〜PART17〜 運命だったとしても、それでもどこかに道はあるはず。 パンドラの箱を開けて、最後に残ったものが「希望」であったこととと同じように。 あの子が幸せになる道はある。 月日は流れる。 フュ−リ−の仕事はますます忙しくなり、リノアと顔を合わすことも少なくなってき てしまった。 生まれてしまった溝は埋めることもできず、会わないでいることで余計に広がってし まったかのようだ。 ここ数年、「おとうさん」と呼ばれていない。まるで、他人のよう。 しかし、それでもよかった。 あの子が普通の人生を送れるのなら、それだけでよかったのだ。 年々、リノアはジュリアに似てくる。 ジュリアに似ている顔を見るのは、楽しみでもあり、辛くもあった。 本当だったら、ジュリアも一緒に娘の成長を見守りたかった筈だと思うから。 でも、俺と結婚しなければよかったな、などとは絶対に思わない。 そんなことを考えるのは、最後のジュリアの遺言を全て否定するように思えるから だ。 俺が幸せだったのと同じように、彼女も幸せだった。 短い期間ではあったかもしれないが、いつまでも記憶は色あせないほど、あの日々は 輝いていたと思う。 後は、リノアが幸せになってくれることだけが、自分の望みだ。 きっと、同じ気持ちだよな?ジュリアも。 だから、俺は守り抜く。 俺たちの秘密を。 *** リノアが16歳になったとき、家出をした。 行き先はティンバ−。キャリッジ夫妻のところへ行ったらしい。 リノアは優しいリ−ナやウェインに懐いていたし、アルスとも仲が良かった。 小さい頃からシティを出たことのないリノアにとって、他に行くところが思いつかな かったらしい。 ウェインからこっそりと連絡がフュ−リ−にあった。 「まあさ、俺、お前にはお前なりの考えがあるんだとは思うんだけどな。でも、なん だかリノアが言う事も納得はできるんだよ。」 「あの子にはかわいそうなことをしているのはわかっているのですが・・・・・。」 「確かに、シティは危険だからな。お前は軍の幹部だからなおさらな。でも、若い子 を閉じ込めておくってのもどうかと思うんだよ。だからさ、お前思い切ってリノアを 俺たちに預けないか?」 「・・・・・・・・・。」 「お前も忙しいだろうし、リノアのことは守りきれないだろう。ここだったら、俺も リ−ナもいるし。今はリノア、若いから、目先のことしかわからなくなってんだよな。 もう少し大人になれば、あの子もきっともう少し軟化すると思うぜ?」 ティンバ−侵略のときに、ビンザ−は徹底的に魔女狩りを行った。 将来のレジスタンスの中心にならないように。 そんな理由を公表していたが、たぶんおそらくビンザ−のトラウマでもあるからだろ う。 全てのものを、また魔女に奪われないために。 結局、ティンバ−には魔女はいなかったのだが。 だから、今現在ティンバ−には魔女はいない。 そうならば、あの子の羽を伸ばさせてやりたい。 あの、人好きな子が、この10年間よく我慢したと思う。 日に日に暗い表情になっていったあの子が痛ましくて堪らなかった。 でも、心を鬼にして、それを見ない振りをしていたのだ。 「そうですね・・・・。わたしといるより、きっと先輩たちといるほうがあの子にとって は幸せかもしれない。」 「そんな風に考えるなよ!お前が誰よりもあの子のことを思っているのは、みんなわ かっているんだからさ。」 「ありがとうございます、先輩。リノアのこと、よろしくお願いします。」 「まかせとけって!!」 *** リノアはティンバーで楽しくやっているらしい。 近頃では、レジスタンス活動もしていると聞いて、ひやっとしたが。 しかし、ティンバ−に住んでいる以上、何かしらのレジスタンスに関わるのは避けら れない。あそこの住民はみなレジスタンスと関わっているからだ。 それに、ティンバ−のレジスタンスは開店休業状態で、まあ危険はないだろうと思わ れた。 *** そんなある日のこと。 「カーウェイ大佐、大統領からの面会の要請がきています。」 秘書がフューリーに告げる。 軍部に直接大統領が何かを言ってくることなど、滅多にない。 何かあったのだろうか。 「・・・・・・・わかった。」 ビンザーとの関係は、あのときからまるで他人のようになった。 必要ならば話をするし、協力もするが。 でも、昔のように二人で笑いあったり、そういうことは一切なくなった。 わたしたちの道は、本当に行き違ってしまったんだな。 あの頃には、もう戻れない。 わたしたちの絆は、あのときに切れてしまったのかもしれない。 