50.ダイスキ (スコール×リノア 20歳) だいすき。 ダイスキ。 わたしが彼に対して思う気持ちは、結局全てそこに行き着くの。 *** 今日は、彼は帰りが遅いらしい。 彼の分の食事をフリーザーの中に入れながら、わたしは少し溜息をついた。そして、お茶をひとり分淹れた。今日は寒い。待っている間、凍えてしまわないように。 アンジェロは、ぱちぱちとはぜる暖炉の前で眠っている。辺りには、まるで音はなかった。わたしはアンジェロの隣に座って、テレビをつける。テレビから聞こえてくるドラマの音が、いやに大きく感じられた。何でだろう。それは、静か過ぎる夜のせいだからなのかしら? テレビでは、いつも楽しみにしているドラマが流れていた。わたしは、これ楽しみで、ダイスキだった。確か先週、続きが早く知りたいわ、と言ってスコールを笑わせた。 だけど、どうしてかな。 あんなに楽しみにしていたのに、何だか面白くない。 話の内容は、確かに頭を通り過ぎるのに、それがわたしの中を埋めてはくれない。どことない寂しさ、みたいなものを慰めてくれない。 そして、わたしはその理由も知っている。 ーーーーーそれは、彼がここにいないからだった。 スコールと結婚して、もう一月が経った。 この一月、今までからしたら考えられないくらいに一緒にいる。今日はたまたま遅くなるみたいだったけれど、でも絶対帰ってくるわけで。今までみたいに、次はいつ会える?そんなこと考えなくても、明日のお日様を見る頃には絶対わたしの傍にいるだろう。そのことは分かっている。 でも、不思議だ。 ずっと一緒にいたら、寂しい気持ちなんてなくなるかしら、なんて思っていたのだけれど。一緒にいるからこそ、たまに傍にいないことが妙に寂しく感じられることを知ってしまった。 どうして早く帰ってこないのかしら。 そう思ってわたしは寂しくなる。 馬鹿みたい、どうしてこんなこと考えるのかしら。 そう思ってわたしは自分にイラつく。 瞳を閉じて、彼をおもった。 胸がきゅんとするような、どこかほんわかとするようなそんな例えがたい気持ちをわたしは感じる。 ああ、早く会いたいわ。 たった半日会っていないだけの彼に焦がれる。 それも、何もかも。 どうしてわたしが色々思うのか。 その理由は単純だった。 ダイスキ。 どんな気持ちを抱いても、結局全てはそこから始まっているの。 焦燥も、寂寥も、熱情も、憤怒も歓喜も何もかも。 全ては、そこから始まっている。 わたしは、そっとアンジェロの毛並みを撫でた。アンジェロはぴくり、と耳を動かす。わたしはそれにくすり、と笑った。 わたしの人生を彩るたくさんの感情。 それが全て、そういう暖かい気持ちから出発しているなら、とてもしあわせだわ。 そのとき、リンゴーンと玄関チャイムが鳴る。彼が帰ってきたのだ。わたしは慌てて玄関へと駆けた。今日は寒い。きっとスコールは、外で凍えている。 さっとドアを開けると、そこにはスコールが少しだけ鼻の頭を赤くして立っていた。 「おかえりなさい。」 「ただいま。」 わたしがスコールに呼びかけると、スコールも少しだけにっこりと笑った。 「ただいま」「おかえり」 家族にしか使えない挨拶。 これからずっと、交わしていけたらいい。そう思った。 ダイスキ。 わたしが彼に対して思う気持ちは、結局全てそこに行き着くの。 それは、眩暈がするほどしあわせだ。 50.ダイスキ end. ****************** すべてが、行き着くところ。 |