Dear my baby




バタン

扉を開けたと思ったら、強い視線が突き刺さってきて、スコールはたじろいた。
腕にすやすや眠る愛娘を抱えて、リノアがじーーっと、見つめていたのだ。
玄関先で、しかも、座り込んで、じとっとした目で。
黒曜石に映るのは、かすかな苛立ちと、不満、それと、喜び?
実に奇妙な表情を、リノアはしていた。
そして、その理由を、スコールは知っている気がした。
いや、もちろん、知っている。

「……悪かったよ。」

何も言わないうちに謝りながら、手に持った紙袋を差し出してくるスコールを見て、リノアは、ますます頬をふくらませた。
スコールが差し出すソレは、自らが彼に頼んだ買い物の品に違いない。
娘を片腕で器用に支え、空いた片手で紙袋を受け取りながら、リノアは眉間によせていた眉を解いた。

「……もうっ!スコールってば、せこいんだから。」

微苦笑を浮かべて、立ち上がるリノアに、部屋へと続くローカを歩きながら、スコールは苦笑した。
もともとリノアが怒っているポーズをしていることくらいとっくに気づいていて、リノアがまた、謝って見せたスコールの演技に気づいていることを知っていたからだ。

「ほんとに悪いって思ってるのーー?」

覗き込んでくるリノアの腕の中から、ほかほかと温かな存在を抱え上げながら、スコールは微笑(わら)った
片手で、見下ろす格好になるリノアの黒い頭を、コンと叩く。

「お前こそ、嬉しいなら、嬉しいって言えよ。」

リノアは、スコールが羽織ったままの黒いコートを、どうにか脱がそうと格闘しながら、歩き続けるスコールを追って、もうっ!と唇を尖らせた。

「嬉しいよっ!もうぅ、すっごーーくっ!!……けど、どうして言ってくれなかったのよーーっ!」

後半、愚痴交じりになったリノアに、コートを差し出しながら、ベージュ色の革張りのソファに座り込んだスコールは、片眉を上げた。
柔らかな淡いピンク色のカーテンがかかる部屋は、暖房が効いているだけではなく、とても暖かく感じる。

「あぁいうことは、本人たち次第、だろ?……どうせお前に言ったら、ひっかきまわすと思ったし。」

「ひっ!」

っかきまわすとは何よっ!
リノアはスコールのコートを皺にならないように、ハンガーに通しながら、唸った。
一瞬、自分でも確かにそうかもと思いそうになったのが、余計にムカツク。
ソファに座った旦那さまは、妻の怒りもどこ吹く風。黒髪の娘を静かにあやしている。
その手つきは、いつかが嘘のように滞りない。

「で、アーヴァインとセルフィ、いつ結婚するって?」

じっと見つめているリノアに気づいているのかいないのか、娘に落とした視線そのままに尋ねてきたスコールに、リノアは、はぁっと、溜め息をついた。

「……うん。あのね〜、来月だって。ほら、セルフィ、もう安定期に入ってるし。なるべく早く、だって。」

「あぁ、そうか……つわりも、もうないのか。」

ふと、顔をあげて、頷くスコールに、リノアは肩をすくめそうになった。
結局、素直にスコールの質問に応えている自分が可愛いやら、切ないやら。
(ん〜、でも、セルフィも言ってたけど、スコールたぶん、私のことも考えてセルフィとアーヴァインのこと言ってくれなかったんだろうしな〜。)
最近スレ違い気味だった、セルフィとアーヴァインのために暗躍していたスコール。
リノアには何も説明しなかったのは、2人のことを慮ったからだろうし、リノアに余計な心配をさせないためだろう。
(あーーっ、もうっ!)
仕方がない。

「……許しましょう。ゆるしましょう!」

一人ごとにしては大きな声でそう言って、ソファに座り込んだリノアを、スコールは可笑しそうに眺めた。

「それはどうもって、言わなきゃダメか?」

「……バカじゃないの。」

からかわれてると感じたリノアは、もうっ!と言わんばかりの表情(かお)でスコールを冷たく睨んで見せると、柔らかなソファの背もたれに身を沈みこませた。

「あーあ。結婚式、何来ていこっかな〜?」

もう既に式の準備に悩んでいる妻に、スコールはフと、口元に笑みを浮かべると、すやすやと自らの腕の中で眠る小さな姫君を見下ろした。

「コイツはどうする?連れてくのか?それとも……。」

ソファにもたれこんだまま、チロリと視線だけをスコールと娘に向けたリノアは、う〜んと、天井を今度は睨んだ。

「どうしよう?式の途中で泣いちゃったら悪いしな〜。……ママ先生に頼んだ方がいいかな〜?あっ!でも、親子揃っておそろいの衣装っていうのにも、憧れるな〜。」

突然身を起こして、スコールとスコールの腕の中の存在を交互に見るリノアに、スコールは顔をしかめた。

「……女の子なら、母親と一緒の衣装だろ?」

まさかリノア、俺にまでフリルふりふりの衣装を着せるつもりか?!
ちょっとした懸念に捕われたスコールを、リノアが真剣な瞳で見据える。

「そうか、それもそうだよね〜。あ、でも、似たような衣装で……。」

「却下。」

最近、妻が娘にふりふりふわーりな服を身につけさせることに凝っていることを知っている夫は、すぐさま否定の声をあげた。
目の前には、少し口を開けたまま、不満げな顔を隠しもしないリノアの顔。

「え〜、だってさ〜〜。」
「嫌だって言ったら、嫌だ。」
「え〜〜〜?」
「だから、そんな可愛くしてみても無駄だ。」
「……何それ、私がまるでかわいくないみたいじゃなーい!」
「…………。」
「あ、今、お前今、何歳だと思ってんだよって思ったでしょーーっ!ひどいっ、ひどいーーっ!!私まだ、22だもんーーっ!!」
「…………。」
「なんで黙るのよーーっ!!ちょっと何か言いなさいよっ!!もうっ!スコーールってばーーっ!!」

例えば、思っている通りに、いつまでたってもお前は可愛いよとか言えたら、この騒動はすぐさま鎮火されるのだろう。
そうは思いながらも、とてもじゃないが、そんなキャラじゃないスコールは、結婚式に少しばかりの恐怖を抱きながら、ただただ愛しい娘を見つめ続けた。
――リノアの不満声は、しばらく続くこととなる。



END


Thanx! ISOA presented by kara*終わらない夢の彼方に 04.09.07




**いそあより。


カラさんから、素敵なスコリノを頂きました!
わたしが、カラさんところに色々とイラストを押し付けてるのですが(苦笑)、それのお返しに、と書いてくださったのです。
ハハハ、まさにエビで鯛を釣るってこのことですねえ。


これは、カラさんのところのお題とも絡んでるお話でして、前後が気になる方は是非、カラさんところで読まれるといいと思いますv
(アーセル結婚にからむアレコレなんですよ。)


わたしには書きづらい、甘甘なお話(ご本人はそうでもないとおっしゃっていましたが、いやそんなことないですよ!)を頂けて、嬉しいです。
わたしも頑張って甘いの書こうかな・・・という気持ちになりました。


ではでは、カラさん有難うございました!
カラさんのサイトはこちらから!