23.ズルイ (アーヴァイン、セルフィ 18歳) どうしたもんだか、と思う。 心の底から。 セルフィは、バラムのショッピングセンターに来てうんうん、と悩んでいた。もうじきアーヴァインの誕生日が近づいている。自分の誕生日のときはしっかりとプレゼントを頂いたので、買わないわけには行かないだろう、そう思って。だからわざわざ休日の今日、買出しに来たのだが。 アタシってば、最悪かもしらん。 アービンが何を欲しいか、全然わからへーん!! 別に、アービンに興味がないとかそういうんじゃなくて。純粋に何が欲しいのか、それが思いつかないのだ。 せっかくあげるんだから、アービンが喜ぶものがいいと思う。彼が欲しがってるものをあげたいと思う。だけど、アービンはすっごく趣味が広くて、好きなものもいっぱいで、だからこそ難しい。何でも喜ぶだろうとは思うけど、でもそれじゃあつまらない。ああ、ジレンマだ。 洋服店で、ちょっとしたシャツなんかも見てみた。だけど、アービンはお洒落で、着る物とかはかなりこだわっているらしい。こんなバラムの店で買えるようなものでは喜ばないだろう。バラムのモノは、質はそこそこいいけど、お洒落かと言われればそうでもない。アタシは好きだけど、アービンはそうでもないみたい。いつもドールに買いに行くとか聞いたことあるし。 アービン御用達のお店に行くことも考えたんだけど、ネットでカタログ見てあまりの高さにぶったまげたし。あんなん買えません、アタシ。こないだビデオ買っちゃったから、貯金ないもん。 ああ、ホント困る!! 大体男の癖にお洒落ってどうなのよ、とかも思った。八つ当たりなのはわかってるけど。でもね、選ぶ身にもなって欲しいわけですよ。ああ、これがスコールとかゼルとかだったらめちゃくちゃ簡単なんやろうなあ。アイツらって、あんまりこだわりなさそうやしなあ。 カアカア、とカラスが鳴く声がした。あたりも少しほの暗くなっている。もうじき今日はおしまいだ。アタシはそれを感じて、少し慌てた。 どうしよう・・・・。休みは今日しかないのに・・・。もうじき日が暮れるのに・・・・。そんな気持ちが、アタシの中を駆け巡る。 アタシがこんなに悩んで買い物してるってこと、アービンは絶対気付いてないんやろう。 アービンは鋭いくせに、鈍い。アタシが宙ぶらりんなままにしてるせいか、そこそこアタックはしてくるけど、それでもちょっと立ち止まって待っててくれるみたいなとこがある。アタシが追いつくまで待っててくれる、そんなところがあった、いつも。最近それじゃあ物足りないような気持ちもするんやけど、でも自分から言うってのも何だか気恥ずかしい。だから、そのままほってあるんやけど。 これも、どうにかせなアカン、と思ってた。このままいったら、アタシただのズルイ人になっちゃう。すっごく嫌な女になると思う。それは嫌だから。 だけど、こういうことには、タイミング、が必要なのだ。「好き」と一言言うだけなんだけど、でもそれはかなり難しい。うまいタイミングがどうも掴めない。アタシは困る。そして、また時間は過ぎていく。それの繰り返しやった、最近は。 アタシの誕生日のときは、アービンはすっごく嬉しいものをくれた。アタシ、誰にも言ってなかったんやけど、すっごく欲しいオルゴールがあったん。でもそれ、アンティークだったせいか、結構高くて、だから給料しばらく貯めなアカンなあ、と思ってた。でもいつか売れちゃったらどうしよう、と結構ハラハラもしてた。 そしたら、今年の誕生日に、アービンがそれをプレゼントしてくれた。アタシ、一瞬信じられなくて、思わず、これ欲しいって、アタシ言ったっけ?とアービンに尋ねてしまった。 そしたら。 「だって、セフィいつも、コレの前で立ち止まるから。コレを見てるとき、すごく幸せそうな顔してるから、だからね。」 そんな風にアービンは言って、そして微笑した。 アタシは、そんなアービンの表情を見て、何ともいえない気持ちになった。 ズルイよ。 どうして、いつもそんな風にさりげなくアタシのことを見ていてくれるの? アービンモテルの知ってるし、結構その中には可愛い子とかもいてるのに、それでもアタシなんかがいいって、そう言ってくれる。そして、アタシのツボを外すこともしない。 ズルイよ。 そんなにカッコいいなんて、ズルイよ。 アタシ、だから甘えちゃうんだよ。 そんなことを考えているうちに、アタシは花屋さんの前を通りがかった。そして、店先に溢れているちいさな可愛いピンクの花を見つけて、思わず立ち止まった。すると、店員さんがやってきて、笑いながらアタシに話しかける。 「これ、珍しいんですよ。このあたりでは取れないんですが、セントラから出荷があったんで。」 「・・・・・コレ、トラビアのアレですよね。」 「ああ、お客さんご存知でしたか。そうです、この花はトラビア原産ですよ。トラビアでは春に咲くのですが、セントラは今春ですからね。ちょうど今満開なんですよ。」 知ってる。 春の訪れとともに咲く、白やピンク、紅の綺麗な花。 アタシは迷わずそれにすることにした。 2本ほど包んでもらって、それとバラムのアクセショップでキーケースも買った。キーケースは持ってても邪魔にならないと思ったから、それにした。でも、今回のプレゼントのメインは、キーケースじゃない。この花だ。 アービンは、知ってるやろうか。 この花の花言葉。 こういうネタにはすんごい詳しいから、知ってそうな気がする。まあ、知ってなくてもいいや、とも思った。この花に助けられて、アタシがきちんとアービンに言えればいいのだ。それだけでいい。 もし、アービンが知ってたなら、それはそれで恥ずかしいけど、でももうそろそろ潮時やろ、そう思った。 だって、アタシは。 久しぶりの休みを一日無駄にして悩むほど、喜ぶ顔が見たいと願うほど、アービンにこころの中に住まわれてしまったのだから。もう、逃げられない。逃げる気もない。 ズルイアタシはもうさよなら。ずっとそうしたいと思ってて、そのタイミングを今日こそきちんと掴んだ、そんな気持ちがした。 『花言葉:私は貴方の虜です』 23.ズルイ end. ****************** 頑張って、一歩踏み出してみる。 |