14、しょうがない (アルス、スコール 18歳) 「今回もよろしく頼むね。」 「・・・・・・・・。」 ばさっと積まれた書類を見て、スコールは眉をしかめた。また恐ろしいほどの量なのだ。いつもいつも、アルス絡みの仕事だと、どうしてこんなに量が多いのか。じろり、とアルスを見ると、アルスは別段平然な顔をしていた。スコールの睨みなど、屁でもないようだった。 「何か言いたいことでも?」 「・・・・・・なんでいつもこんなに仕事あるんだ?俺を意図的にこき使ってないか?」 前に、「別に」と答えたとき、「あっそ。」と言われてまったく手加減なしで仕事させられたおかげで、スコールも学習している。この、アルスという男にだけは、物事をはっきり言わないと、絶対に耳を貸してくれないということを。 アルスは馬鹿ではない。それどころか、ドール大学を1年で卒業してしまったほどの天才だ。スコールが何を言いたいかなんて、きっとスコールが言わなくてもわかっているだろう。それでも、スコールの意を汲んで思いやる、そんなことは一切しなかった。聞かれたことは答えるが、聞かなければ絶対に答えることはしない。その辺りは徹底していた。本当にあのリノアの幼馴染か、そう疑いたくなる。 アルスは綺麗な蜂蜜色の髪を揺らして、くすり、と笑った。 「別にこきつかってなんかないさ。俺だって同じぶん仕事してるんだからな。 それに、わざわざ金出して雇ってるんだ。十二分に使わなきゃもったいないだろう。」 「・・・・・・・守銭奴。」 「何とでも言え。」 今渡された書類には、今度できるドールガーデンの内部システム構築資料だけではなく、建物の図面まである。こんなことまでやらされるのか。スコールは山と積まれた書類を見てげんなり、とした。アルスは机の上に図面をひきながら、スコールに話しかける。 「ああ、これも俺が引き終わったら、お前が構造計算するんだからな。さっさと今渡した分片付けろよ。あの量だったら、2日で出来るだろ。」 「!!!あんな量、2日で出来るか!!」 「出来るね。睡眠時間3時間で考えても、余裕だろ。こんなこと話してる間に、どんどん時間は過ぎるぜ?さっさと始めた方がいいんじゃないか?」 むかつくけれど、確かにアルスの言うとおりで。 スコールはどかっと自分の席に座ると、ぱらぱらと書類をめくり始めた。そして、書類を見たまま、アルスにぼそっと話しかける。 「一週間、この調子でこき使う気じゃないだろうな? 俺にはここ以外にも仕事あるんだが?」 今回の任務は一週間の予定だった。この調子で不眠不休でこき使われたら堪らない。この後も休みはなく、仕事は立て込んでいるのだ。ドールでこんなに体力を消耗してしまったら、後々の仕事に差しさわりが出る。 アルスは図面を引きながら答えた。 「一応、ここまで、っていう量は決まってるから、安心して大丈夫だぜ?」 「その量が、またとんでもない数だったりするんだろ。信用できるか。」 「人を信用できなくなったらおしまいだよ、スコールくん。」 「お前が言うな。この悪魔。」 「悪魔か。それはいいね。でも、俺自分では天使だと思ってるんだけどなあ。」 そう言うと、アルスは楽しげに笑った。気持ち悪い、スコールはそう思う。アルスには散々な目に合わされているせいで、どうしても気色悪さしか感じない。昔シド学園長のことを悪魔だと思ったが、あんなのは全然可愛いものだった。悪魔ってのはこういう奴のことを言うのだ。 「いや、マジだって。その量2日で終わらせれば、多分今回依頼分は4日で終わるって。俺の計算によるとね。」 「・・・・・・・本当か?」 「リノアに聞いたけど、最近あんまり休みもないんだって?うちで依頼した分は一週間だけど、早く終わらせたら、残りの日は休暇にしていいよ。まあ、ささやかなプレゼントってやつ?」 「・・・・・・・・。」 「ほーら俺ってば天使みたいだろ?」 そう言うと、アルスは朗らかに笑った。どうも気味が悪いけれども、今アルスが告げた内容は確かにスコールにとっても嬉しいもので。早速急いで仕事を片付け始める。そして、ぽつり、とアルスに向かって「ありがとう」と言った。 「ああ、でも、今リノアはうちの姫様に捕まってると思うけど。休みが出来たら、頑張って姫様から奪回するんだね。姫様、リノアとオペラ見たり海に行ったりするとか、色々予定立ててたなあ。」 「・・・・・・・。」 アルスがそう楽しげに言う言葉に、スコールは思わず絶句した。 そうだった、この男は一筋縄ではいかないのだ。 そんなことは重々承知しているのに、本当に俺って奴は。 リノア絡みだと、どうしてこうすぐに俺は騙されてしまうんだろう。しょうがない、とは思うのだが、それでもそんな自分にスコールは自嘲した。 アルスの言うところのうちの姫様、つまりドール公女はリノアのことが大好きだ。そして、スコールのことはお気に召さないらしい。リノアは、何だかんだ言ってスコールを最優先に考えることが多いから、そのあたりが気に食わないかもしれないのだが。とにかくスコールとドール公女はリノアをはさんでライバル関係にある。 また、このドール公女が中々、子供にしてはイイ性格をしている。目の前にいる悪魔が育てたのだから、それも仕方がないのかもしれないが。 悪魔退治の後は、小悪魔退散か・・・・。 少しだけ、くらり、と眩暈がする。 さっき、ありがとうなんて言うんじゃなかった。しかし、言ってしまった言葉はもうなかったことには出来ない。しょうがない。さっさとこの仕事を終わらせて、小悪魔を追っ払うか。 スコールは一つ溜息をついて書類を速読し始めた。 14、しょうがない end. ******************* 悪いヤツではないけれど、いいヤツでも絶対ない。 (B.G.Nとのコラボ作品) |