30.話したいこと・聞きたいこと (スコール×リノア 23歳) 俺の話したいことが、聞きたいことが、君のそれと一緒なら。 それは、何て。 「・・・・・・何だ?」 俺はさっきから本を読んでいたのだが、ふいに視線を感じて本から顔を上げた。そこには、じいっと俺の顔を見ているリノアがいた。さっきからずっと見られていたのだろうか?よくはわからなかったけれど、俺が視線を合わせてからも俺のことを見つめるリノアに、何だか俺は気恥ずかしいような、そんな気持ちになって、思わず本を閉じて尋ね返した。 すると、リノアは俺のことをじっと見つめたまま、そっと言葉を洩らした。 「スコールって、かっこいいよねえ・・・。」 「はあ?」 何をいきなり。 俺が怪訝な顔をしているのに気がついて、リノアは真剣に言い返す。 「なあに?スコールは自分のことかっこいいとは思わないの?」 「・・・・・・思わないけど・・・・・。」 「えー、何で!?もったいなーい!!」 「自分の顔なんて、そんなこと思わないだろ・・・・。」 俺が呆れたかのようにそう言うと、リノアはぷうっとした顔をした。その表情は、俺たちが出会った頃のものと全く変わっていなかった。いつまでもあの頃のまま、愛らしいままだった。 リノアはぽすっと俺の隣に腰掛けると、脚をぶらぶらさせた。そんな子供みたいな仕草に俺は、少し笑ってしまう。 「なに笑ってるのー?」 「や、相変わらずだなあって思って。」 「どうせわたしはいつでも子供っぽいですよーだ。」 「そうかな。」 「そうだよ。スコールが大人っぽくてカッコいいから、わたしもそうなりたいといつも思ってるもん。」 口を尖らせて言う彼女に、俺も苦笑した。 そういうコンプレックスを持っているのは、俺だって同じだ。そのこと、君は何もわかっていない。そう思って。 「俺のはただ単に老けてるってだけだ。昔っからいつも、年相応に見られなくて、結構嫌なんだが。」 「そっかなあ・・・。カッコよくていいと思うけど。」 「でも、可愛くない子供だってのは嫌になるほど言われたぞ?子供らしくない、とかな。」 俺は、ちょっと苦笑しながらそう言った。まあ確かに自分でも可愛げない子供だったと思うのだから、他人から見たらもっとそうだろうと理解はしているのだが。それでもそんなことばかり言われて、俺は傷つかなかったわけではなかった。そのときの気持ちを少しだけ、思い出してしまった。だから、ちょっと複雑そうな表情を浮かべるしかなかった。 そんな俺に、リノアは少しだけきょとんとした。しかしその後すぐに、にこり、と笑った。その笑顔は何だかものすごく優しいようなそれで、俺は思わずどきり、としてしまう。そんな俺に気付かずに、リノアは口を開いた。 「スコール照れ屋さんだもんね。分かりにくいけど優しいのに、もったいないね。 でも、わたし、そんなスコール好きだよ。」 いきなり、何でもないように好きだと、そう言われて。 俺は思わず赤くなってしまった。かかか、と頬が熱を持つのを止められない。そんな俺を見て、リノアも少し赤くなって、それからえへへ、と笑った。 全く。 どうしてリノアはいつもこうなんだろう? リノアは俺が聞きたいことを、いつもきちんと見つける。そしてそれを言葉にするのを躊躇わない。それはすごいことなのだ。俺はそうするのが中々上手くはないからだろうか、余計にそう思う。 俺も、心の中でたくさん渦巻く思いがある。たとえば今胸が温かくなるような、しめつけられるような、そんないとおしさも何もかも、俺は言葉にして君に伝えたいのに、でも出来ることと言ったら。 俺もだ、と、そうこっそりと告げるだけだった。 それでも、俺が赤くなりながらぽつりと言った言葉に、リノアは本当に嬉しそうな顔をするから。にっこりと笑ってくれるから。だから、それは俺の滞りがちな言葉を促してくれる。 俺のこんなつたない言葉でも彼女は喜んでくれる。それは、俺の話したいことが、全部ではないけれど確かに少しは彼女に伝わっているからだろうか?そうだといい。俺はそう願う。 君が話す言葉が俺の聞きたい言葉であるように、俺が話す言葉も君が聞きたい言葉であればいい。 そんなことを、俺はこっそりと思った。 30.話したいこと・聞きたいこと end. ****************** 話したいことと聞きたいことが一致するのは、もう奇跡だと言っていい。 |