「・・・・・・・・やあ、よく来てくれたね、カーウェイ大佐。」 「・・・・・・・・お久しぶりです。」 ビンザーは一人ではなかった。 隣に、美しい女性を伴っていた。 「・・・・・・こちらは?」 「この方を、軍部にも紹介しようと思ってな。偉大なるハインの末裔、魔女イデア殿だよ。」 ・・・・・・・魔女? 確か、ビンザーの魔女嫌いはかなり徹底していたはずだ。 なのに、なぜ魔女と一緒にいるのだろうか? いぶかしげな顔をするフューリーに、ビンザーは晴れ晴れと微笑んだ。 今まで見たこともない、すっきりとした笑顔をしていた。 「これから、イデア殿はガルバディアの親善大使となられるのだ。 そして世界を統一し、平和にする。 素晴らしいと思わないかね? 魔女とともに歩む世界こそ、この世の進むべき道なのだ。」 ・・・・・・・いったい、ビンザーは何を言っているのだろう? まるで、今までとは別人のようだ。 魔女イデアに向かってにこにこと笑いかけ、賞賛の声を浴びせるビンザーの姿を見て、 フューリーはひとつの確信を抱いた。 もしかして。 すると、魔女イデアはフューリーのほうへと近づいてきた。 「初めまして。これからどうぞよろしくお願いしますわね。」 「・・・・・・・・・。」 黙り込むフューリーの手をイデアは取り、そしてにっこりと微笑む。 その笑顔が、どこか禍々しいものを感じて、フューリーは思わず手を振り解いた。 「・・・・・あらあら、そんなに緊張しなくてもよろしいのに・・・・・・。」 そんなことをくすくす笑いながら言うイデアに、恐怖を感じる。 それは、ヒトとしての恐怖。 自分がいなくなっていまうのではないか、という漠然とした気持ち悪さだ。 わたしの勘が間違っていなければ。 ビンザーは、この魔女イデアに操られている。 そして、この魔女はビンザーを利用して、何かをしようとしている。 フュ−リ−にはそう感じられて仕方がなかった。 ビンザ−が、あれほど魔女を忌み嫌っていた彼が、魔女とともに歩む方針を 打ち出している。 そんな彼の姿を見て、フュ−リ−は魔女の力を見せ付けられたような気がした。 こんなにカンタンにひとの気持ちを操ることが出来るのか、魔女というものは。 そういう衝撃を受けたと同時に、恐ろしくなった。 リノアは、この魔女よりもさらに高い能力を持っている。 この魔女はやがてリノアという、最後の魔女の存在に気付くだろう。 唯一その手がかりを持っているビンザ−が懐柔されてしまった以上、それは時間の問 題と思われた。 リノアの存在がばれたとき、リノアはどうなるのであろうか。 リノアを消すことはできない以上、どうにかして彼女の精神を崩壊させ、その肉体を 乗っ取ろうとするのではないか。 今なら、まだ間に合う。 今のうちに手を打たなければ。 軍部に帰ると、フューリーは早速電話をかけた。 かけ先は、ガルバディアガーデン。 ガーデン精鋭の秘密部隊、SeeDを雇うために。 *** 「・・・・・・・相変わらずなんだね。」 「・・・・・・・お前、どうしてここにいる?」 雇ったSeeDが訪ねて来たとの報告を門番兵士から受けて、フューリーはそのための書類を調えていた。 そんなフューリーの前にやってきたのは、久しぶりに会うリノアだった。 以前よりも、どことなく娘らしくなってはいたが、意思の強そうな瞳は相変わらず変わってはいない。 久しぶり、だな。 元気だったか? ティンバーでは楽しくやっていたか? 色々聞きたいことはあるのだけれど、どれも口に出して言うことはできず。 ただ、黙ってリノアを見つめるだけ。 でも、生きていてくれた、そのことだけでほっとする。 「自分で呼びつけておいて、いつまでも待たせるってどういうつもり?」 「・・・・・・・お前には関係ないだろう。」 こんな風に話すのもしばらくぶりのこと。 こんな会話しかできなくても、話すことができただけ嬉しい。 「・・・・・・関係あるもん。 あのSeeDたちは、先にわたしが雇ったんだもん。」 「・・・・・・・・は?SeeDだぞ??」 「わたしたちだって、SeeDくらい雇えるんだから!! レジスタンス活動のためにはそのくらいするの!!」 金の面はまあ、置いておいて。 よくあのガーデンが派遣を認めたものだ、とフューリーは思った。 ガーデンは合議制をとっていて、各機関の賛成がなければものごとは決まらない。 反対に、そうだからこそ、SeeDの任務遂行率が高いのだ。 最初から見込みのない計画には、ガーデンは絶対にSeeDを派遣しない。 