〜part 4〜
 
 

あなたといると優しい気持ちになれる
こんなことは久しぶり
あのひとのことは忘れた訳じゃあないのだけど
あなたに癒されてるわたしがいる


 
 

いつもの赤いかつらをかぶり、メガネをかける。
多少有名になったとしても、ジュリアは街にでるのが好きだった。
街の中の様々なことが、曲作りの糸口にもなる。
そう言う風に、マネ−ジャ−には言っているけども。
そんなことよりなにより、ジュリアは人を眺めるのが好きだった。
色々な人が集まる、このウィンザーシティ。様々な人々が様々な思いを抱いて暮らし
ている。
自分のファンはもちろん、たくさんの人々に触れ合い、そして歌を歌いたい。
それがジュリアの夢だった。



  

(・・・・・・・あら?)





リ−ナのクラブの前まで来た時、ジュリアは立ち止まった。
たくさんの人が自分のステージのために並んでいる。
そこへ向かって、フュ−リ−が歩いてくるのが分かった。
すらりと背が高く、そして、つややかな黒い髪と深い蒼の瞳が印象的な彼は、遠目で
もめだってよく分かる。
まわりにいる女の子たちがひそひそと彼を見ながら話している。
しかし、彼は自分の見た目に全く頓着していない様子で、女の子たちの目線にも全く
気付いていなかった。


 

遠くから見ると、ちょこっとだけ「あのひと」に似てるかも。



 

しかし、徹底的に雰囲気が異なっていた。
あのひとは、そこにいるだけで、周りがぱ〜っと明るくなる感じがした。そんな彼を
見ているだけで、とても浮き立つ気持ちになった。
あのひとがいるだけで、まるでお祭りみたいな、どきどきするような賑やかさがあっ
た。



 

翻ってフュ−リ−は、どこまでも穏やかな凪のようだ。
明るくなるというより、ひっそりとした夕暮れ前のように。どことない寂しさと懐か
しさが入り混じったような気持ちになる。
フュ−リ−がいる、それだけで落ち着いた気持ちになれる。



 
そんな風な彼だから、わたし、あのひとのことを相談できたのかもしれない。
彼なら、わたしの気持ちを受け止めてくれそうな気がしちゃうのよね。
いい友達になりたいな。


 
 

そんなことを考えているうちに、フュ−リ−はきびすを返して帰ろうとしていた。
(やだ!帰っちゃう気?)



 

ジュリアは慌ててフュ−リ−を呼び止めた。
「どうしたの、ハンサムな軍人さん。せっかくのライブ、見ていかないつもり?」



 

フュ−リ−はとても驚いていたようだった。
(そんなに驚くようなこと、わたししたかしら?)
ジュリアにはよく分からなかったけど。
それでも、フュ−リ−が自分の身の安全を心配してくれていることは分かった。



 

やっぱり、優しい人だわ。
そんなによく知らないわたしのことも、ちゃんと考えてくれてるのね。
 





嬉しくて、少し笑ってしまうと、フュ−リ−にため息をつかれてしまった。
彼はきっと、わかってないと思ったのだろう、お小言が増えたけど。
それでも、そんな生真面目な彼が微笑ましくて、ジュリアは笑いが止まらなかった。       
      





***




 

こんなにライブ前、わくわくするのは久しぶり。
あの、歌いたくてたまらなかった頃の気持ちがよみがえってきたみたい。
今日のわたしのステージ、フュ−リーさんはどのように聴いてくれるかしら。
ステージから、隅にいるフュ−リ−を見つけると、ジュリアは小さく手を振った。
今日の歌は、あなたに感謝をこめて歌いたい。
わたしに歌の素晴らしさと情熱を取り戻してくれたのは、あなただから。



 
 

ステージがはねて、さっそくフュ−リ−のところへ行き、今日の感想を聞いてみる。
言葉少なな感想だったけども、自分の欲しい言葉をすべて言ってくれた。




いつもジュリアは思う。
なぜ、この人の語る言葉は、わたしをこんなにカンタンに癒してくれるのかしら。
この人はあんまりしゃべるのが得意ではないみたいだけど。
でも、彼のひとことひとことがすべて、心の深いところにことんって落ちてくるの。
きっと、彼が真剣に考えてくれてるのがわかるからなのね。





