24.夢みたい
(アーヴァイン×セルフィ 18歳)(23.ズルイの続き)


最初、なんだかわからなくて。
でも、彼女の頬が赤くて。彼女の手がじんわりと暖かくて。少し湿ってて。
だから、夢じゃないと、そう思ったんだ。


「・・・・・・アービン。」
「ああ、セフィ。ちょっと待ってて、もうちょいで終わるから。」


夕飯時に、後でアービンの部屋に遊びに行ってもいい?とセフィから聞かれた。セフィが僕の部屋に遊びに来ることは結構ある。いや、セフィに限らず他のみんなもそうなんだけど。どうも、僕の部屋にある雑誌とかグッズとかがお目当てらしい。なんだか便利屋みたいだなあとか、最近思わなくもない。
だから、今日のも多分そんなことなんだろうと、そう思って。実は今日は僕の誕生日であったりするんだけど、セフィのことだからけろんぱと忘れてそうだし、まあそれはそれで全然構わないので、いつもどおりに僕は頷く。そんな僕にセフィはちょっと緊張したように笑った。何でそんな顔するのかよくわからないんだけど、でもそんな顔をした。
・・・・・変なセフィ。
そして、今も。
彼女は少し緊張した顔つきでドアのところに立ちすくんでいる。僕は訝しげにセフィに尋ねた。


「どうしたの?今日、セフィなんか変だよ?入ってきなよ。」
「・・・・・うん。」


僕が促すと、やっとセフィは意を決したように部屋に入ってきた。そして、僕に包みを渡す。それは、小さな小箱と、綺麗な紅の花だった。


「・・・・・ナニこれ。」
「お誕生日、おめでとう。アービン、今日誕生日やろ?」
「え!?これ、僕になの!?」
「・・・・・・なんでそんなに驚くん?」
「いや、セフィ多分覚えてないと思ってたからさー。うっわ、どうしよう。めちゃくちゃ嬉しい。ありがとね〜!!」


どうも彼女はきちんと僕の誕生日を覚えていてくれたらしい。意外だったけど、嬉しいことは嬉しい。驚く僕にセフィはちょっといやな顔をしたけど、でもそれは仕方ない。だって本当にもらえるとは思ってなかったんだから。
小箱の方はとりあえず横に置き、僕は花を見た。なんていうか、ちいさな花なのに、どこか存在感があるというか。香りも控えめなくせに妙に匂い立つようなそれで。このあたりでは見当たらない花だ。しかも僕は秋生まれ。まさかに今現在、花が咲いているとは思わなかった。


「これ、綺麗だねえ。どこの花?」
「うん、トラビアのやつなんやけどね、たまたまセントラからの輸入が手に入ってん。」
「ああ、セントラは今春だもんねえ。」
「うん、これな、トラビアでの春の名物なん。アービン知らんかもやけど、コレが咲くと春が来たって目印になるんよ。」


そう言うと、セフィはちょっとだけ笑った。その笑顔が、なんだかいつものセフィとは違うような、そんな感じもして僕はドキリとする。だって、今のセフィは女の人の顔をしていた。いつもの元気のいいものではなくて、どこかしっとりとしたような、そんな笑顔。僕は知らない。見た事がない。
僕は慌てて、花に目を戻した。そうでないと、まるで食い入るようにセフィを見つめてしまいそうだったから。


ちいさな、紅の花。無骨な木の肌と全く似合ってない。どこかで見たことがある。それはどこだったか?


そして、すこしの時間が流れた後。
僕の頭の中を走り抜ける一つの記憶があった。


『トラビアではね、この花を贈るのは、恋人か旦那様、奥様にだけなのよ。この花の花言葉は、「貴方の虜」。だから、自分の思いを告げたかったり、そういうときの助けにもなったりして。春は恋の季節だから、中々値段も高くなるし、人気もあるのよ。』
『じゃあ、これをくれる君は、僕の虜ってことなわけですか?』
『そうね。今のところはね。』
『今のところ、って酷いなあ。』
『お互い様でしょ、アーヴァイン』


そんな会話をしたことがある。この花をくれたその女性とはもう会っていないけれど、確かに僕はこの花を知っていた。これは、相聞花。恋人を訪い、口説き、触れたいときに差し出す花。トラビアでは有名なのだ、そう彼女も言っていた。
だとしたら。
まさか、セフィもそれを知っているんだろうか。
僕はそっとセフィの様子を伺う。


彼女は。
少しだけほんのり赤い頬をしていたが、それでも僕のことをじっと見ていた。
きゅっと手を握り締めていたけれど、僕の視線から目を逸らしたりはしなかった。


もしかしたら。
僕が今思っていることは。君が思っていることは。
同じことなのかな?
そういうことかな?


僕はそっとセフィの頬を撫でた。セフィは少しぴくり、と驚いた顔をしたけれど、そこにいた。
逃げなかった。
じっと、僕が触れるのにまかせている。
それは、やっぱり。


・・・・・・そうなんだよ、ね?


僕はぎゅーっとセフィを抱き締める。セフィはちょっとわたわたしてたけど、でも抵抗はしなかった。僕はにやける。にやけ笑いが止まらない。そして、間近でセフィの顔を見た。セフィは少しだけ僕を睨んでいたけれど、でも頬は隠せないほど赤くて。


駄目だよ、そんな顔したって。
僕わかっちゃったもん。それ知って、僕が喜ばないわけないでしょう?


「やっぱり、アービン知ってたんや、その意味。」
「まあね〜。セフィが知ってることの方がビックリだったけど。」
「一応女の子やもん、アタシだって。」
「一応じゃないデショ。ちゃんと女の子でしょ。僕の大事な。」


そう言うと。
セフィはきょとっとしてから、それからかーっと真っ赤になった。そんな様子が可愛らしくて、僕は笑う。そんな僕の様子が気に食わなかったのかもしれない。彼女はちょっとだけぽかぽか、と僕を叩いた。


「イタイイタイ、セフィ!」
「もう、だから嫌なんや!!アービンはストレートすぎて恥ずかしいわ!!」
「だって僕は恥ずかしくないもん。セフィは恥ずかしいわけ?」
「・・・・・・・。」
「そういえば、僕きちんと言葉で聞きたいなあ。セフィの気持ちは分かったけど、一度くらい好きって言ってくれてもいいんじゃない?今日、誕生日だし。」


にんまり笑ってそう言うと。セフィはしばらく口をぱくぱく、としていた。照れ屋でこういうことが苦手な彼女には、ちょっと酷だったかなあ。でも、今日は僕の誕生日だし。ちょっとくらいいよね?
僕の期待しまくってる顔を見て、セフィはしどろもどろになりながらも、でも何とか頑張ってくれた。


「・・・・・あんなぁ。」
「うん。」
「アタシ、な・・・。」
「うん。」


少しかもしれない、だけど限りなく長かったかもしれない沈黙の後に、セフィはぽつり、とその言葉を紡いだ。僕は破願して、よりいっそうちいさな彼女を抱き締める。


そっと背中に回った彼女の手も、彼女のさっきの言葉も。
それはまるで。


夢みたい!!


24.夢みたい


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とびっきりのプレゼントをもらった。
(B.G.Nとのコラボ作品)