一ヶ月の休暇中の俺に、ラグナたちの来訪を知らされたのは、前日だった。








「・・・・・・・なんのためにですか。」
「さあ・・・・・?とにかく、君に会いたいとのことだったので。」








連絡を受けたシド学園長も、細かいところは知らされていないらしい。
相変わらずラグナは突拍子もないというか、なんというか。









でも、会いたいっていうのはきっと、あのことなんだろうな。
俺はすぐに感づいた。









あの戦いの最中、ラグナは俺に「話したいことがある」と言っていた。
普段、あれだけ考えなしにしゃべるあの男が、ためらいつつも言ったその言葉に、少しひっかかかるものを感じていた。
あのときの約束を果たしに、きっとラグナは来るのだろう。






***







「シドさん、なんだって?」







部屋に帰ると、出迎えてくれたリノアが尋ねてきた。









あの戦いが終って。
今、仲間たちは一ヶ月の休暇中だ。
セルフィはトラビアへ。
ゼルはバラムへ。
キスティスはシュウの実家へ
アーヴァインはガルバディアに遊びに行っている。
今、このガーデンにいるのは俺とリノアだけだ。








「・・・・・・・なんだか、明日、ラグナやエルオーネたちが来るらしい。」
「・・・・・・そうなの?よかったねえ、スコール。」
「・・・・・・なんで?」








俺がそう言うと、リノアは困ったように笑った。










「だって、滅多にないお休みなのに、スコールどこにも行けないじゃない。
・・・・・・だったら、誰かが会いに来てくれて嬉しいんじゃないかなあって思ったの。」









俺とリノアがガーデンに居たのは訳がある。
リノアは今のところ、ガーデンから一歩も出れないからだ。
二ヵ月半後の世界会議でどうなるか決まるまでは、リノアは何もしてはいけないことになっている。









俺は確かに今は休みだけれど。
そんなリノアを置いてどこかへ行こうとは思わないし、一人で出かけたところで楽しくなんかないし。
それに。










「俺、今でも楽しいよ。」
「え・・・・?」
「今まで、いやこれからも、こんなに一緒にいることはないだろ。
だから、リノアと二人でゆっくりできて、嬉しい。」









俺がそう言うと、リノアは真っ赤になった。
りんごのようになった頬を押さえて慌てている。









「もう、スコール、なんか変わったよ・・・・?」
「・・・・・・そう、か?」
「・・・・・・でも、嬉しいな。わたし、いろんなあなたが知りたいもの。」










ガーデンにずっといる俺たちは、何をするわけでもなく。
ただ一緒にいて、本を読んだり、しゃべったり、そんなことくらいしかしていないんだけれども。
そういう何でもない時間が楽しい。
何も話さなくても、リノアがそこにいる、それだけで俺は落ち着くんだ。









俺はひとりじゃないって思えるから。










「じゃあ、もう寝ようか。明日、早くにラグナさんたち来るんでしょ?」
「時間まではわからないが。まあ、そうかもな。」











一応リノアはガーデンにいないことになっているので、彼女の個室はない。
暫定的に、俺の部屋にいることになっている。










ひとつのベッドで好きな彼女と二人で眠る。
それは中々に辛いときもあるのだけれど、それでも。
俺たちは、あの戦いの中で慌しく一緒になったから。
追い詰められるように結ばれたから。
こんな風に、ゆっくりお互いの距離を縮めるっていうのもいいと思っている。










そうでなければ、彼女が可哀想だ。
きっと、俺みたいな男とは違って、彼女には憧れなんかもあったのだろうから。











俺もそうだが、きっとリノアも。
あっという間に全てを駆け抜けてしまったから、この後どうしたらいいかわからなくて戸惑っている。












でも、俺たちにはまだたっぷり時間があるんだ。
あの時とは違う。
だから、こんな風に少しずつ、逃してしまったものを埋めていけばいいよな。










リノアの寝つきはいい。
横になると、割とすぐに寝息を立て始める。
そんな彼女の姿を見ると、俺が信頼されているんだと思えて嬉しい。
背中が温かい。
きっと、もうリノアは眠ってしまった。
背中越しに感じる彼女の体温に、俺は少し胸が騒ぐのだけれども。
でも、今はまだこのままで。










俺たちに足りないのは、きっとこういう時間だと思うから。









***








「♪スコール・レオンハートくん、至急学園長室まで来てください。繰り返します・・・・・・♪」










館内放送を聞いて、俺は新聞を畳んだ。











となりでコーヒーを入れていたリノアも振り返る。











「・・・・・・・着いたみたいだね。」
「・・・・・・・そうだな。」
「コーヒー、温めておくから。ちょっと、香りは飛んじゃうかもしれないけどね。
いってらっしゃい。」










