8.憧れ
(リノア、スコール 17歳)


わたしは素人だけど。
その言葉に甘えちゃいけないの。


「さっ、アンジェロ!今日も頑張ろっか!」
「くーん。」


ここのところ、夜になると訓練施設に向かうのが最近のわたしの日課だった。今は、ガーデンが動き出してしまって、どこへともあてのつかない旅になってしまっている。周りを見渡しても海ばかり。今までのわたしだったら、退屈してしまっていただろう。
けれど、今のわたしには、この「することがない時間」というのは有り難かった。


ザシュッ!!
モンスターを切り裂いて、ブラスターエッジが戻ってきた。


「うーん、まだちょっと軌道が甘いなあ・・・・。」


バイトバグを倒して、わたしはその死体に近づいて自分の与えたダメージのチェックをする。普通の女の子なら絶対にしないようなことも、今のわたしは平気になってしまった。最初は怖くて、気持ち悪くて仕方なかったけれど、もう平気。


だって。
わたしはもっと、みんなみたいになりたかった。


みんなとバトルに出ても、わたしはイマイチ役に立てているとは言いがたい。わたしが、女だから、そういうだけじゃなく、やっぱり戦闘訓練を受けているみんなと素人のわたしでは、かなり腕に隔たりがあるのだった。同じ女でも、セルフィやキスティスは本当に無駄の無い戦い方をする。体力を無駄に使わず、最小で最大の効果を得られる攻撃をする、ということが出来ていた。彼女達の戦闘は、本当にわたしの憧れだった。


わたしも、あんな風になりたい。
足手まといになるのではなく、役に立ちたい。
ここにいてもいいって、そう思いたいの。


わたしはそんなに戦闘はうまくはない。みんなもそれきちんとわかってて、わたしには大変なモンスターの相手をさせることはなかった。彼らにとっては雑魚、と呼べるような小さなモンスターをわたしは倒すことになっていた。
でも、だからこそ。
大変なモンスターを相手にしているみんなの手をわずらわせたくはなかった。
そして、いつかはみんな助けになるような、そんな自分でいたかった。


だからわたしは毎晩、スコールに教えてもらった訓練施設でこっそりと戦闘練習をしている。
それはいつも大体1時間半ほど。そのあたりでだんだんわたしも疲れてくる。疲れているときに無理をするのが、こういう訓練には一番よくない。
今日もわたしは一時間ほどの時間を過ごして、それから訓練施設を出た。


でも。
廊下に出たところで、わたしの足は止まってしまった。
アンジェロが不思議そうに、くーん?と鳴く。


「・・・・・・何してるんだ?」
「・・・・・・スコール・・・・・。」


訓練施設を出たすぐの廊下で、スコールが長い足を組んで寄りかかっていた。わたしは、何を言っていいか分からなくて、すこし戸惑ってしまう。秘密の練習を見られたからだろうか。なんだかとても気恥ずかしかった。
そんなわたしに、スコールは少しだけ眉を上げて、わたしの姿を見た。わたしは慌てて、スコールに笑いかける。


「あ、スコール眠れないのっ?ここ、奥のほうに綺麗な景色見れるところがあるんだって。そこ行って来たら?」
「・・・・・・・。」


スコールは何も言わなかった。けれど、わたしに近づいて、そしてわたしのブラスターエッジを取り上げた。まだ、少しだけモンスターの体液でまみれているそれを見て、スコールはぽつり、と尋ねた。


「・・・・・毎日、練習してたのか?」
「・・・・・だって、わたし、あんまり上手くないから。練習しないと、ただでさえ足手まといなのに、もっと駄目になっちゃうでしょ!」


口に出した言葉は、わたしが言われたくない言葉。だけど、いえ、だからこそ、わたしは明るく言った。
足手まといなのは本当のことだもの。ごまかしようのない真実だもの。それに目を背けちゃいけないの。


明日のわたしが、今日よりもっといいわたしになるために、目を背けちゃいけないの。


スコールは綺麗な蒼い瞳で、わたしのことをじっと見た。そして、手を伸ばしてわたしの頭をくしゃっと撫でた。急に彼の体温を感じて、わたしは赤くなる。


「努力するのはいいことだが。けれど独学だと伸びるものも伸びなかったりするぞ?」
「・・・・・・・。」
「いつも、この時間に練習するのか?」
「うん、大体は・・・・。どうして?」
「誰か先生がいたほうが、もっと上達する。明日から、俺の訓練の合間に少しずつ見てやるよ。」
「え、いいよ・・・!!スコール昼間だっていつも大変で疲れてるんだから・・・!!」


わたしが慌てて手を振ると、スコールはちょっと笑った。・・・・そんなような気が、した。
ふっと、口元を緩めただけだったけれど。今のは、笑ってくれた、んだろうか?
それでも次の瞬間には、いつもの顔に戻ってしまっていたけれど。


「ここのモンスターにてこずるほど、俺は鈍ってない。だから気にするな。」
「・・・・・・ホントに、いいの?」
「・・・・・・あんたが上達すれば、それだけ俺たちも楽になる。それだけだ。」


上目遣いに尋ねるわたしに、そっぽを向きながらそっけなく彼は答える。それでも、そう言う顔も本当に嫌だとそういうことを物語っているわけではなくて。だから、わたしは嬉しくなった。堪えきれず、にっこりと笑ってしまう。


「これから、よろしくお願いします。レオンハート先生!」


ああ、わたしはやっぱり。
この人のことが、好きです。


8.憧れ end.


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いつかはあなたの隣に、立っていたいから。