行こうと思ったのかわからない。
でも、アタシには他に行くところがなかった。
急に予定を繰り上げたから、バラムに帰ればきっとリノアやスコールが心配する。
彼らにこれ以上、心配をかける訳にはいかない。










でも、アービンは優しいから。
アービンならきっとアタシを迷惑に思ったりしないと思うから。
だからかな、と思った。










でも、ガルバディアガーデンに着いて、アタシはしまったと思った。
まだガルバディアガーデンは体制が整っていないということもあって、一般生徒たちは
通ってきていない。
もちろん、教職員たちもほとんどいないと言ってよい。
アービンに面会したくても、もしかしたら出来ないかもしれない。










「・・・・・・・はー・・・・、アタシってば迂闊・・・・・。」










アタシは荷物を抱えて、ガルバディアガーデンの中央エントランスに座り込んだ。










大体さ、このガーデンめちゃくちゃ広くって、昔来た時も迷った覚えがあるんだよね。
そんなところにいきなり来るなんて、アタシも無謀だよね・・・・・。










そんなことを考えていると、ふと目の端に女の人の姿を捉えた。
今まで誰にも会わなかったし、ここでこの人を逃したら絶対アタシ困る!!
そう思って、アタシはその人のところに駆けて行った。










「あの、アーヴァイン・キニアスくんに面会に来たんですけれども。」
「あなたは?」
「バラムガーデン所属SeeDの、セルフィ・ティルミットです。」










その女の人は、淡い金色の巻き毛の、とっても綺麗な女の人だった。
そして、互いに自己紹介をして、びっくりした。
この綺麗な人は教官で、これからアービンの授業に向かうところだったらしい。
アタシは、自分が本当にラッキーだと思った。
ここでこの人に会えなかったら、きっとアタシはどうすることもできずに途方に暮れてただろう。










この綺麗な人、ボルガン先生は、なんだかすっごく大人な女性で。
なんとなくキスティスを思い浮かべさせる。
ただ、キスティスは結構中身は子供っぽいけど、この人はそんなことなくって。
アタシと話していても、はしばしに落ち着いた大人の風格が感じられる。










アタシ、こういう女性好きだ。
きちんと自分の足で立っている女性が好き。










教室に着くと、そこにはアービンがいた。
ボルガン先生の、「キニアスくん、面会よ。」との声に、「えー、誰?」とか言ってる懐かしい
声がする。
アタシはひょっこりと顔を覗かせた。
そしたら。
アービンは一瞬すごく驚いた顔をして、それからすっごく嬉しそうに笑った。










「え、セフィ!?
どうしてここに〜!?」
「へっへっへ〜、アービンが約束破るのがいけないんやからね!!
アタシ、トラビアで待っとったのに。」
「あ〜、ごめん。
まさか、僕もこんなことになるとは思ってなかったからさ〜・・・。」
「うん。アタシも聞いてびっくりしたよ〜。」










こんな風に普通に話せるのが嬉しい。
アタシ、結構追い詰められてたみたい。
アービンは、アタシと会えて本当に嬉しい?
それだったら、アタシもすっごく嬉しいよ。










だって、そうだったなら、アタシはここにいていい人間なんだって思えるんだもの。










***










ボルガン先生が休講にしてくれたおかげで、アタシたちは二人っきりになった。










「でも、本当にびっくりしたよー。
僕、休暇終るまで全然会えないと思ってたからさ〜。」
「うーん、スコールからアービンが休暇なくなったって聞いてな、なんか可哀想になっちゃって
さ!
アタシくらい陣中見舞いにでも行ってやろうかなと思ったわけ。」
「そっか〜。
でも、僕本当に嬉しいよ。ありがとうね。」










アービンは、そう言って、本当に嬉しそうに笑った。
なんだかその顔が、アタシの知っている彼のいいところが凝縮されたみたいで、アタシはちょっと
どきりとした。










そんな風に、無邪気に喜ばないでよ。
アタシは、アービンのことなんか考えてなかったんだよ。
ただ、自分が寂しいから、ここに来たんだよ?










アービンに優しくしてもらえるほど、いい子じゃないんだ、アタシ。










アタシは、そんな自分の感情をごまかすように話題を変えた。










「あのボルガン先生ってホント素敵だよねー!
優しいし、いいなあ。アタシ憧れるよ。」
「そうだね。」










そう言ったアービンの顔は、なんだか昔を懐かしんでいるかのようで。
さきほどの二人のやりとりからも醸し出されていた雰囲気とあいまって、アタシにひとつの
確信を抱かせる。










「・・・・・・・アービン、昔ボルガン先生のこと好きだった?」
「そうだね。昔付き合ってたしね。」










アタシが冗談みたいにそう言うと。
アービンは穏やかに肯定した。
そんなアービンは、アタシがいままで見たことない男の人の顔をしていて。
アタシは言いようのない不安に襲われる。
アービンまで、アタシを置いていってしまうの?
アタシ、ひとりぼっち?
そんな動揺を隠すように、アタシは普通のそぶりをする。










