11、うそ
(ラグナ、キロス、ウォード)(スコール年齢18歳)


「へへ。」
「なんだね、気持ち悪い。」
「かわいいなあ、って思ってさ。」
「は?」
「・・・?」


久しぶりに、仕事の後三人で飲んでいた。ラグナはあまり酒が強くは無い。強くは無いが、飲みの席はかなり好きな方で、ちびりちびりと飲みながらいつも最後まで参加している。
今も、元は琥珀色だった液体を蜂蜜色までに薄めたものを、ちびりちびり、と飲んでいた。


ラグナはいつも氷入りの水割り(しかも薄い)を飲む。キロスはロックで。ウォードはストレートで。昔から、それは全く変わってはいない。
ラグナがにへ、と笑う様子に、キロスとウォードは首をかしげた。


「スコールってさ、可愛くねえ?」
「なんだね、いきなり。」


いきなりそんなことを言われても。そういう意味で訝しげに尋ねるキロスとウォードに、ラグナは笑った。そして、穏やかに言い直す。


「あいつ。スコールな。俺が会いに行ったりするだろう?そうすると、最初、どうしたらいいのかわからない表情するんだよな。そんで、その後迷惑そうな顔になる、と。
それがたまらんのよ、俺。すっげえかわいいと思う。」
「・・・変態チックだな、ラグナくん。もうちょっと普通に会いに行けば、彼だって困らないのではないか?
あのラグナくんのテンションの高さじゃ、彼だって引くだろう。
スコールくんも気の毒に。わかってやれよ、ラグナくん。」
「・・・・。」
「おっ、ウォードご名答!そうだよ、俺はわかっててやってるんだよ。」


ウォードの仕草にラグナはそう答えて、グラスをからり、とゆらす。蜂蜜色の液体が、光とともに揺らめいた。それに目を細めながら、話を続ける。


「うっとおしいのわかっててやってるんだよ、俺は。だって、あいつ可愛いんだもん。」
「・・・。」
「もうさ、あいつだって結構な年な訳だろ?俺にべたつかれるのは嫌なんだろうってのわかるんだよ。だったら、嘘でもついて逃げればいいのに。適当に嘘ついて、俺のことなんかあしらっとけばいいのにな。それでも、あいつはそういうことをしない。
うそ、という言葉を知らないような、そんな感じがするね。」
「ああ、かもな。あの子はなんだか大人びているくせに、やたらと素直で正直だよな。」
「だろ?うそをつくこと知らないから、だから俺に会うと最初困った顔するんだ。どうしたらいいのかわからなくて。
・・・・・・・かっわいいよなあ。」


ラグナはくすり、と笑う。ウォードは苦笑した。キロスは溜息をつく。


「・・・・・全く、君は馬鹿か。ラグナくん。
スコールくんにも良く言われているのではないか?」
「馬鹿、ね。馬鹿、か・・・・・。」


つまみのオリーブを少し齧ってから、ラグナはふっと笑みを浮かべた。その顔は、なんだかとても優しいような嬉しそうなそれで、キロスは少し眉を上げる。ウォードが酒を飲みながら、ラグナに話の続きを促した。ラグナはそれに気づいて、口を開く。


「普通は、馬鹿って言われるのって嫌なもんなんだろーけど。
あいつに馬鹿って言われるの、俺結構好きかも知れないや。」
「・・・。」
「・・・・・ラグナくん。君の事は前から馬鹿だ馬鹿だと思っていたが、本当に馬鹿だったのか?
今の顔を鏡で見てみたまえ。とんでもなくだらしない顔になっているぞ。」
「へへ、そうかもな。
でも、馬鹿って言われると嬉しいんだよ。うそをつけないあいつの、ほんのささやかな意趣返しみたいな気がしてさ。」


キロスは、溜息をつきながら酒を飲む。自分には子供はいないから、子供に対する感情はよくはわからない。それでも、ラグナの浮かべている表情は間違いなく、親のそれだと思った。子供のいるウォードはくすくすと笑っている。もしかしたら、ウォードにも心当たりがある感情なのかもしれなかった。


「ま、ほどほどにしといてやれよ、ラグナくん?」
「おうよ。」


今頃、あの不器用なこどもはくしゃみでもしているんじゃないか?そんなことを思いながら、穏やかに夜は更けていく。


11.うそ end.


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だから今は、この距離感でいい。