「リノアはどうしてる・・・・・・?」
「わたし?・・・・・・・そうだなあ、ここで待ってる。」










そんな風に言って、にっこり笑うリノア。
俺は彼女を引き寄せて抱きしめた。











「・・・・・・・どうしたの?」
「・・・・・・・なんでもない。ちょっと、こうしててもいいか。」
「・・・・・・・?もちろん。」









そう言うと、リノアは俺の背中を撫でた。










きっと俺は少し怖い、んだ。
何をしにラグナがここまでやって来たのか、なんとなくわかっているから。










真実を知りたいといつでも俺は思っていた。
何も知らされないことで、いらだちを感じていたときもあった。
けれども真実は時に酷く痛いものだから。
知らなければよかったと後で思ったこともある。










それでも、きっと。
この怖さを引き換えにしても、真実にはそれだけの価値があるはずなんだ。
そして、きっと今なら知っても構わないと思えるかもしれない。










だって、ここに俺を受け止めてくれているリノアがいるんだから。










「・・・・・・なにがあるのかは、わたしにはわからないけど。
大丈夫、わたし、ここにいるから。
わたし、あなたを待ってるから。」











ゆっくり噛み締めるようにリノアはそう言った。











「・・・・・・・・ああ。じゃあいってくる。」
「うん。」










リノアのおでこに軽くキスを落としてから、俺は学園長室へと向かった。









***









「・・・・・・・・よう、久しぶり。」
「ああ。」










学園長室へと入ると。
そこにはラグナとエルオーネがいた。











「・・・・・・・あとの二人は?」
「いるよ。でも、二ヵ月半後の世界会議の打ち合わせのために、今ここの学園長と打ち合わせしてる。」
「・・・・・・・そうか。」











きっと、あの二人は気をきかして席を外しているのかもしれない。
ということは。
やっぱり、俺の予想は当たっているんだろうな。









「スコール、久しぶり。」
「ああ、久しぶり。」
「あんまり話とかって、できなかったでしょう?だから、わたしもついて来ちゃったの。」







エルオーネはそう言ってぺろっと舌を出した。








「久しぶりに、シド先生にも会えたし。ママ先生には会えなかったけど。」
「ママ先生は、今は療養中だから。」
「・・・・・・そっか。」








俺たちが話している間、ラグナはしばらくそんな俺たちの姿を目を細めて見ていた。
その姿が、いつもとは違うことを感じさせる。







「・・・・・・・俺、お前に話したいことがあるって言ったよな。
覚えてるか?」
「ああ。」
「そっか。ありがとな。」







そう言ってから、ラグナは俺のことを真っ直ぐ見た。









「ずっと言いたかったのはこれだ。
えっと・・・・・・、お前は、俺の息子、なんだ。」






・・・・・・やっぱりな。
俺の予想していた通りの内容が語られた。
ラグナは少し震えていた。







「・・・・・・ああ。」






それだけ、返答を返すと、ラグナはふにゃっと笑った。








「・・・・・やっぱり、少しは感づいてたか。」
「ああ。あんたの様子もそうだけど、キロスやウォードたちの話も聞いたし。
なんと言っても俺はあんたの過去を見てるんだから。」
「・・・・・そっか。そうだよなあ。」









本当は、どうしたらいいかわからないんだ。
いきなり父親だと言われても、困る。
今まで自分には両親はいないと思っていたのに、いきなり現れられても。








でも、今の俺は、ラグナを否定することもできない。
この気持ちは、きっとラグナにとっても同じなんだろうと思うから。








いきなり目の前に自分の息子が現れたら、誰だってたじろぐと思う。
大きくなった息子がいきなり目の前に現れたら、どうしたらいいかわからなくて困るはずだ。
でも、ラグナは。
そのとまどいから逃げなかった。
わざわざ、俺に真実を言いにきた。







「・・・・・・・・ごめんな。
俺、お前をずいぶんひとりにさせてしまった。
知らなかったとはいえ、お前に何もしてやれなかったよな。」








「・・・・・・・・・もう、いいよ。」









小さい頃、どうして自分はひとりぼっちなんだろうと泣いていた。
どうして、僕にはおとうさんとおかあさんがいないんだろう。
どうして、おねえちゃんは帰ってこないんだろう。
僕がいけない子だから?
そんなことを考えて。








「・・・・・・・・・恨んでるか・・・・・・・?」








ぽつりとラグナがこぼす。
俺は頭を振った。









昔の俺だったら、きっとラグナを拒否していただろう。
いまさら親なんかいらない、とつっぱねていたと思う。
でも、俺はラグナの過去を知ってしまったから。
エルオーネは自分とラグナのために、俺たちを過去へ送り込んだようなことを言っていたが。
きっと、俺のためでもあったんだと思う。










