21.再会
(シド×イデア)


「どういうことですか・・・・・?」
「ええ?シド学園長ご存知じゃなかったのですか?ただいまスコール班は魔女暗殺の任務についていますよ。ガルバディアガーデンとの連名任務だと聞いていますが。」


ティンバーで失敗したスコール班があまりにも戻ってこない。少し不安になり、SeeD派遣担当局に私は赴いた。しかし、担当官からの返事は、上のようなもので、私は愕然とする。
彼らはまだSeeDになったばかりだ。まだまだガーデン内勤での経験を積ませる段階のはずである。本格的な任務につけるほど、彼らはまだSeeDとしての訓練を積んではいない。
ティンバーレジスタンス活動に彼らを出したのは、身を持って失敗、という経験をさせるためだった。失敗したことのない人間は挫折に弱い。だからこそ、早めに失敗をし、どんなときでも諦めない精神を育てなければならない。これは、SeeD育成の鉄則だった。
私の読みでは、ほんの1週間、そのくらいで彼らはガーデンに帰ってくる、そう思っていたのに。もう、彼らが任務に出てから2週間以上経っている。これほど帰還が遅いのは、何かある。そう思って問い合わせたのだが、その危惧はやはり当たっていた。


「・・・・おかしいですね?これは5機関会議での承認印もあるそうなんですけど。ガルバディアガーデン側からもそう言っていますし。」
「・・・・・・そうですか。」


私はそのような承認印を押した覚えはない。だから、多分にその承認印は偽造だと思われた。どの機関が偽造しているかも大体わかる。しかし、それを担当官の前で言うことは躊躇われた。ガーデンは5機関会議での決定が全てだ。この決定で全ての物事が動く。合議制で物事を決めているからこそ、無茶な任務などは存在せず,よってSeeDも安心して働けているのだ。もしこの5機関会議の信用性に不審を持たせたら、今あるシステムは崩れてしまう。死線に立つ子供達に要らぬ不安は与えたくはなかった。


「まあ、いいでしょう。最近忙しかったせいで、私も忘れてるのかもしれないですね。もうボケが始まったかな?」
「嫌ですよ、シド学園長!!」
「じゃあ、スコール班は魔女イデアの暗殺任務に着いているということで。連絡はマメに来ているのでしょう?」
「ええ、定期連絡は届いています。」
「ならばいいです。」


私の軽口に、担当官はころころとおかしげに笑った。そんな彼女に私も笑って、そしてこの話は終わりにした。
ーーー心の中の、棘のような痛みは見ない振りをして。


自室に入って、私はどかっと椅子に腰掛けた。そして、頭を抱えて少しだけ溜息をつく。溜息をついたとき、吐息とともに、胸の奥がじんと痛んだ、そんな気がした。


何の因果だろう、と思う。
これは、12年前に始まった悪夢の続きなのか。何故彼らと彼女が殺しあわなければならない?


そっと新聞を取り上げた。
1面に大きく、イデアの写真があった。
わたしは、そっと写真に写る彼女の顔を撫でた。そして、不覚にも、涙がぽつり、と零れた。


『私が私でなくなったら、貴方はどうするかしら?』
『どうもしないよ。だって、イデアはイデアだ。』


そんなことを話していたことを思い出す。もう、その頃には彼女は何者かに乗っ取られていたのかもしれなかった。私が話しかけてもぼんやりしていたり、ところどころ記憶が途切れていたり。そして、ある日いきなり、私の前から彼女はいなくなった。
必死になって探したけれど、彼女は見つからなかった。ガーデンと子供達を抱え、何もかもを放っておくことは出来ず、彼女の夢だったガーデンを守っていればいつか彼女は戻ってきてくれるのではないか、そんなことも思って、彼女を待ち続けていた。それなのに。


彼女は、もういない。
彼女は、彼女の中で眠っている。今の彼女は、何か別のものだった。エルオーネの力でイデアにジャンクションして、誰かがいるということがはっきりわかった。


今の彼女は、私のイデアではない。
邪悪な魔女だ。
邪悪な魔女は倒さねばならない。
それが、SeeDの役目。ガーデンの使命。彼女が望んだことだ。
それは、わかっているのに。
やはり、私は。


もう一度貴女に会えて、嬉しいんだよ、イデア。


ずっと、会いたかった。中身は貴女ではなくても、外見は確かに貴女で。全く変わってはいない顔やかたちで。そんな貴女を見て、私は嬉しい、という気持ちを持ってしまう。いけないことだとわかっていても。


あの子達は、この任務に成功しなければ、処刑されてしまうかもしれない。要人暗殺というのは、そのくらいリスクの高いものだ。だから、成功して欲しい。
だが、私は、この任務が失敗してくれればいいとも思っている。彼らが成功してしまえば、イデアは死ぬ。私は彼女に生きて欲しい。会えなくてもいいから、生きていて欲しかった。死んでしまったら全てはおしまいだ。私はまだおしまいにしたくはない。


こんな、私は。
ガーデン学園長としても、SeeD養成責任者としても、そして、魔女の騎士としても失格、だった。
涙を流す資格なんて、全くないほど。


21.再会 end.


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相反する気持ちが、こころのなかで激しくぶつかり合う。