1.プロローグ (スコール×リノア 17歳) 人形のようなひとだ、と思った。 蒼い澄んだ瞳も、白磁の肌も、砂金のような不思議な髪の色も、全てがまるでつくりものみたいに綺麗で。そして、そこだけなんだかリアルがなかった。 だからかな、わたしは。 かなしい、と少しだけ思ってしまった。 *** 新SeeD就任祝いのパーティで、リノアは一人ぼっちだった。待ち合わせしていたはずのサイファーはいくら探しても居ない。周りが陽気にさざめいている中で、なんだか居場所がないような、そんな気持ちが少しだけした。 ・・・・・・困るなあ。わたし、今日は大事なお願いって言ったのに・・・・・。 以前からサイファーが約束をすっぽかすことはたびたびあった。だから、今回もそれなのかもしれなかった。サイファーは基本的に悪気はない。だからきっと、後で彼に聞けば、屈託無く「悪い」と言うんだろうと思う。いつまでも子供みたいな人だと思うが、それは憎めないものだった。少なくともリノアにとっては。 仕方が無いので、パーティーの様子をぼんやりと眺めていた。そして、ある一人のSeeDのところで目が留まった。 その人は、なんというか。 とても、綺麗、だったから。 そして、なんだか寂しいというか、生きている実感を感じられない人だったから。 こんなにみんな楽しげなのに、どうしてだろう。彼は一人だけぽつん、と隅にいた。新品のSeeD服を着ているということは、きっと今日の主役の一人でもあるはずなのに。だけど、彼はどうしようもなく一人だった。一人でいようとしているようだった。 何人かのSeeDが彼に話しかけているものの、彼は話が好きではないのか、会話が続いているようではなかった。彼の瞳は、どこをも見ていなかった。 リノアは、そんな彼を見て、かなしいと少しだけ思った。 その蒼い澄んだ瞳は、何も写していないみたい。 綺麗な髪も、顔も、すべて作り物みたいに、そこには感情が無いみたいだった。綺麗過ぎるから、だからそんな風に感じてしまうのだろうか?・・・ううん、多分そのせいだけではなくて、きっと。 この人は、こころの鍵を、なくしてしまった人なんだ。 初めて見かけた人に、そう思うのは変な話だが。 どういうわけか、リノアはそういう風に思った。 ふと、空を見上げる。天窓はガラス張りになっていて、そこにはたくさんの星が見えた。砂をまぶしたように光る星の中で、ひとつ、尾をひいて流れるものがあった。流れ星だった。 ・・・・・・・・流れ星を見ると、幸せになれるんだっけ・・・・? そう思いながら視線を戻すと、先ほどの彼も星を見ていたのか、ばっちりと視線が合ってしまった。少し驚きながらも、リノアはちょっと笑って空を指差してみる。彼はその仕草の意味がよくわからなかったらしい。子供のように、小首をかしげた。 その仕草は、なんだかとてもリノアのこころを、柔らかくさせた。 人形に血が通ったような。こころの端っこを捕まえたような。彼のした仕草と視線が、人全てを拒絶してはいない、そういうことを語っているように。 なくした鍵を探そうと、ほんの少しでもそう思っていることを伝えてもらったような、そんな気持ちがなぜかした。 それは、ただの興味だったのかもしれない。 それとも、他の何かの気持ちだったのかもしれない。リノアにもよくわからなかった。 だけど、声をかけてみようと、そう気持ちをリノアに起こさせたのは確か。 リノアはにっこり笑いながら、彼の傍へと歩いていく。 「うん、キミが一番カッコいいね。」 1.プロローグ end. ************* ここから、全ては始まった。 |