ラグナの過去を知ってしまった今では、ラグナを責めることは俺にはできない。
ラグナはラグナなりに精一杯だった。
そのことを俺は知っているから。









もし、俺がラグナの立場だったら。
俺も同じようなことをしていたかもしれない。
しなかったと言い切ることはできない。










ラグナはラグナなりに、自分の家族を守るために必死だった。
その結果がどうであれ、そのことを責めることなんてできない。









「・・・・・・・・ひとつだけ、聞いてもいいか?」
「おお?なんでもいいぞ。」










ずっと謎に思っていたこと。











「なんで、あんたはレインをエスタに呼び寄せなかったんだ?
エルオーネとレインと、三人でエスタで暮らせばよかったんじゃないのか?」











俺がそう尋ねると、ラグナは少し苦笑した。












「・・・・・・それはできなかったんだよ。
レインは、お前の母さんは、体が弱かった。
ウィンヒル以外では暮らせない体だったんだ。」











「・・・・・・・・そんな風には見えなかったのに。」

「レインは、普通に振舞っていたからな。でも、それは彼女が頑張っていたからなんだ。
いっつも元気に明るくしていたけども、やっぱり時々は辛そうだったよ。
でも、その分俺があちこちで見てきたことをレインは聞きたがった。
だから、俺、お前のことも気がついたんだよ。」











どういうこと、だ・・・・?
キロスとウォードの話を総合して考えてみると、俺の顔はレインに似ているらしい。
俺の顔を見て、それで気がついたんじゃないのか・・・・・?












俺は、きっと、不思議そうな顔をしていたんだろう。
ラグナは俺を見て、そして言った。







「・・・・・・・・お前の名前が、スコールだったから。」








「・・・・・・・・どういう?」
「レインは、あんまり何がしたいとか、そういうこと言わなかった。
でも、俺がスコールの話をしたときだけは、目を輝かせて喜んでな。
いつか、見に行きたいって言っていた。
自分は優しい雨しか知らないから、全てを壊すような、それでいて癒してくれる激しい雨を見たいって。」












懐かしいような顔をして話すラグナの話を引き取って。
今まで黙っていたエルオーネが話し始めた。











「ここからは、わたしが話すわね。
シド先生たちに保護されたとき、わたし自分の名前とスコールの名前は言えたんだけど。
でも、ラグナおじさんの苗字はちょっと、子供には発音しにくいでしょう?
わたしまだ小さかったから、レオ、としか言えなかったそうなの。
それで、そのことを聞いたシド先生とママ先生が、わたしたちの苗字をつけてくれたの。
ごめんね、スコール。
だから、あなたはスコール・レオンハートなの。
スコール・レウァールではなくて。」











今まで、親からもらったものは何もないと思っていた。
きっと、名前もママ先生たちがつけてくれたんだと思っていた。
でも、違ったのか・・・・・・?










いつか出会うかもしれない、俺たちのために。
母さんがわざわざ俺の名前を考えてくれた、のか・・・・・・?











黙ったまま、何も言わない俺を二人が不安そうに見る。











「・・・・・・いきなり、こんなこと言われたって、困る、よな。
でもさあ、俺もうひとつ、お前に言っておきたいことがあるんだよ。」
「・・・・・・なに。」
「俺のことは父親だなんて思ってくれなくっていいよ。
いきなり、さあ父親です、家族になりましょうって言われても、お前が困るだけだろ。
だから、無理しなくていい。
でもな・・・・・・。」










そこまで言うと、ラグナは少し笑った。











「これから、お前には色々大変なことがあるだろう。
ひとりじゃ辛いこともあるだろう。
でも、俺たちは何があってもお前の味方だから。
それを忘れないでくれれば、いい。」