これはまあ、自衛策ともいえるだろうが。 ほぼ、SeeDの派遣代で運営しているガーデンにとって、任務の成功率や、評判は 死活問題だ。 今までからしたらありえない。 リノアの所属しているレジスタンスグループは少年たちばかりで構成されていて、 あまり活動はしていなかったはずだ。 けれど、リノアは嘘をつくことはしないから、雇ったということは本当なのだろう。 ・・・・・・・何があった? わたしが知らない間に、何かが起こっている・・・・・? 「とにかく、わたしたち、がんばるから!!」 「・・・・・・・?わたしたち?」 「魔女をやっつけるんでしょ!?そうすれば、ガルバディアも変わって、ティンバーも独立できるかもしれないよね!? だったら、わたしも協力しなきゃ!!」 「バカなことを言うな!!」 世間知らずなリノアにはわかっていない。 そんなに簡単に物事は進まない。 いつも前向きなのは、美点だとは思うが、この場合はただの欠点だ。 それに、魔女との戦いに、リノアが参加するだって?? そんなことをしたら。 フューリーにバカと言われたのが、頭にきたらしい。 リノアは真っ赤な顔をしながら、言い返してきた。 「あのSeeDたちは、今までわたしを守ってくれた。わたしの大切な仲間なの。 仲間が頑張っているときは、わたしも手伝いたいもの!!」 「・・・・・・お前に何ができるっていうんだ。」 「・・・・・・何かはできるもの。」 「いいや、何もできない。ただの足手まといになるだけだ。」 「・・・・・・そんなことっ・・・・・!!」 「いいか、今回の任務は一瞬の隙も許されない、厳しいものなんだ。 一瞬の隙、それが命取りになる。 彼らは戦闘のプロだが、お前はどうだ?ただの素人だろう。 素人のお前をかばって、彼らの誰かに必ず隙が生まれる。 敵はその隙を見逃さないはずだ。 お前は、彼らの命を危険にさせてしまうかもしれないんだぞ!?」 「・・・・・・・・・・・・・。」 お前が、仲間を助けたいという気持ちはわかる。 でも、魔女に近づいてはいけない。 お前の人生が変わってしまう。 きつい言い方ではあるが、わたしが言ったことは間違ってはいないはずだ。 リノアは何も言わず、俯いていた。 「・・・・・・いいな、お前はこの家で待っていなさい。」 これで最後、というようにフューリーが言い放つと、リノアは少し潤んだ瞳できっと睨んだ。 「・・・・・・・いつもそうだよね。」 「・・・・・・・何が。」 「わたしが何かしようとしても、いっつも止められる。まるで、籠の中の鳥みたいに閉じ込められて。 わたしが知らないところで、わたしのことが決められていくの。 それが嫌だったから、わたし家出したのに。 結局、おとうさんは何も変わらないんだ・・・・・・・。」 そう言うと、リノアは部屋を出て行った。 *** その時は、最善の手を尽くしたと思っていたのだが。 人生は本当にわからない。 その時何をすればよかったなんて、後になってみないとわからないものだな。 あれから。 いろいろなことがあった。 結局、リノアは魔女になってしまった。 逃れられない運命であるかのように。 世界は平和になった。 エスタも国交を開き、今ガルバディアとの平和条約作成に取り掛かっている。 わたしは、何もできなかった。 ジュリアとの約束も守れなかった。 わたしが起こした行動のせいでわたしは軟禁され、そのせいで娘が本当に大変だった とき、なんの力にもなれなかった。 わたしは今、生まれ育った漁村でひとり、暮らしている。 軍も退官した。 ガルバディアの新大統領になったのは、シエラだ。 彼女は長年、平和活動及び、反政府活動に従事していたし、彼女のような人が新しい ガルバディアには必要だと思う。 わたしにも手伝ってくれという頼みが何度も来たが、わたしはそれを断った。 最後には、本人が説得にやって来た。 シエラはあまり昔と変わっては居なかった。 「どうしてもダメなの、フュ−?」 「すまないな、シエラ。でも、新しいこの国には、わたしみたいな者はいてはいけな い。」 「どうして?あの戦争で傷ついたのはみんなよ。誰が悪かった、とかそういうことは ないはずよ!」 「ひとつは、前体制に少しでも関わっていた者が新体制に残るべきではない。それか ら、わたしにはこの国を荒廃していくのを黙ってみていた責任がある。」 「だから、それはみんなの責任よ!あなただけじゃないわ、この国の人みんなが見て 見ない振りをしていたの。」 「あと、これはわたしのワガママだが。もう、普通の人生をゆっくり送りたいんだ。 