「ふうん。」
「・・・・・・・妬ける?」
「あほか。んなことあるわけないやん・・・・・!!」
「ないの?残念だな〜。
僕はセフィのことが好きなのに。」










普段の冗談みたいに、アービンがさらりと言ったから。
アタシには最初はわからなかった。










「あ、ありがとう。
アタシもアービンのことは好きだよ?」
「そうじゃなくってさ。僕が言いたい気持ち、わかった?」










アタシ、てっきり友達や仲間として好きなんだって言われたんだと思って。
だからそういう風に答えたんだけど。
それは違ったみたい。
だって、目の前のアービンは、本当に真剣な顔をしてる。










「僕は、セルフィのことを特別な女の子だと思ってるよ。
女の子として、好きだって言ったんだよ?」










なんで?
なんでそんなこと言うの?
目の前のアービンは、アタシが知らない男の人みたい。
みんな、そうやって変わっていくの?
アタシも、知らないアタシに変わっちゃうの?










嫌。
怖い。










「アタシ・・・・・・・。」










震える声で答えようとすると、アービンはそれを止めた。
そして穏やかな瞳で微笑む。










「セフィは、僕のことそんな風に考えたこともないでしょ?
だからいいんだよ、無理して答えださないで。
ただ、僕がそういう風に思ってるんだって、そのことだけ覚えててくれればいいから。」










そんな風に大人みたいな笑い方、どこで覚えたの?
アタシ、そんなアービン知らないよ。
どうして、みんなしてアタシの知っているままでいてくれないの?
どうして、みんな変わっていってしまうの?










置いていかないでよ・・・・・・!!!










アタシは俯いて唇を噛み締める。
そうしないと、堰をきったように泣いてしまいそうだったから。










こんなアタシのどこがいいの?
こんないつまでも自分勝手な子供のアタシの、どこがいいの?
アタシは、アタシがキライ。
ボルガン先生みたいな、あんな素敵なひとと付き合ってたアービンが自分のことを好きだ
なんて信じられない。










「セフィ?どうしたの?」










ずっと俯いて黙ったままのアタシに、アービンは訝しそうに尋ねる。
その声音も、アタシのことを気遣っているんだなということがわかって。
アービンは優しいんだということがわかる。










「・・・・・・優しくなんてしないで。」
「・・・・・え?」
「アタシ、優しくしてもらえるようなコじゃないんだよ・・・・!!」










アタシは、ズルイ。
いつまでも変わりたくないくせに、置いていかれるのも嫌で。
こんな風にアービンに当たってどうするの?
アービンの優しさに甘えてどうするの?










アービンの気持ちに答える気なんかないくせに。










「ああ、セフィ泣かないで。」










アービンはアタシの顔を覗き込むと、アタシの涙を拭った。
アタシは、それのせいか、余計に。
涙が止まらなかった。
止めなくちゃって思ってるのに、止められなかった。










「ひ・・・・・っく、・・・・・うえ・・・・・・。」










唇を噛み締めて泣くアタシを、アービンはそっと抱き締めた。
まるでお父さんみたいに。
そして、優しく背中を撫でる。










「そんなに唇を噛んだら、破れちゃうよ?
我慢しないで泣いちゃって?」
「・・・・・・・やだ・・・・・。
アタシ、そんなに迷惑、かけられな・・・・・っ。」
「迷惑じゃないよ、僕は嬉しいんだから。」
「アタシのエゴ、なんだもん・・・・・・。」
「僕だって、エゴだらけだよ。
今泣いて欲しいと思うのだって、僕のエゴだし。」










アービンの穏やかな声がアタシの体に染み渡る。
アタシの冷えた心を暖めるみたいに。










「・・・・・・・アタシね、変わりたくないの。」
「そう。」
「でも、みんな変わっていくの、アタシの気持ちを置き去りにして。
トラビアに行っても、変わっていくトラビアのこと喜べないの、アタシ。」
「そうだね。」
「アタシ、自分のことしか考えてないの。
そんなアタシは嫌なのに、それでもアタシは変わりたくないとかまだ思うんだ。」










泣いているのを見られたからか。
アタシは今までずっと心の奥底に突き刺さっていた思いをぶちまけた。
アービンは穏やかな顔をして聞いてくれている。
アービン、ごめんね。
でもアタシ辛かったんだ。
一人でこんなことばっかり考えてて、辛かったんだ。
誰かに、アタシの気持ち、聞いて欲しかったんだ。










