3.信じて
(ゼル、スコール 27歳)


「学園長、SeeD候補生、全員集合しました。」


試験担当教官からの報告を受けて、ゼルは1Fホールへと向かった。今日はSeeD認定試験だ。これから実地試験に向かう候補生たちに訓辞をしなければならない。これも大事な学園長の仕事のひとつだ。


集まった候補生たちが、ゼルの顔を見て、全員きちんと整列する。あれから世界は落ち着いてはいるが、それでも毎年SeeDを希望する生徒はそれなりにいる。今は一般生徒も受け入れているガーデンだが、未だに傭兵養成学校としての面も失ってはいなかった。
SeeD候補生は、大体15歳から18歳くらいの若い子が多い。彼らの顔を見て、ゼルは少し心の中で苦笑した。


緊張しているんだ、どの子も。


戦場の緊張レベルがそんなに高くないものとは言え、これが彼らの始めての実戦となる。そんなことを目の前にして、怖くないわけないのだ。試験の結果も気になるだろうが、それよりこれから始まる戦闘が、「現実」のものだということを、彼らは今身に染みて感じているんだろう。そういう気持ちを持たざるを得ないんだろう。


ーーーーーー俺達が、そうだったように。


「諸君、これから君達は現実の戦闘に参加することになる。そこで起きることは全て現実だ。自分の行動ひとつで、作戦が成功したりしなかったりする。自分の行動の責任は全て自分で取らなければならない。そして、依頼者の目的をどんなことをしても叶える、そういった世界に踏み出すことになる。
きっと、君達は今不安だろうと思う。君達の前に広がる世界は、確実性のない世界。それでも君達はそれを志願した。ならば、恐怖を乗り越えてもやらねばならない。わかるね?」


そこまで言うと、ゼルは一息入れた。候補生たちは皆、真剣な顔をして聞いている。
ゼルはその様子を見て。
それからそっと微笑った。


「君達は、まだ全然自分がどの程度通用するのか、そういうことを信じられないと思う。わたしもそうだった。やる気が結果に繋がるのか、とても不安だった。
だが、戦場では自分達を信じて欲しい。この試験に参加するまで、君達は厳しい訓練を受けていたはずだ。それは、必ず君達の力になっている。過信はいけないが、自分のことを何も出来ない、そんな風には思わないで欲しい。
そして、仲間のことも信じて欲しい。厳しい訓練を乗り越えてきた仲間達の技量も信じて欲しい。

わたしたち教官は、君達がそう出来ると、その力があると信じています。そして、多くのSeeDが生まれることを、信じています。」


不安を押し隠して無理にはしゃいでいる子も。
震える手を隠して、気丈に立つ子も。
きっと、大丈夫。
俺はそう信じているから。


この訓辞が、これから戦いに行く彼らの役に立つかどうかはわからない。だが、少しでも、彼らのこれからの道に役立てば、それだけでいいとゼルは思った。
候補生達が解散した後、後ろの方からぱちぱち、と拍手の音がした。
ゼルが振り返ると、そこには懐かしい顔があった。ゼルを見て微笑んでいた。


蒼い瞳の、相変わらず綺麗な、大切な友達。


「・・・・・・いい訓辞だったな。」
「いつから聞いてたんだよ、スコール?恥ずかしいじゃねぇか。」
「ここに来たら、ちょうどお前の訓辞が始まったからな。ついでに聞いてた。」
「ま、いいけどよ。久しぶりだな。」
「ああ。」


スコールは、ガーデン査察官だ。だから、一箇所にずっといることはない。定期的にバラムにも寄るが、それほど長居はいつもしなかった。相変わらずリノアと世界を転々としている。
だが、彼は仲間の近くに来たときは、必ず少しでも顔を見せに来てくれる。どんなときもそうだった。それは、ゼルにとっても嬉しいものだった。


「・・・・・・・もうSeeD試験か。懐かしいな。」
「そうだろ。」
「あれから随分経ったな・・・・。もう10年か。」
「覚えてるか?俺達の試験のときの訓辞さ、シド学園長いやにおどけてたよなー。あんときは『なんだこのおっさん』って思った。お前もそう思わなかった?」
「思った。うるさいと思った。」


苦笑しながら同意するスコールに、ゼルも笑った。そして、話を続ける。


「でも、今になって思うんだよ。アレは、シド学園長の精一杯の思いやりだったんだよな。」
「・・・・・・そうだな。」
「俺達もやっぱりあの子たちと同じでガチガチでさ。そんな俺らを見て、ちょっとでも気晴らしさせてくれた、そんな気がすんだよな。
・・・・・・・まだまだだよ、俺も。」
「・・・・・・・俺達が、あの子達に出来ることって言ったら、信じることくらいしかないもんな。」
「そうなんだよ。絶対大丈夫だ、そう信じてやることくらいしか出来ない。
でもそうやって、ひとの思いって繋がっていくのかもしれないな、と最近は思うんだよ。」
「・・・・・・そうだな。」


自分達が実戦に出て、助けてやることは出来ない。
自分達が出来るのは、あの子たちが大丈夫だと、信じてやることだけ。
それは、まだまだ自分達には荷が重いけど。ときには自分が出て行きたくなるような、そんな思いに駆られるけど。それでも、俺達は俺達に出来ることをしていけばいい。
それで、いい。それが、いいのだ。


「今日さ、うち寄ってけよ。リノアもいんだろ?ウチのも会いたがってるし。」
「ああ、サンキュ。」
「久しぶりに飲もうぜ。女たちは女たちで話し込むんだろうしよ。」
「ああ。」


ゼルとスコールは肩を並べて歩き始めた。その姿は、10年年月が経っていても、相変わらず17歳のときの自分を忘れていない。そう思わせるようなそれだった。


5.信じて end.

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変わっていくものと、変わらないものが確かにある。