もともと、自分には分不相応なことをずっとやっていたように思う。もう、なんのし がらみもない以上、自由に生きていきたいんだ。」 フューリーがそう言うと、シエラは少し悲しそうに微笑んだ。 「・・・・・・・・・・・・・。やっぱり、あなたが最後まで軍にいたのはリノア ちゃんのためでもあっただろうけど、ビンザーのためでもあったのね。」 「あいつはわたしのことを憎んでいたみたいだが、わたしにとってはやはり友達だっ たから。わたしぐらい側にいてやらないと、かわいそうだろう?」 「ふふ・・・・・・、あの人も馬鹿ね。見えない敵に怯えて。結局自分を滅ぼしてし まった・・・・・・。」 「きっと、学生時代の彼が、本当の彼だったと思うな。」 「そうね・・・・・・・。」 シエラはふうっとため息をつくと、フュ−リ−に向き直った。 「わかったわ。もう、ひきとめない。わたしは頑張ってこの国を立て直していく。」 「ああ、シエラなら出来るさ。」 「それから。ひとつね、聞いておきたいことがあったの。誰にも聞かれないところで。」 「・・・・・・・なんだ?」 フューリーがたずねると。 シエラはフューリーを見ずに、真っ直ぐ前を向いたまま言った。 「・・・・・・新しく生まれた魔女は、リノアちゃんね・・・・・?」 「・・・・・・ああ。」 「あなたは、ずっと知っていたのね。」 「・・・・・・ああ。シエラはなんで知った?」 「・・・・・・大統領執務室の整理をしていたら、ビンザーの備忘録が出てきたの。 そこに、特定はされてはいなかったけど、そのことをにおわすようなことが書いてあったから。 それに来月、世界会議が開かれるでしょう?そのときの議会で、新しい魔女の処遇も決めなくてはならなくて。 議題録に、新しい魔女の名前がリノアということが書いてあったの。 それで、魔女リノアがリノアちゃんだって、わたし気がついた。」 「・・・・・・そうか。」 「・・・・・・わたし、助けられないかもしれない、リノアちゃんを。 できる限りのことはするつもりだけど、それでもダメかもしれない。 ・・・・・・・ごめんなさい。」 「謝らなくていい。そう思ってくれているだけで嬉しい。」 「でも・・・・・・・・。」 心配そうに振り返るシエラに、フューリーは穏やかに言った。 「あの子には、たくさんあの子を思ってくれているひとがいる。 それが、きっとあの子の力や支えになる。 あの子は、ジュリアの子なんだから、きっと大丈夫だ。」 「・・・・・・それにあなたの子だしね?」 そう言ってシエラはくすりと笑った。 「・・・・・・・そうか?」 「ジュリアさんや、わたし、キャリッジ先輩、色々なひとがあなたのことを大事に思ってるわ。 だから、リノアちゃんは大丈夫よ。」 そう言うシエラに、フューリーは少し笑った。 「じゃあね。たまには会いましょ?昔の思い出話でもして。」 「そうだな。」 *** 雨が降る。 しとしとと優しい雨が降る。 わたしは明日、ガ−デンに行く。 イデア・クレイマ−。かつての魔女イデアに呼ばれたからだ。 これからのリノアのことを話し合うために。 できれば、リノアにも会い、そしてジュリアのことも教えようと思う。 もう、そうしても平気だと思うからだ。 そして、彼にも会ってこようと思う。 娘が選んだ、彼に。 彼を始めて見たとき、すぐに分かった。 顔のつくりは、どことなくレインに似ていて、でも、体つきがラグナに似ていたから だ。 ああ、この子はあの二人の子供か、とすぐに気付いた。 あの二人の子供が、自分たちの娘とこれほど関わることになったというのも、なにか 不思議なものを感じるが。 それもいい。 そうだよな?ジュリア? もう心配しなくてもいい。 あの子は魔女にはなってしまったが、それでも周りにはちゃんとあの子を愛してくれ ている人たちがいる。 あの子は、もうひとりぼっちではない。 わたしはこれから、あの子の運命について調べてみようと思う。 最後の魔女とは、どういうものなのか。 あの、「すべての力を受け継ぎ、全ての力をもとあるところに返し、新たな契約を行 うもの」という意味は? 最後にあの子たちが幸せになれるように。 それが、わたしにできる最後のことかもしれない。 わたしは、わたしの人生を精一杯生きてみる。 そして、終わりを迎えたとき、君と思いっきり笑いあえるように、頑張ってみる。 その時まで、待っていてくれな? いつのまにか雨はやんでいて、すこしそよ風が吹いてきた。 それでいい、とジュリアが言っているかのように。 END |
BACK |