46.君でないと
(アーヴァイン×セルフィ 17歳)


君じゃないとダメなんだ。
その思いは、もしかしたら強迫観念なのかも、とか思ってたのだけれど。


ガルバディアガーデンで初めて顔合わせをした。そのとき僕が言った冗談がひどくお気に召さなかった(らしい)我が班長さんが、また余計な一言を女性陣に洩らしてしまったが故に、何だか二つのチームに分かれて駅まで向かうことになった。


なんだかねえ・・・。駅までなんて、ホントすぐそこなのに、どうしてこんなややこしいことするんだか。適当に流せばいいのに、売り言葉に買い言葉って、まさにこれだよねえ。
スコールって、あんな性格だっけ?ああ、そうだ。昔から真面目っ子だった、そういえば。
だけどねえ。


スコールたちは、もう先へと行ってしまった。あっさり置いていくあたり、ホント血も涙もないと思う。それは、彼女たちもそう思ったみたいだ、それぞれに。
そして。
むすっとしながらも明るく笑うセルフィと、少し哀しそうな顔で唇を噛み締めるリノアの姿があまりにも対照的で、僕はそっと溜息をつく。
全く、口が悪すぎるんじゃないの、スコール?
女の子に、あれはないよなあ。
それでも、あまりにも態度が違うセルフィとリノアの様子で、何となく僕には分かったけれど。


ははーん。
リノアちゃんは、あの愛想なし班長さんが好きなんだね?
だから、ちょっと冷たくされても、激しく傷つくんだ。キスティが腕を組んだくらいで、少し妬いちゃったりするんだ。かわいーの。
この、リノアという女の子は僕は初対面だった。それでも色々分かってしまうほど、彼女は妙に素直な人だった。


多分、スコールも気付いているんじゃないのかねえ。こんなにあからさまなんだもん。
それなのに、まるで無視したようにああいうこと言うってのは、やっぱりスコールってば鬼なのかねえ?


僕がそんなことをつらつらと考えている間、そばでセルフィがリノアを一生懸命慰めていた。


「あのね、リノア?どうせはんちょ、考え無しに言ってんだよ、アレ。何だか分かってない顔してたしね。
本気じゃないよ、きっと。」
「そう、かな?
でも、わたしとかがアーヴァインと行くって言っても、別に普通だったよね・・・?」
「普通・・・でもないと思うよ?あの団体行動守れとか、規則にうるさいはんちょが、別行動許すなんてヘンだもん。結構ムカついてると見たね、あれは。」
「・・・・そっかな。」


くるくる、とセルフィは笑いながらリノアに話しかける。最初は何だかしょんぼりしていたリノアも、セルフィにつられるように、最後にはにっこりと楽しそうに笑った。ご機嫌は直ったみたいだった。
しかし、僕は。
セルフィのその行動を見て、とても。


とても、暖かい気持ちを抱いた。


セフィはいつも、そうだよね。
誰かが泣いてたり、誰かがさみしそうにしてたりしてると、必ず傍で慰めてくれる。ちいさな嘆きを聞き漏らさない。きちんと受け止めて、癒してくれる。ほんのちいさなこどもだった頃から、セフィはずっとそうだった。


ああ、君は変わってない。
これだけ過ぎ去った年月の中で、もしかしたら彼女は変わってしまっているかもしれないとか危惧していたけれど、そうではない。
彼女は、相変わらずだった。


僕のときもそうだったよね。
僕のちいさなこえを、聞き逃さずに助けてくれた。
遊びも、必ず誘ってくれた。
あのとき僕がどんなに嬉しかったか。きっとセフィは気がつかない。
だけど、そこがいいんだ。


僕は、少しだけ俯いた。そうして、頬に浮かぶかすかな笑みを隠した。気がつかれたくはなかったから。


長い間離れていて、僕は君以外のたくさんの女の人と付き合ったよ。
だけど、ふとしたときに君を思い出して、そしてせつなくなってしまったんだ。
それは、昔何も出来ずに離れてしまった痛みがもたらす幻影みたいなものかもしれない、そう思っていたのだけど。ただ、ちいさな頃の思いに縛られているだけなのかもしれない、と思ったんだけど。
でも、違うみたいだ。
だって、今僕はとても、ドキドキしている。
それはきっと。


「さあ、駅まで行こうか〜?駅まではすぐだし、すぐに合流できるよ。」
「うん。」
「じゃあ、れっつごー!」


僕は明るく彼女たちに呼びかけた。彼女たちから帰ってくる返事が、ガルバディアガーデンの騒音の中に溶けていった。


46.君でないと end.


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懸念と現実が違っていたことが、たまらなく嬉しい。