29.笑顔
(スコール×リノア 21歳)


スコールは実は、それほどお酒が強くないのです。
これを知ってるのは、わたしくらいなものなのだけど。


「ただいまー・・・・。」


玄関から聞こえてきた声に、アンジェロが飛び出していった。わたしもその後を追っていく。そこには、ちょっとにこにこしたスコールがいた。


あ、そっか。
今日は新人歓迎会があるって言っていたものね。多分飲まされたんだろうなあ。


わたしはそう思って、くすりと笑った。
わたしが笑った顔を見て、スコールもにこっと笑う。それは、滅多に見れないような、何ていうか無邪気そうな子供みたいな笑顔だった。あまりにも可愛くて、わたしはいつもこれを見ると、くらり、としてしまう。


「スコール、お水飲む?」
「んー、・・・・少しだけ。」
「オッケ。」


酔っ払ってべろべろになることは、彼はない。だけど、多分本人も気がついていないけれど、少しだけ感情の箍が外れるらしい。それでも、セルフィとかアーヴァインとか、そういう仲間達と飲むときはそんなそぶりも全く見せないから、本当に弱いのか疑わしいところではあるのだけど。でも、わたしは実はちょっと酔った彼が好きだった。普段だったら絶対見れないような笑顔が見れる、そのことだけでも嬉しいけど。それ以上に、こんな姿を知っているのはわたしだけ。そのことが本当にわたしに嬉しさをくれる。


「はい、お水。」
「サンキュ。」


ソファに座っているスコールにお水を差し出すと、彼はそれを一気に飲み干した。


「おかわりは?」
「いらない。
・・・・・・それより。」
「何?」


スコールがわたしに手招きをする。わたしは、そっとスコールの方へとかがんだ。すると、彼の腕が伸びて、わたしをひっぱった。


「ぎゃっ!」


いきなり引っ張られたから、わたしは思わず可愛くない声を上げて彼の上に倒れこんでしまった。ちょっと、どすっと落ちたから、彼はどこか痛くしなかっただろうかとか思って、わたしは慌てて彼を見た。だけど、スコールは別に普通に、わたしを自分の上に乗せてにこにこ、としていた。


「スコールー・・・。いきなりはびっくりするでしょー?」
「いきなりじゃなかったらいいのか?」
「それもヤダ。とりあえず、着替えようよ。皺になるよ、服。」
「別にいいよ。」


そう言うと、わたしをぎゅーっと抱き締めてから思いっきり唇を合わせてきた。アルコールの香りが、わたしをくらくらさせる。わたしが思わず彼にしがみつくと、スコールはまた嬉しそうににっこりと笑った。文句を言おうと思ったわたしの口は、何も言うことが出来ない。


まったく。
そんな笑顔を見せるのは反則だと思うんですけど。
可愛すぎるじゃないの!!


スコールは実は、お酒があまり強くないのです。べろんべろんにはならないけれど、でも甘えっ子になります。それも性質の悪い。
だって、ここぞとばかりににっこりと笑うから。だからわたしは、彼の思うままになってしまうしかない。
無意識なくせに、こういう風にわたしを振り回すだなんて、彼は実はものすっごく女扱いが上手いんじゃないの?
わたしの身体を撫でる彼の手に、わたしはそんなことを思った。


29.笑顔 end.


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意外な面を知って、わたしはもっとあなたが好きになる。