39.思いが伝わる
(スコール×リノア 17歳)


触れた手の先から、確かに暖かさが伝わる。
それと同じように、思いも伝わればいいのに。
そんなことはない、とわかっていても、それでも。
そう望まずには、いられなかった。




「スコール?」


スコールの部屋の扉を何回かノックしたが、全く返事はなかった。いつも気配に聡い彼には珍しい。何か、あったのだろうか。悪いとは思いつつ、リノアはそっとスコールの部屋のドアを開けた。


シュンっとした音とともに、ドアがさっと開かれる。
鍵はかかっていなかったようだった。
リノアは辺りを少しだけ見回した。


恐ろしいほど、片付いた部屋だった。
まるでそこで誰かが暮らしているなんて考えられないほど。
余計なものは一切なく、必要なものだけが整然と置かれている。
それは、本当にこの部屋の主のこころをも表していた。リノアは少しだけ、寂しくなる。


その、肝心の部屋の主はというと。
ベッドでまるくなって眠っていた。
よっぽど疲れているのかもしれない。最近色々ありすぎたし、ましてやスコールは拷問も受けたりしていたのだ。疲労もピークなのだろう。
現に、今リノアが傍へと近寄っても、スコールの瞼はぴくりともしなかった。
起きないのをいいことに、リノアはスコールのすぐ傍へと近寄ってみた。そして、顔を覗き込む。


近くで見た、彼の顔は。
いつも見ている彼のものとは、まるで違って見えた。


瞳を閉じている。
たったそれだけなのに、そのせいでここまで印象が違う人も珍しい。リノアはそう思う。
きゅっとつぶった瞳も、軽く寝息を立てる少し開いた唇も、何もかも。
まるで、ちいさなこどもみたいに、それはたまらなく、無防備だった。


これが、本当のあなたなんだろうか?
そうかもしれない。しかし、そうではないとも思った。
今見ている、こどものようなスコールはスコールの一部。普段見ている、冷静で何でも出来そうな彼も、スコールの一部。
それらが積み重なって、スコールという人間がいる。


今まで、リノアは起きている彼ぐらいしかみたことはなかったが、彼の無防備な顔を見て。何だか妙にほっとした。
変な話だが、彼の寝顔を見て、やっと彼という人間がつかめたような、そんな気持ちがしたのだ。
まるでちいさなこどもが、ひとりで辛いことに耐えているかのように彼は眠る。
それを見て、こころが締め付けられるような、泣いてしまいたいような、そんな気持ちにふいに襲われた。


傍に。
傍にいて、見守ってあげたいなあ。
無性に、その想いがこみ上げてきて、仕方なかった。


今まで、そんなことは思わなかった。
彼は何でも出来る。だから、誰もいなくても別に平気なんだろう。一人で生きていくことが出来るんだろう。そんなことすら思えるほど、彼は完璧に見えていた。
しかし、そうではない。
彼はひとりでいることに慣れている人ではない。
ひとりでいたがっている様に見えて、その実誰よりも、ひとりにはなりたくない人なのではないだろうか。


たかが寝顔を見ただけで、そんなことを思うのは馬鹿げている。
そんな風にもリノアは思ったけれど。
しかし、たかが寝顔だからこそ、見えてくるものもある。そうとも思った。


手を伸ばして、彼の髪の毛に触れてみた。
見た感じからしてそうだろうと思っていたが、やはり現実の彼の髪の毛は、細くて柔らかかった。


わたしは、見捨てない。
わたしだけは、ひとりにしない。
だから、怯えないで。


そんなことを思いながら、彼の髪を撫でていた。


眠っている彼はやはり体温が高い。リノアの掌にもそっとそのじんわりとした暖かさが伝わった。
同じように、自分の気持ちもそうやって彼に伝わるといい。何も言わずに気持ちが伝わることなんてない。リノアはそう思っているけれど、それでも。
何も言わなくても、伝えられるものがあったらいい。
そう願った。


もう、ひとりぼっちに怯えるちいさなこどものように眠らなくても済むように。


39.思いが伝わる end.


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眠るあなたに呼びかける。