前にも、FHでのコンサートの時に言われたな、それ。
あのときは半信半疑だったそれも、今はちゃんとわかる。










二人が俺のことを思ってくれていること、ちゃんとわかっているよ。











「・・・・・・・ありがとう、父さん、姉さん。」











俺がそう言うと、ラグナは目を見開いて。
それから、嬉しそうに笑った。










「ついでに、もう一個お願いしちゃおっかな〜。」
「・・・・・・・・なんだよ。」
「お前のこと抱きしめてもいいか?」










本当は男に抱かれるなんて嫌なんだけれども。
俺はしぶしぶ頷いた。










「・・・・・・わりいな。」
「・・・・・・悪いと思うなら言うなよ。」
「ははははっ、すまん。」










そう言うと、ラグナは俺を力いっぱい抱きしめた。











「お前、本当にでかくなったんだなあ。」
「17、だからな。」













エルオーネはそんな俺たちの姿を見て泣いていた。
きっと、彼女もずっと心配してたんだろう。










大丈夫だよ、おねえちゃん。












体を離して、ラグナがそっとつぶやく。









「お前、俺の過去を見たんだから、わかるだろう?
お前は、間違えるな。」
「・・・・・・・やっぱり後悔してるのか?」
「・・・・・・しない、って言ったら嘘になるなあ。
でも、これを選んだのは俺だ。
俺の人生だ、つきあっていくしかないさ。」
「・・・・・・そうか。」
「でも、お前にはまだこれから時間があるだろ?
リノアちゃんを離しちゃだめだ。
父ちゃんの経験からの忠告だ、聞いといておいたほうがいいぞ〜。」










それから、真面目な顔をして言った。










「自分がふさわしいのか、とかそんなことは考えるな。
そういうことを考え始めたら、迷うから。
お前が迷えば、きっとリノアちゃんも苦しむ。
お前はお前が思ったとおりにいけばいいんだよ。
リノアちゃんを魔女記念館へ攫いに行ったときのように。」
「!!!」










思わず、ラグナを睨む。
・・・・・・なんでそんなこと知ってるんだよ、こいつが。










「・・・・・・・おじさん、一言多い。」
「・・・・お?」










「・・・・・じゃあ、またな。」
「ほらー。おじさんが余計なこと言うから、スコール機嫌が悪くなっちゃったじゃないー。」
「あれー・・・・。すまんすまん。ところでリノアちゃんは〜?」
「・・・・・・俺の部屋。」










そこまで言うと、ふたりは少しにやっと笑った。









「俺も会いたいなー、リノアちゃんに。
あの子すっごく可愛いし。」
「わたしも会いたいわ。
妹ができたみたいで嬉しいし。」











勝手にそう言って、俺の部屋へ行こうとする。










「・・・・・・・・おい。」
「あ、お前の部屋はわかってるから!!クレイマーさんが教えてくれたからなー。」










あの、学園長、余計なことをしやがって。










「それと、もうひとつ!!」
「・・・・・・・なんだよ。」
「今度、お前が動けるようになったら、ウィンヒルへ行こうな!!
レインも会いたがってたから!!」
「・・・・・・了解。」











俺がそう言って微笑むと、ラグナはにっかりと笑った。
そして、先に俺の部屋へと行ってしまったエルオーネの後を追った。









***







「・・・・・・・今日の昼間はびっくりしたよー。
いきなり、ラグナさんとエルオーネさんが来るんだもの。」
「・・・・・・・すまなかったな。」
「ううん、わたしも楽しかったから!!」










奴らはエスタへの帰途につき。
今は、俺たちのいつもの時間。









「でも、ラグナさんがスコールのお父さんなんだ・・・・・・。」
「あの血が俺に流れてるなんて、想像できないけど、な。」
「ぷっ、確かに。」










ひとしきりころころと笑って、それからリノアは俺を見つめた。










「でも、よかった。
スコール大丈夫みたいだね。」
「え?」
「だって、今スコールの気持ちが落ち着いてるのがわかるもの。」
「・・・・・・・そうか?」
「そうだよ。」











俺がラグナを落ち着いて受け入れられたのはきっと。
リノアがいたからだ。
リノアと会って、俺は変わったから。









前の俺は、自分が望むもの以外を見ようとしなかった。
目を閉じて、自分の世界に引きこもっていたと思う。
俺のことを理解、もしくは変えようとした人間もいたけど。
俺のあまりの意固地さに、みんな途中であきらめていた。










でも、リノアは、最後まで俺を見捨てなかった。
そんなリノアのおかげで俺は変われたんだ。











俺はひとりではない。
初めてそう信じさせてくれたのはリノアだ。











そして、今日も実感したよ。
俺はひとりでないってことを。











俺には、家族があるんだってことを。











「・・・・・・・リノア。ありがとうな。」
「・・・・・・・いきなりなあに?」











小首をかしげて不思議そうな顔をするリノアに、俺はくすっと笑った。









きっと君は知らない。
君が俺の手をひっぱって、俺に新しい世界を見せてくれたことを。
俺に、たくさんのものをくれたことを。









俺も、君に何かをしてあげられているのだろうか。
そうだといい。









「じゃあ、おやすみ。」
「おやすみなさい。」










そうして眠りにつく。











今までよく見た、あの雨の中でひとりぼっちだった小さい頃の俺の夢。
もう、あの夢は見ないだろう。










だって、俺はひとりじゃないんだから。








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