このまま帰ってしまって欲しくない。
そう思ったジュリアは、着替え後のコ−ヒ−を約束して、控え室に向かった。

 
 
 
 

着替えて戻ってくると、フュ−リ−はリーナと何か話しこんでいた。
気付けば、リ−ナはフュ−リーのことを、「フュ−」と呼んでいた。
そういえば、ウェインもフュ−リ−のことは「フュ−」と呼んでいた。
ウェインは前から知り合いだったのだからともかく、リ−ナも「フュ−」と呼ぶなん
て。




(・・・・・・・わたしだってまだ「フュ−リ−さん」って呼んでいるのに)




なんだか、小さい子がおもちゃを取られたような気持ちになりながら、ジュリアはふ
たりの会話の中に入っていった。



  
 
 

フュ−リ−は、あのひとの捜査があまり進んでいないことを気に病んでいるようだっ
た。
ジュリアはそのことに少し驚いた。
実のところ、そんなに真剣に探してくれるとは思っていなかったのだ。
ジュリア自身、あのひとはもう生きていないのかもしれないと思っていたし、行方を
掴むのは素人の自分ですら、相当大変なことだというのが分かる。
ましてや、フュ−リ−は仕事ではなく、私用としてやってくれているのだ。
確かに、あのひとの行方は知りたいけれど、フュ−リ−に無茶はして欲しくない。




(でも、そう言っても、聞いてくれなさそう。)




ジュリアはフュ−リ−からもらったチョコレートをつまみながら、そんなことを考え
ていた。



 
 

フュ−リ−に、来週のライブも見にきてくれるように約束をし、帰り支度を整えてい
ると、リ−ナに声をかけられた。




「ねえ、ジュリア。今日は久しぶりに家に泊まらない?」
「え、いいの?だって、ウェインは?」
「ウェインだって、いいって言うに決まってるわよ。嫌だなんて言ったら、たたき出
すわ。」




そう言って、リ−ナは悪戯っぽそうにジュリアにウィンクをした。
リ−ナとウェインは去年あたりから二人で一緒に暮らしている。
もうじき結婚するのだ。
幼馴染の二人は子供の頃から大変仲がよく、その二人が結婚するのは、ジュリアに
とって大変に嬉しいことだ。




 

ウェインとリ−ナの自宅に帰りつくと、そこにはウェインがもう帰っていて、シチュ
−を作っていた。




「おう、お帰り。あれ?ジュリア??久しぶりじゃないか、ここに来るの!!」
「えへ。今日はリ−ナのお誘いを受けまして。」
「さ、中に入った入った。外は寒かっただろう。」






この二人はいつもジュリアを大切にしてくれている。
一人っ子で、両親も早く亡くしたジュリアにとって、二人は兄でも姉でもあり、父で
も母でもあった。
少し年が離れていることもあり、友人というよりは家族といったところか。
今も昔も変わらず、ジュリアを暖かく包んでくれる。
 



 

リ−ナの仕事が上がるのはいつも、夜10時すぎ。
ウェインは、忙しくない部署ということもあって、大体7時には帰宅している。
だから、ふたりの夜食はたいていウェインが作る。




「このシチュ−は新作なんだ。」
「うん、おいしい。ホント、ウェインって料理上手だよね〜。いいなあ、リ−ナ。」
「あら、ジュリアはカレに料理作ってもらわないの?」




ジュリアは、シチュ−をむせそうになってしまった。
ウェインが心配そうに、ナフキンを手渡した。それで軽く口をぬぐいながら、ジュリ
アはリ−ナを睨んだ。




「いじわる。わたしに彼がいないの、リ−ナよく知ってるじゃない。」



ぷんと拗ねるしぐさがまた可愛らしく、リ−ナはくすりと笑った。




「じゃあ、彼氏候補がいるってこと?あ、もしかしてフュ−のこと!?」
「?なんでそこにフュ−が出てくるんだ??」




ウェインは首をかしげた。
自分が知っている「フュ−」は、「フュ−リ−・カーウェイ」しかいないが、あいつ
がまさかそんなに手が早いとは思えない。




「今日ね、ジュリアのライブに来てたわよ、彼。それもね、ジュリアに誘われたんで
すって。まあ、確かにかっこいいもんねえ、彼。」




ジュリアは真っ赤になってしまった。




「もう、違うんだってば〜!!フュ−はいいお友達なの!!」
「はいはい、今はまだ、いいお友達なのよねえ??」




どこまでもからかうリ−ナに、ジュリアは睨んだ。





「そんなことばっかり言ってると、わたし、式のときに歌わないからね!」
「おい、リ−ナ、あんまりからかうなよ、ジュリアのこと。」
「あら、わたし、フュ−って、とってもいいって思うけどなあ。」




