2.誰を?
(スコール×リノア 18歳)


「うん、じゃあね。また会えるの楽しみ。」


部屋に帰ると、リノアが珍しく電話をしていた。
俺はそっと荷物や書類を机の上に置く。その音でリノアは振り返り、そして『おかえり』、と唇を動かした。


「じゃあ、ニックも元気で。」


彼女が電話を切る、最後の一言に俺の耳はぴくり、とした。
ニック?
誰だ、それ?そんな男、俺は知らないぞ?
リノアは電話を切ると、俺に嬉しそうに笑って抱きついた。


「おかえり!今日は早かったんだね!!」
「ああ・・・・・・・、今日は会議中止になったから。リノアこそ早かったんだな。」
「うん、今日はちょっとしか授業なかったし・・・・。」


別に普通に振舞っているリノアに、俺は切り出そうかどうしようか、迷っていた。だけど、以前「隠さないで何でも言ってくれた方が嬉しい」と、そう言われたから。それをずっと守ってきたから。かえって隠すことが今は難しくなってしまっていた。今も、ちょっとむっとした顔をしている自覚がある。リノアは明るく、どうしたの?と尋ねてきた。だから、俺はリノアに甘えてしまうことにした。


「・・・・・・今の電話、誰?」
「ああ、ニックのこと?ん?スコール知らない?」
「知らない。」
「ニックは、アルスのお友達。いい人だよ。わたしも仲いいの。」
「・・・・・・・そうか。」
「今度、スコールにも紹介するね!」
「・・・・・・・・。」


アルスの友達、というのがまず信じられなかったが。(あの性格の悪い男に、いい人の友達がいるということがもうすでにおかしい)(作者注:アルスはリノアの幼馴染です。)
俺が知らない誰か他の男とも仲がいい、そのことが俺に面白くないと、そう思わせた。


そんな自分は、本当に子供みたいだった。


・・・・・・・馬鹿みたいだ、俺。
大体、リノアは俺のことが好きだと分かっているのに、一体誰に怯えてるんだろう?
リノアを信用しないで、誰を信用するんだ?


最近俺の顔は表情豊かになってきたのだろう。俺が少し機嫌が悪いのなんてお見通しだったようだ、リノアには。彼女はおかしそうに、そして少し嬉しそうに笑う。そして、「大好きだよ、スコール」と囁いた。


俺は返事をそっと返して、そして彼女を抱き締めた。
甘えすぎていると思うが、それでもいいのだと、リノアはいつも赦してくれる。スコールは、いつも頑張ってるから、だからたまにはいいんだよ、そう言ってくれる。


・・・・・・やっぱり、いつまでも子供だな俺は。
彼女がそこにいる、という感触を両腕で確かめながら、俺はそんな自分に苦笑した。


***


この話には後日談がある。


「ホントはね、こないだニック、スコールと会うの楽しみにしてたんだよ。だけど、スコール倒れちゃって、代わりにセルフィが行くことになったじゃない?ニック、残念がってたよ。」


そういうリノアの言葉で、俺はニックという人間が、「ニコラス・デ・ブータ氏」のことを指しているということに気づいた。彼はドールの有力貴族で、今建設が進むドールガーデンの設立準備などを担当していたはすだ。俺自身は、その上のアルスやドール大公と直に交渉することが多いので、直接見知ってはいないが。だが、名前だけは知っていた。


だから、セルフィと会ったときに、思い出して聞いてみた。


「セルフィ、ブータ氏に会ったことあるよな?」
「ぶほっ!!」


何気なしに聞いただけなのに、セルフィは飲んでいたジュースを喉に詰まらせてむせていた。
・・・・・・なんだ・・・・・?


「何、デブータ・・っとと、ブータ氏に興味あんの、スコール?」
「いや、リノアが仲がいいらしいから・・・・。どんな人だ?」


そう俺が言うと、セルフィはなんだか非常に遠い目をして、そしてしみじみと言った。


「スコールさあ、リノア本当に大事にしたほうがいいよ?あんないい子、あんたにはもったいないくらいなんだからさ・・・・。」
「・・・・・はあ。」


セルフィはそれだけ言うと、ジュースを捨てに行ってしまった。一人残された俺は、訳がわからず首をひねるだけだった。


・・・・・・結局、デ・ブータ氏ってどういう人なんだ・・・・?


そして、その疑問はすぐに解けることになるのだった。


2.誰を? end.


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ちょっとした嫉妬も何もかも、それは人生のスパイスになる。
(B.G.Nとのコラボ作品)