1/5. 君の傍にいるということ(Squall×Rinoa)

「じゃあ、レオンハート先生とリノア様って、任務で出会ったんですか〜?」
「そうだ。」


  女生徒がキラキラした瞳で俺に尋ねる。俺は簡単に肯定した。何か付け加えてでもしてみろ、そこからどんどんと枝葉を生い茂らせてあっという間に雑談の森が出来上がる。
  ここは査察のために立ち寄ったガルバディアガーデン。学園長のアーヴァインに、「丁度良かった、特別授業、いっちょ頼むよ。」と何とも軽い頼まれ方をして、今俺は教壇に立っている。
  基本的に、俺は時間に余裕があれば授業講師の依頼を断ることはない。教員たちのみならず、生徒たちの学習態度、修練具合、学園内の様子、それら全てが査察の対象となっているからだ。授業で講師を務めれば、それらが簡単に分かる。合理的だ。
  今回の授業は、魔法の効果的収集方法についてだった。この授業は一般生徒には必要ない。SeeDを目指している受験生が取っている補講のようなものだ。ここに集まっている生徒たちは皆、今度の春のバラムガーデンでのSeeD試験を目指している。試験本番まで後数か月、今はまさに勉強も佳境に入っている。
  ……確かに、そのはずなのだが。
  どうも、俺が現役の頃の、ドドンナ学園長がいた頃のガルバディアガーデンとは異なり、生徒たちにも余裕があるというか何というか。今日も俺が講師になると知って、授業の前に質問させてくださいと押しかけてきたのだが、試験科目についてかと思いきや、彼らが知りたい内容とは「俺とリノアのなれそめ」だというのだから、俺が脱力したのもむべなるかな、であろう。
  ガーデンには学園長の影響は大きく、地域性とも相まって、同じガーデンとはいえ世界各地のガーデンはそれぞれ趣が全く異なっているのは昔から変わらない。しかしこれは、かつてより明るくなったと言えば聞こえがいいが、大分緩くなったと言えるんじゃないのか。
  アーヴァインの目指すガーデンは、「誰にでも門戸を開く実学の学び舎」だ。昔のような軍事専門学校ではない。だから色々な生徒がいて当たり前で、それは決して悪いことではないのだが。でもそれにしたって。
  俺の中で堂々巡りのように、不平の感情が渦巻く中、今度は男子生徒が聞いてきた。


「任務で出会ったとか、ちょっと抽象的すぎますよ〜。もうちょっと詳しく!」
「詳しく知ってどうする。」
「え、だって、SeeDって結構激務だし、単独行動多いしでカノジョ作る暇も出会いもなさそうじゃないっすか。そんな中、どうやって女子と知り合えるのか、参考にしたいんで。」
「……まだSeeD候補生にもなってないだろう。なってから考えろ。」
「それじゃあ遅いんですよ〜。何事も、物事に当たる前に熟慮してから行動しろ。これはレオンハート先生の本にも書いてありましたよね〜?」


  ああ言えばこう言う。
  とりあえず、俺の言葉に反論できるだけの脳味噌はあるようで、まがりなりにもSeeDを目指しているのは伊達じゃないと思ったが、その情熱を試験勉強に向けたらどうか。俺は頭痛を覚える。
  しかし、何らかのエサを撒いてやらないと、こいつ等は絶対勉強しないだろう。この手の奴らはしつこいんだ。俺もこの歳になって学習した。
  だから、これが最後だぞ、と前置きをしてから口を開いた。


「俺のチームの依頼主がリノアだったんだ。」
「へー、リノア様がSeeDに何の依頼を?あ、もしかして自分の護衛とかですか!?リノア様、軍のお偉いさんのお嬢様だったそうだし、佇まいもまさに姫ですもんね〜、ホント!ああいう可愛らしい人の護衛とか、むちゃくちゃ美味しい仕事っすね!」
「……違う。リノアはティンバーのレジスタンス活動をしてたんだ。それで、デリング政権への反政府活動を手助けしてほしいと依頼してきた。」
「……マジっすか。」
「ああ。」


  何を勘違いしているのか知らないが、今の若い奴らはリノアのことを、清純派の穢れなんて何も知らないお嬢様だと思っている奴が多い。魔女になってからあまり表舞台に出ることはなく、表に出なければいけない時も極力目立たないようにしているからだろうか。大人しくにこやかに微笑みを浮かべる姿が、どことなく幼げな顔つきと相まって非常に楚々としたものを感じさせる。俺ですらそう思うのだから、彼女を知らない奴が見ればなおさらだろう。
  ーーーーー本当のリノアは違うのにな。本当のリノアは思い切り笑って、泣いて、怒って。感情表現が素直で行動派。おっちょこちょいのところも多いけれど、誰かのために本気で一生懸命になれる人。間違っても、あの公の場で見せるような、人形のような人ではない。
  俺がバラした、ほんのわずかのリノアの一面。それを聞いて、男子生徒たちが皆一様に、少しがっかりした顔をした。俺は知らず溜飲を下げる。
  リノアがあまりにも人気が高いと少々面白くないと思ってしまうのは、若い頃から変わらない俺の狭量な部分だ。昔より幾分ましになったとはいえ、それは未だなくならない。
  テンションが少し下がった男子生徒たちを後目に、また別の女子生徒たちが尋ねてきた。


「任務として一緒にいるうちに恋が芽生えたってことですよね〜。それは仲間意識から始まったんですか?それとも、守っているうちに気分が盛り上がってきた、とか?」
「……さぁ。」
「さぁ、って。レオンハート先生ひどいー。好きになりはじめたキッカケなんて、一番大事じゃないですか!リノア様、それ聞いたらガックリきますよ、絶対!」


 そうなのか?
  目の前でやたらと自信たっぷりにそう言い切られて、俺は訝しく思った。リノアはガッカリなんてしなさそうだけど。しかし同じ女子が言うことだ。もしかしたらリノアも失望してしまうかもしれない。そう考えれば、やはりきちんとした答えを出さなければという思いを抱くのは当然だろう。
  俺は暫し考慮した。周りの生徒たちは、「絶対、運命ってやつだったんだよ。だって魔女と騎士だよ?前に見た映画でもそうだったもん。」などと、無責任に囃し立てている。煩い。
  そして俺が導き出した答えと言えば。


「どうして好きになったのか、なんて理由は分からない。ただ、気が付いたらそういう気持ちがあった、というだけだ。」


  という、答えになっているようななっていないようなものでしかなかった。女子生徒たちは、皆一様に何か求めていた答えと違う、という顔をした。悪かったな。その手の話で、俺が期待に応えられるような返事出来る訳がないんだよ。そういうものは俺に求めるな。
  それに、運命の出会いだって?俺がそんなこと言う訳ない。運命という言葉は俺は大嫌いだからだ。


  俺とリノアは、恋人関係から夫婦になって、ついでに魔女と騎士なんていう関係も持っているけれど、それらは全て自分たちがそうありたいと願い、自分たちが選んだ道だからそうなっている。分かれ道には数少ない選択肢しかなかったかもしれないけれど、それでも確かに俺とリノアが選んできた道だ。決して、誰だか知らない奴が決めた運命なんてものに導かれた訳じゃない。
  俺がリノアといたいから。リノアが俺の傍を望んだから。だから俺たちは一緒に居る。ただ、それだけ。


  俺の取り付く島もない顔を見て、それ以上追及するのは諦めたのだろう。1人、また1人と生徒たちはつまらなさそうに席へと戻っていく。よしよし、これで授業が滞りなく行える。俺はほくそ笑んだ。


1/5 君の傍に居るということ(運命なんてくそくらえ) End.

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