48.気になる
(リノア、サイファー 18歳)


「あれ、サイファー?」
「何だよ、リノアか。」


図書室へと本を返しに行く途中。懐かしい顔に出会って、わたしは本当にびっくりした。それは向こうもそうだったみたい。滅多にそんな顔はしないのに、少しだけ目を見開いている。


サイファーは、やっぱりもうガーデンに戻る気はないみたいだった。一応シド学園長や色々な人が誘ってはいたみたいだけど、それでもサイファーはどうしても首を縦には振らなかった。周りが許しても、自分が許せない。そんなことじゃなくて、バラムに反逆すると決めたときに、覚悟したことだったから。そんな理由をわたしはスコールから聞いていた。
わたしはとてとてと、サイファーの隣に駆け寄った。


「今日、どうしたの?」
「ああ。在学証明書貰いにきたんだ。俺、エスタの大学入ろうと思ってな。でもそのためには、以前の経歴証明書が要るんだよな。」
「えー、そうなの?すごいね!」
「ま、いくら縁を切りたいと思っても、中々切れないもんさ。ここにいたのは確かだし。」


サイファーはそんなことを言うと苦笑した。その笑顔は、昔は見た事がないようなもので。月日が経った、それ以上に彼は変わらざるを得なかったのだ、ということをわたしに教えた。
きりっとした眉も、力のある視線も変わってはいないんだけれど。それでも、今までは鞘に入っていなかったむき出しの剣のようだったのが、少しだけ柔らかなものにくるまれているみたい。冷たい容貌に、何か暖かなものが加わった。それをわたしは確かに感じていた。
わたしはふうん、と頷いた。それを見て、サイファーは少しだけ意地悪そうに笑う。


「リノアもそうだろ?まさかまだ俺に会うなんて思ってもいなかっただろ?」
「うん、驚いたけど。でも、元気そうな顔が見れて嬉しいよ。」
「そんなこと言っていいのか?」
「え?」


サイファーが何を言いたいのか、よくわからなくて。わたしは思わず怪訝な顔をしてしまう。それを見て、サイファーはおかしそうに噴き出した。
ああ、そうだ。
昔、いつもそうだった。
サイファーはいつだって突拍子もないこと言ってわたしを驚かせて、そしてわたしがびっくりしているのを見て笑うんだった。悪戯好きなこどもみたい。
そして、わたしは。
そこが、大好きだったんだ。確かに。


過ぎ去った過去のこと、思い出してわたしは笑った。その表情を見て、サイファーは何とも言えない顔をした。


そう、あなたも私もわかってる。
あのときと、今は違うってこと。
好きだったところは変わっていないのに、それでもあのときほどの気持ちはなくって。それは、寂しいような懐かしいような、不思議な気持ちを連れて来る。


「リノア、お前、俺がお前のこと好きだったって言ったらどうする?」
「・・・・・どうもしない。それは、サイファーも、でしょ?」
「そうだな。」


そこまで言って、二人でくすり、と笑った。
そう。
昔と今、違うことに懐かしさを抱いても、昔がよかったと思わないの。昔に帰りたい、なんて全然思わない。それはふたりともそうで。


ふたりとも、そうなれたことが嬉しくてたまらなかった。だから、笑ってしまうのは仕方ない。


「・・・・・・って、おーい、ダンナがものすごい顔でこっち見てるぞ。」
「え?」


サイファーが見上げた方を見ると、そこにはスコールがいた。二階の廊下から、わたしたちを見下ろしている。何だか不機嫌そうな、苦虫を噛み潰したかのような顔で、こっちを見ている。
わたしがにっこり笑って手を振ると、スコールははっと気がついて、それからそそくさと行ってしまった。
そんなスコールの様子を見て、サイファーはふうん、と鼻を鳴らした。


「リノア、俺達の関係アイツに言った?」
「何も言ってないけど。」
「それヤベェよ、リノア。」
「だって関係も何も、何にもなかったんだから、言いようがないよ。」
「それでも一度、ちゃんと言っておいたほうがいいと思うぞー。まあ、俺が煽ったせいもあるんだけど、スコール、めちゃくちゃ気にしてると思うぜ?
アイツ、ああ見えてかなりしつこいからな。いつまでもぐちぐちと悩んでるぜ。」
「・・・・・・そうかな。」
「例えばさあ、スコールとキスティスが昔結構いい感じだったって聞いたらどうだよ、リノアは?」
「何それ!?」
「ほら、気になるだろ。おんなじだ。」
「・・・・・・そっか。」


まさかにサイファーにそんな忠告されるとは思っていなかった。だけど、その言葉はとても正しい。わたしはそう思って、こくり、と頷いた。それを見て、サイファーもにやりと笑った。その笑顔はやっぱりサイファーならではのものだった。
やっぱりサイファーはサイファーだわ。
わたしはそんなことを思って。


そして、サイファーと笑って手を振って別れた。


48.気になる end.


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むかし、本当に好きだった人のことを、好きじゃなくなる。そんなことはありえないわ。