40.すぐに
(リノア、セルフィ 17歳)


すぐに。
触れたいなあと思ったときすぐに触れられる距離にあなたがいるというのは、嬉しいことなんだけど。
でもそれは同時に、触れてもいいのに何だか恥ずかしくてそうは出来ないと言うか、そういう複雑な感情をも連れて来ると思う。


***


「なあなあ、リノアたちって二人でいるときっていっつも何してんの?」
「ええ?」


カフェテリアでお茶をしているときに、いきなりセルフィにそんなことを言われて、わたしは少しきょとっとした。そんなわたしに、セルフィは顔一杯に好奇心を浮かべながら、もう一度問い直した。


「スコールと一緒のときって、リノアどうしてんの?」
「うーん、と。」


わたしたちが一緒のとき。
それはどうだったかな。それを逡巡して、それからわたしはその質問に答えた。


「スコールは何かお仕事とかしてて、わたしは隣で本読んだりとか・・・。」
「他には?」
「えっと、わたしがゲームやって、ちょっと詰まると教えてくれたりするよ。」
「そうじゃなくてー!!」
「へ?」
「いっつもいちゃいちゃくっついてたりするんじゃないの?」
「ええ!?」


真面目な顔してそんな風に言い切られて、わたしはびっくりして、それからちょっとだけ照れくさくて赤くなってしまった。そんなわたしにセルフィは少し驚いたようだった。


「なあに?それって照れること?」
「うん、いきなり言われると、ちょっと恥ずかしいです・・・・。」
「でも、ホントでしょ?今なんて、ラッブラブなわけだし。」
「いや、そんないつもとかはしてないよ?ときたま、だよ。」
「うっそーん。だって、テラスでむちゃくちゃいちゃいちゃしてたやん。」
「あ、あれは!!」


そうでした。初めてのキスだったのに、全部みんなに見られてしまったんでした。あのときの羞恥を思い出して、わたしはものすごく赤くなった。あのときは、ちょっとみんなが浮かれているムードにつられて、それでそんな雰囲気になって・・・って感じだったんだけど、でも今から思うと、うかつだったと思う。みんな忘れてー!と思ってるけど、でも絶対みんな忘れないんだろうなあ。そう思って、わたしはまたげんなり、とした。


「もうね、あのときみんなに見られて、しばらくはスコールの顔とか見るのも出来なかったんだから、わたし!」
「ええ、なんでー?」
「だって、すっごく恥ずかしいんだもん。あのときの気持ちとかを思い出すと、わたわたするしさ。」
「ああ、それはあるかもねえ。」
「でしょでしょ。」
「でもさあ、今はもう結構アレから時間経ってるじゃん?今はもう慣れたでしょ。」
「慣れない、よ。」
「ええー!?」


わたしが答えた言葉は、セルフィからしたらとても意外なものだったらしかった。目の前の彼女は大きな瞳をさらにいっそう丸くさせていた。


でも、どんなに時が経っても。
きっとわたしは、スコールに慣れることなんてないんじゃないだろうか。そう思う。


わたしから彼に触れるのも、嫌がられることはないというのわかってても、それでも中々出来なかったり。
触れたいなあ、という気持ちのままに抱きつくなんて、何だか恥ずかしくて出来なかったり。
何でかなあ。彼に慣れることなんてきっと、ずっとないんじゃないか。そんな確信を持ってしまう。


でも、それは仕方ないんだ、きっと。
だって、わたしは多分、初めて好きだと思ったときよりもずっと、今の彼のほうが好きだ。くらくらするほど好きな人が目の前にいて、どきどきしない訳がない。
わたしは、恋をしているのだもの。
だから、きっと恥ずかしいようなくすぐったいような、そんな気持ちをなくすことはないと思うのだ。


「結構長く一緒にいたら、慣れるもんだと思うけどなー。」
「好きな人は、特別だよ。だから、好きな人なんだよ、きっと。」
「わかんない。」
「そのうちわかるよ。」
「ふうん。」


セルフィはそう言いながら、くるくるとマドラーをアイスティの中で泳がせていた。わたしはホットチョコレートのクリームをスプーンですくって、それを食べた。


すぐに手に届くところにあなたがいる。
それは、とっても嬉しいけれど、でも同じくらいくすぐったいような、恥ずかしいような、そんな気持ちもする。


あなたを知って、わたしは初めてそういう気持ちを知りました。


40.すぐに end.


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いつまでも、きっと慣れてしまうなんてことはないと思う。