リ−ナはフュ−リーを気にいってるらしい。




「まあな。あいつ、無愛想だけど、真面目でいい奴だよな。軍でも密かに人気あるん
だぜ?でも、あいつ鈍いから、全く気付いてないけど。」
「あ〜、そんな感じ。やっぱ、彼はお勧めよ、ジュリア。結婚しても、絶対浮気され
なさそうじゃない。」
「も〜、リ−ナ!!そんなこと言って、フュ−に失礼よ。」





シチュ−を食べ終わり、あと片付けを三人で済ます。
ベッドは、ウェインが用意してくれ、ベッドメイクはリ−ナがしてくれた。




「ごめん、わたし、自分でやったのに・・・・・。」
「いいわよ。今日はライブもあって、疲れてるんだから、あなた。」




リ−ナはそう言って、穏やかな微笑みを浮かべた。




「・・・・でも、よかったわ。このごろジュリア、塞いでいたようだから。」
「ごめんね、心配かけちゃったね。」
「心配できる人がいるのは幸せのひとつよ。元気になれたのは、フュ−のお陰?」
「うん、多分。あのね、フュ−が言った一言で、わたしすごくラクになった。いまま
でいなかったタイプなんだけど、仲良くなりたいの、わたし。そして、もしフュ−が
困ってて、わたしにできることがあれば手助けしたい。なんだか、戦友ができたみた
いな気持ちなの。」
「そっか。いいお友達になったのね?」
「わたしは、そうなりたいと思ってる。向こうもそうだといいな。」
「そうね。」



 

ジュリアを泊めている部屋から出て、リ−ナは自室に戻る。




「おう、ジュリア、もう寝たか?」
「うん、いま。・・・・・・・ねえ、フュ−って、彼女とかっていないの?」
「俺が知ってる限りではいないな〜。・・・・・なんで?」
「・・・・・・ジュリアって、あんまり同世代の友達いなかったじゃない。昔っから
あのコ可愛すぎて、同世代の子が寄ってこなかったっていうか。それで、フュ−とお
友達になれて、本当に嬉しいみたいなのね。」
「あいつも、フュ−もそうかもな。無愛想だから、それほど友人はいないだろう
な。」



「せっかくお友達になったのに、もし、フュ−に彼女がいて、その彼女がジュリアと
友達付き合いするのを嫌がったら?そしたら、やっぱりジュリアは捨てられるの?」
「そんなことはないだろ。」
「だといいんだけど。あの子、昔っからそういうことで苦しんできたから。女の子の
友達ができなかったり、男の子の友達ができてもすぐ捨てられたり。」
「フュ−はそんなことはしない。あいつは、大事なものは守り抜く男だ。」
「うん。わたしも、そう思う。でも、心配になっちゃうのよね。」



 

「しかし、俺たちってさ、まるで親みたいだよなあ。」




リ−ナを優しく抱きしめながら、ウェインはぼやいた。
リ−ナはくすくすと笑った。




「本当にそうね。ちょっと心配しすぎかしら?」




ウェインはその言葉に微笑んで、軽くリ−ナの唇をふさいだ。




「たぶんな、自分たちがいま幸せでしょうがないから、幸せのお裾分けをしたくなっ
てんだな、きっと。」
 
 


***





ジュリアがリ−ナのクラブで歌うのは週一回。
それ以上はどうしてもムリだった。
本当は、もっと減らすようにマネ−ジャ−からは言われている。
しかし、ジュリアはやめることだけはしたくなかった。
最初は、大会場では味わえない客との親密さのなかで歌うことが目的だった。