アービンはアタシの背中を撫でながら、ゆっくりと話し始めた。










「いいんだよ、無理して変わろうとしなくて。
セフィがそう思うってことは、まだセフィにはその時期が来ていないだけの話なだけなんだから。」
「でも、アタシ置いていかれるのは嫌なんだ。」
「じゃあ、セフィは僕たちが立ち止まっていたら、置いて先に行っちゃう?」
「そんなことしない!!」
「でしょ?
僕たちだってそうだよ。それにね、待ってるのって別に迷惑じゃないよ?
スコールがリノアを取り戻しに行くこと決めるまで僕らは待っていたけども、それは嫌なものだった?」










アタシは考える。
あの時、いつまでもぐじぐじスコールは悩んでて。
多分スコールのことだから必要以上に色々考えすぎてたんだろうと思って。
大事な仲間だったから、そのことがわかってたから、だから待つのは苦痛じゃなかった。










アービンはそんなアタシの顔を見て、にっこり笑う。










「ね?嫌じゃなかったでしょ?」
「・・・・・・・・ウン。」
「それにね、僕だって自分のことしか考えてないよ?」










おどけてそう言うアービンに、アタシは首をかしげる。










「だって、僕は自分が告白できればいいやと思ってた。
セフィがそれ聞いてどう思うかなんて考えなかったよ?」
「・・・・・・」
「それに、僕は今嬉しいし。これ、すっごく自分勝手だけどね。」
「なあに?」
「セフィが、僕に悩み事打ち明けてくれたこと。
リノアやキスティスや、他の友達とかじゃなくって、僕に言ってくれたこと。
それだけで僕は本当に嬉しい。」
「・・・・・・人が本気で悩んでるのに、それはないんやないの?」










アタシが、むすっとアービンに言うと。
アービンは少し楽しそうに笑った。
そんなアービンの様子に、アタシも笑ってしまう。










ありがと、ね。
アタシを一人ぼっちでないって思わせてくれて、ありがとう。
アタシのこと好きと言ってくれてありがとう。
アタシを必要としてくれて、ありがとう。










「・・・・・・アタシ、子供でもいいんだよね?
ずるくてもいいんだよね?」










ちょっと笑いながらアタシが言うと。
アービンはほっとしたように笑う。
そしてアタシを離すと、優しく頭を撫でた。










そんなアタシでもいいのなら。
アタシは、まだこのままでいたい。
だから、アービンには悪いけど。










「・・・・・・・まあアービンのことは嫌いじゃないけど、でも
付き合いたくはないかなー、今は。」










アタシがそう言うと。
アービンは、がっくりと肩を落とした。










「・・・・・・・はっきり言いますね、セルフィさん。」
「だって、それがホントの気持ちなんだもん。
アービンにはホントの気持ち言っときたいし。
こんなアタシはキライ?」










アービンは、オーノー、と言った風に手を上げた。
それから、首をふって、苦笑した。










「・・・・・・むちゃくちゃ足元見られてる気がする・・・・・。」
「ま、待っててよ。そんなに長い間じゃないと思うし!!」
「!!それってどういう意味!?」
「秘密。」










・・・・・絶対僕振りまわされてるよ・・・・・とかアービンが呟いてた。
アタシはその姿を見てこっそり気づかれないように笑った。










アタシ、アービンのこと好きだよ?
でも、まだこのままでいたいんだ。
きっと、もう少し経ったら、きっとこのままじゃ物足りなくなるって思う。
だってアタシ、今こういう風に二人で話ししててちょっとドキドキするんだもん。
でもね、この気持ちともうちょっとゆっくり付き合った方がいいとも思うんだ。
そうしたら、アタシもきっと変わる勇気が持てる。










だから、待ってて?










「・・・・・・待てませんか、アーヴァインくん。」
「・・・・・・待てますよ、そのくらい。
今までだって待ってたんだから。」










ぶすっとそう言うアービンの顔が面白くて。
アタシは大笑いした。
アービンはますますぶすっとした顔になる。










「・・・・・・・僕いたぶって楽しんでない?」
「そんなことないよ?」
「・・・・・・そういう風に見えるんだけど?」
「気のせい、気のせい。」










アタシはそこまで言って、アービンのほっぺたにキスをした。
アービンは頬を押さえて真っ赤になった。
そして、魚みたいに口をぱくぱくさせている。










アタシはアタシだ。
変わりたいって思う自分も、変わりたくないって思う自分もアタシの一部。
どっちにしたって、それはアタシの望んだこと。










だったら、アタシはこうやって宙ぶらりんでいよう。
そうしていれば、答えは出る。
今焦って答えを出さなくてもいいんだ。
だって、アタシにはまだたっぷり時間があるんだから。










きっとそんなアタシでも、みんなは見捨てない。
みんなが見捨てても、アービンは見捨てない。
それがアタシの力になる。










そうやって、変わっていくんだ、きっと。










アタシが笑うと、アービンも笑った。
きっと近い将来もそうだろうと思う。
そうだといい。
それなら、アタシはきっと変われると思うから。









end.