26.Now you’re not here
(フューリー×ジュリア 24歳)


ただいま、と言ってから、気がついた。
そうだ、今日は彼女がいない日だった。


フューリーは自分の書斎に荷物を置いて、着替え始めた。しん、と静まり返る室内。いつもは何かしらの音があるのに、何もない。
なんだか居心地が悪いような、そんな気がして、フューリーは滅多に見ないテレビをつける。


ちょうど今は人気のあるお笑い番組をやっていたらしい。わあっという歓声があたりに響いた。フューリーはほっとした。


そうだ、何か食べないと。そう思って、台所のところへ行くと、台所のテーブルの上には、ジュリアからのメモが置いてあった。フューリーはそれを取り上げて、さっと目を走らせた。それからくすり、と微笑む。


『お帰りなさい、フュー!
わたし、今日から3日間いません。その間のご飯は、もう温めればいいだけにしてフリーザーの中に入れておきました。日付と時間が書いてあるから、それを参考にして食べてね!

ではでは、お仕事お疲れ様でした!
わたしも頑張ってツアー行って来ます!

ジュリア』


まったく、まめというか何と言うか。
彼女だって忙しいのだし、別に自分はどこかで適当にご飯食べるから別に放っておいて平気なのにな。
そんなことを思いながらフリーザーを開けると、そこには1日目夜、とか、2日目朝とか、紙が貼ってあるつつみがあった。とりあえず今日の分を、と開いて見る。中身は、ドール風すね肉の煮込みとマッシュポテトだった。


またこんなに手のかかるものを作ってくれて。
それは、有難いけれど、でも少しフューリーは心配になる。自分だけではない、彼女だって仕事をしているのだ。彼女は人気歌手だから、仕事をセーブしているといったところで、結構忙しいのを知っていた。だから、身体大丈夫なんだろうかとか、そんなことを思ってしまう。


レンジに器をセットして温めはじめると、居間の電話が鳴った。フューリーは慌てて電話を取りに行った。


「もしもし?」
「あ、フュー?ジュリアです。」
「ああ、ジュリア。もうツアー終わったのか?」
「うん、第一部は。もうちょっとしたら第二部があるの。」
「そうか。お疲れ様。
料理、ありがとう。でも、俺のこと気にしなくて平気だったのに。何か適当に買って食べるから。」
「ううん、だってわたしがしたかったから。ちゃんと、食べてね?」
「ああ。でももう少しサボっていいんだぞ、家事とか。大変じゃないか?」


そこまでフューリーが言うと、電話越しにジュリアがもじもじしているような、そんな雰囲気がした。


「ジュリア?」
「・・・・・・・だって。」
「うん?」
「だって、フューはわたしのご飯だけ、食べていて欲しいんだもん。出来れば、そうして欲しいんだもん。」
「え?」
「だから、大変じゃないの。」
「はあ。」


ぽつり、と彼女が零した言葉に、フューリーは思わず目を丸くする。真剣に驚いた。まさかそんなことを言われるなんて。だからだろうか、返事がなんだか間の抜けたようなものになってしまった。そんな反応少なさげな様子に、ジュリアは少し不安そうに「フュー?」と呼びかけた。


反則、です。
反則ですよ、奥さん。
そんな風に可愛らしいこと言われて、俺は一体どうしたらいいんですか。


「ジュリア、有難う。
頑張って仕事しておいで。帰ってくるの、楽しみに待ってるから。」
「うん!」
「帰ってきたら、ちょっと覚悟が必要だけどな。」
「え、何の?」
「今さっきジュリアが言った言葉のおかえしするからな。」
「!」


君は今はここにいないけど。
でも君がいなくても、こうやって些細なことで、君が傍にいてくれる、そういうことを実感する。


26.Now you’re not here  end.


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近くにいても、遠くにいても。