27.偶然 (スコール×リノア 26歳) 「レオンハート査察官、どうぞこちらへ。」 「有難うございます。」 魔女管理局第1局局長の勧めに従って、スコールは椅子に腰掛けた。局長のオコーネルも自分の椅子に座る。そして、データの入ったディスクをスコールに差し出した。 「先月の、本局での稼動実績表です。」 「・・・・・・・・・。」 自分のノートパソコンにそのディスク差込み、データを起動させた。ぱーっと、グラフが展開される。 「この、トラビア峡谷での稼働率の低下は?」 「このときは、魔女補佐官の一部が新人でしたもので、少しトラブルが起きましてね。許容範囲内ですが。」 「そうか。魔女の精神波形にも変化はそうないみたいだな。これなら大丈夫だろう。」 「ええ。リノア様、頑張っておられるから。どちらかといえば、私達の方が助けられているようなものです。」 「・・・・・そうか。」 オコーネルが苦笑しながら言う言葉に、スコールも少しだけ苦笑した。確かに、リノアは頑張りすぎるほど頑張る。無理をしては駄目だ、と言っても聞きはしない。自分に出来ることは最大限やろうとする。その性格は10年経っても変わらなかった。 だからこそ、スコールや局長の気苦労は増えるのだが。 「私たち、リノア様のお手伝いをするのが仕事なんですよって言っても、たいがいのことはお一人でなさってしまうんですよ。これじゃあ、私たちが給料泥棒みたいで、寝覚めが悪いですわ。」 「そうだな。でも、アイツ、俺が言っても聞かないんだ。どうしようか?」 スコールがそう、意地悪っぽくくすくす、と笑うと。オコーネルもくすくす、と笑った。 「レオンハート査察官が、リノア様に甘くてらっしゃるから。」 「そうかな。」 「そうですよ。もう見てられないくらい。 ・・・・・・あ。」 そのとき、局長デスク上の通信ラインが点滅した。オコーネルはさっそく通信を繋ぐ。 「はい、オコーネルです。」 『局長。そろそろ、リノア様の定期健診が終わります。後数分後に、リノア様は覚醒。ダイブアウトです。』 「了解。」 少し怪訝な顔をするスコールに、オコーネルは少し笑った。 「レオンハート査察官、そろそろリノア様の定期健診が終わるらしいですわ。貴方も、お迎えに行かれますか?」 「ああ。今日はそれもあって、査察を入れたんだ。リノアが帰るときにちょうど間に合うからな。」 「だから、そういうところがもう甘いんですって!」 たまらず笑い出すオコーネルに、スコールは少しきょとんとして。それからぽりぽり、と自分の頬を掻いた。その仕草が、普段は恐ろしいほどカッコいい、いい男なのに、何だか少年のように見えて、オコーネルにはおかしかった。 *** 「リノア様、覚醒まで60秒。カウントダウン入ります。」 「後、60秒、59、58・・・・・・。」 3局の職員の声が響く中、スコールとオコーネルはじっとリノアのダイブポッドを眺めていた。静かな微動音がして、少し光り始める。職員の、「ゼロ」とカウントする声とともに、微動音は止み、中にいたリノアがそっと目を覚ました。ポッドの入り口を開けて起き上がる。そして回りをきょろっと見回した。そして、瞳の端にスコールの姿を捉えた。 ぱあっと嬉しそうに広がる笑顔に、スコールも優しく微笑した。3局の職員が腕や額につけていた電磁パッドを外す。それが終わると、リノアは急いでスコールの方へと駆けてきた。 「危ないですよ、いきなり走ったら。」 「だいじょーぶ!今日は長い検査じゃなかったから! 何でここにスコールがいるの??」 「今日、偶然査察が重なったんだ。」 「そっか。じゃあ一緒に帰れるね。嬉しい!」 偶然、だなんて。 そうなるように、自分で予定を組んだくせに。 おかしい、おかしすぎる!全く、変なところで照れ屋なんだから、レオンハート査察官は! オコーネルは必死で笑いを噛み殺した。スコールはそれに気付いて、人差し指を唇にあてて、「しぃっ」という仕草をした。オコーネルも頷く。 リノアは嬉しそうにスコールに抱きついていた。そんなリノアをよしよし、とスコールも抱き締め返す。そういうところは恥ずかしがることはないのだった、この人は。そんな2人に、3局の職員たちが、ひゅうっとはやして口笛を吹いた。その音で、リノアははっとして、赤くなって慌ててスコールから離れる。その様子を見て、3局の職員もオコーネルも、みんな声をたてて笑った。 ここに集まっている人間達は皆、偶然この職場に入ってきたものがほとんどだけど。 でもこんな風に笑いが絶えないっていうのは、幸せなことだ。皆、心の底から、そう思った。 27.偶然 end. ****************** 照れ屋なのか、それとも大胆なのか、わからないひとだと思った。 |