しかし。
最近はそれにもう一つ楽しみが増えた。
ここで歌うと、フュ−リ−が見ていてくれる。
彼は音楽が好きらしく、いつもちゃんと聴いてちゃんと感想を言ってくれる。
プロではないけども玄人はだしである彼に歌を聴いてもらえるのは、歌手としての
ジュリアにとって、大変励みになる。
実際、彼と知り合ってから、自分の歌がもっとより大きくなったような気がしていた
し、評判も高くなっていた。



 

もちろん、フュ−リ−と会うのが楽しみなのは、それだけではない。
彼は、ジュリアにとって、初めての大事な友達だ。
ウェインやリ−ナのように、幼馴染ではなく、初めて自分から仲良くなった友達。
そして、いつもジュリアの話を嫌がらずに聞いてくれる。
ジュリアは、彼に話を聞いてもらうと不思議と落ち着いた。
ウェインやリ−ナには話せなかった、あのひとのことも、フュ−リ−には話すことが
できた。



 

あのときの、あのひとの様子とか。
あのひとと語り合った夢とか。


 
 

  
フュ−リ−にあのひとのことを話していると、あの頃の恋していたころのときめきが
蘇ってくるような気がして。
でも、自分ばっかり話しているのも気がひけて。
フュ−リ−には好きな子いないの?って聞いたことがあった。
でも、フュ−リ−は穏やかに微笑んだだけだった。
 




「絶対、フュ−はうまくいくよ!」
「なにが?」
「フュ−に好きな子ができたら、の話。フュ−、かっこいいし、優しいもん。フュ−
を振る女の子なんていないよ、きっと。」




そういつも言ってるのだけど。
どうしてもフュ−リ−は本気にしてくれない。




それどころか、
「俺みたいなつまらない人間とつきあうようなヘンな人はいないだろ。」
とか言う。




「そんなことないってば!わたし、フュ−大好きだもん!!フュ−、つまらなくない
よ。そりゃ、ちょっと無口だけど。」
「はいはい、わかったから。」




いつも、そんなこと言って、頭をぽんぽんと撫でられる。
 




むう。
同い年なのに、わたしの方がコドモみたい。
でもね。わたしがフュ−のこと大好きなのは本当なの。
フュ−がわたしにしてくれたたくさんのこと、わたしも彼にしてあげたい。
 




だから。




「ねえ、フュ−?」
「なんだ?」
「あのね、わたし、フュ−のこと、大事だから。わたしにできることはなんでも言っ
てね?」




そう、フュ−リ−にいつも呼びかけてみる。




「・・・・・もう、十分してもらってるが。」
「ううん、もっと!!たくさん幸せになってもらいたいの。」




フュ−リ−は困ったような笑顔を浮かべていた。



(もう、フュ−リ−ってば、欲が少ないんだから)




ジュリアは、フュ−リ−の困った笑顔をそんな風に解釈していた。




(もっと、欲張ってもいいのに)



 
 

ある日のこと。
ジュリアが家でくつろいでいると、いきなり家のチャイムが鳴った。




(・・・・・・・なにかしら)




ジュリアはインタ−フォンをとった。




「どちらさま?」
「・・・・・・・俺だ。」
「え!?フュ−!?」




ジュリアは彼に自宅を教えてはいたが、今まで彼が訪ねてくることはなかった。
ジュリアは慌てて玄関に行き、鍵をあけた。



 

いきなり、どうしたというのだろう。
ジュリアはいつもの彼らしくない行動に驚いていた。
それがわかっていたのかもしれない、ドアをあけたジュリアに、フュ−リ−は開口一
番に謝罪した。




「すまない、急におしかけて。ここでいい。」
「ううん、ちらかってるけど、中に入って?なにか、急用なんでしょ??」
「ああ。ついに、リストが出来てきたんだ。この中から、ジュリアの探している奴が
見つかるかもしれない。」



 
 

ついに、この日がやってきたのね。
わたしの恋が一歩前進する日。
うまくいくかどうかはわからないけど、とりあえず、現実に向けて、一歩進みだす
日。



 
 

ジュリアは少し震えた。




「大丈夫か?なんだったら、1人で見るか?」
「・・・・・・ううん、だいじょうぶ。どっちかっていったら、フュ−が一緒にいて
くれたほうが嬉しい。」
「そうか。」
「うん。」
 



 

「とりあえず、入って。今、コ−ヒ−淹れるわね。」
ジュリアは、一息深呼吸して、フュ−リ−を家に招き入れた。
 
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