42.ごみ
(アルティミシア)


どちらがゴミかといえば。
それはもちろん。


次から次へと城に乗り込んで来ては命を落としていくSeeDたちの姿を眺めて、アルティミシアはふ、と吐息を洩らした。
まだ、自分のところまで到達するものは現れない。皆この城の入り口にすらたどり着けず、モンスターにやられていくものばかりだった。精鋭の名が聞いて呆れる。そう思うほど、あっけなくSeeDたちはやられていった。


それは、千年のときをかけてSeeDの野生を眠らせたからなのだろうか。伝え聞く伝説となっている、初期のSeeDとは比べ物にならないほど、現代のSeeDは弱体化している。最強の傭兵、とは名ばかり。長い平和が続き、誰も争いなどもしなくなって、軍としての存在意義すらない。ただの一般的学校と成り果てたガーデンと同じ。
魔女が伝説化していく中で、SeeDやガーデンもまた、その特殊な存在意義を失っていた。


誰も、わたしを眠らせてはくれない。
誰も、わたしを死なせてはくれない。


かつて襲った絶望が、またアルティミシアのこころを襲った。
そして、ひとつぶ涙を零した。


ーーーーーねえ、パパ。
どうして、わたしを生み出したの。


今は亡き、自分の父とも、兄とも、恋人とも呼べるかの人にそう問いかけた。
彼はどうして、わたしを生み出したのだろう。ただ研究がしたかっただけ?それとも、何かを見つけたかったのか?自分にはわからない。彼は何も、言わなかったから。
禁忌の研究に手を出して、そして何も残さずに死んで行ってしまったかの人を思い、アルティミシアは泣いた。




「きみは、はじまりでおわりのものになれるんだよ。」
「それは、なあに?」
「まだわからないけれど。でも、いつかそれをきみは見る事が出来る。」
「パパは?」
「私は、・・・・・・無理だよ。でも、アリーなら出来るかもしれない。」




まるでごみのように折り重なって死んでいくSeeDたちを眺めながら、アルティミシアは少しだけ回想の淵へと沈んで行った。
自分にとって、しあわせでそして苦しみをも与える、あの暖かくて心地よい記憶の海へと沈んでいく。


今のわたしを見たら、パパは何と言うかしら?
人がゴミのように死んでいっても、こころに何の感情も抱かない。
これが、パパの望んだ、はじまりでおわりのもの?
いつまでもひとりぽっちなわたしが、はじまりでおわりの唯一の存在?


ねえ、パパ。
わたしは、人を殺すしか出来ないの。
誰もわたしに触れない。わたしの傍にいてくれない。
パパがくれたおともだちも、わたしの言うことを聞いて、わたしに逆らう人を殺してくだけ。
これが、はじまりでおわりのもの、なの?


でも、わたしはただ眠りたいだけなの。
もう、眠りたいの。
もう、いいでしょう?
ねえ、パパ。


閉じていた瞳を開いて、また外の様子を眺めた。先ほどよりもさらに、死体が増えた気がした。無造作に積み重ねられて、それが生きていたなんて思えないほどに。


それでも、思う。
ごみのようなモノなのは、彼らではなくて。
存在意義もなく、どうしていいかわからず、それでもこうやって破壊していくしか出来ない自分こそが、”ごみ”、なのだと。
ただの、チリなのだと。


アルティミシアはまた瞳をつぶってうとうと、とし始めた。


42.ごみ end.


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ねえパパ。この声が聞こえますか?