〜part7〜
 
俺たちの気持ちは、どこへ行くのだろう
ラグナという男はどうするのだろう
見えない未来に少し不安になりながら
それでも、現実は進んでいく
 
 




 
「来週、この日からこの日まで、有給をとらせてもらえませんか。」
ライブの次の日、フュ−リ−はウェインにそう切り出した。
「昨日、リ−ナから聞いたよ。・・・・・・お前、本当にいいのか?なんだったら、
俺が変わってやるぞ。」





ウェインは、リ−ナから詳しいことを聞いているらしい。
本当は、ウェインは少し後悔していた。
フュ−リ−とジュリアを引き合わせたのは、自分だからだ。
もしジュリアと会わなければ、フュ−リ−がこのような辛い恋をすることもなかった
かもしれない。
 




「大丈夫です。自分が行きたいんですから。」





何を言っても、フュ−リ−の意思は変わらないらしい。
意外に頑固なこの後輩は、もう決めてしまったのだろう。
ウェインは、軽くため息をついた。





「まあお前がいいならいいけどさ。じゃあ、ここらへん休みだな?」
「ありがとうございます。」
 




ウェインとリ−ナが自分のことを心の底から心配してくれているのは分かっていた
し、嬉しかった。
しかし、フュ−リ−はどうしても、ジュリアの恋の行く末を確かめたかったのだ。
それは、ジュリアのためだけではなく、自分のためでもあった。
 




ラグナとジュリアが幸せになるのを見届けたら、俺のこの恋も終わらせる。
反対に、確かめられなかったら、いつまでもこの想いをひきずってしまうだろう。
これからも、いい友人であり続けるために。
自分の恋の決着をつけたかった。
 
 




きっとしばらくは、胸が痛いだろうけども。
でも、この痛みを知らなかった頃より、知っている今のほうがずっと幸せだから。
ジュリアに会うまで、いかに自分がつまらない人生を送っていたのか痛感した。
 




いつもジュリアは自分に「ありがとう」と言うけれど。
本当に「ありがとう」を言いたいのは自分のほうこそなのだ。
 





(ジュリアに会えて本当によかった)
 
 




***




            
 
ウィンヒルへ向かう当日、フュ−リーはジュリアの家まで迎えに行った。
部屋から出てきたジュリアを見て、フュ−リ−は少しため息をついた。
 




「また、そのかつらで行く気なのか。」
「フュ−はこのカッコ嫌いだね。これ、目立たなくていいのになあ。」





ジュリアは、又例の赤いかつらにメガネだった。
変装というにはあまりにもワンパタ−ンで、変装の意味をなしてないのではないかと
フュ−リ−は思う。





「まあ、いいか。実際、検問の兵士とかであんたのファンがいるかもしれないし
な。」
「でしょでしょ。一応、わたしでも考えてるんだから!」





そんな風に威張るジュリアは、またさらにいっそう可愛らしく、そんな彼女にフュ−
リ−は眩暈がした。
全く、この人は。
自分の魅力が全くわかってない。
でも、そんな天真爛漫なところが好きでもあり。





きっと、君は知らない。
どんなに自分が君に惹きつけられているかを。
 
 




ウィンヒルまでは、車で約1日ほどかかる。
到着は夜になるだろう。
着いたらすぐにホテルに入って、ラグナに会うのは翌日となる。





「あのね、お昼はね、わたしお弁当作ってきたから。」
「・・・・・・・・ジュリア、料理できたのか?」




ジュリアが料理ができるとは全く思ってなかったフュ−リ−は、かなり驚いた。
そんなフュ−リ−を見て、ジュリアは拗ねた。




「・・・・・・いったい、わたしのことどういう風にみてたのかなあ、フュ−って
ば。」
「いや、なんとなくジュリアは料理できないものだと思っていた。俺は全くできない
しな。」





フュ−リ−は、かなり不器用な部類に入る。
料理はもちろん、ちょっとした工作なども全くといって不得手だ。





「え、フュ−ってなんでもできると思ってた、わたし。」
「俺は結構できないこと、多いぞ。」





例えば、友達と仲良くしたりとか。
人を楽しませたりとか。
そういうことができる人間になりたかった。




 

昼前に、検問所に着いた。
ここには、もちろん同期の奴がいる。
旅路は長く、なるたけ検問時間を少なくしてもらうために、フュ−リ−はその友達に
連絡してあった。
 




「お〜い。こっちだ。ひっさしぶりだな、カーウェイ。」
「スティルツカヤ。すまなかったな、急に。」
「気にすんなよ、こんな辺境勤務だと、もう知り合いに会うのなんてほとんどないか
らな。楽しみにしてたんだぜ?
・・・・・・こちらは?」
「ああ、ウィンヒルに少し用がある、俺の親戚だ。」
「すっげえ美人だなあ!!お前も顔いいもんな、血筋か?」
「そんなわけないだろう。」





ジュリアは面白そうに二人のやりとりを眺めていた。





「はじめまして、ジュリアっていいます。」
「こちらこそ!俺は、イワンって言うんだ。こんな美人とお近づきになれて光栄で
す。」
 




ジュリアに申請書類を書かせている間。
スティルツカヤがフュ−リ−の近くへ寄ってきた。





「最近、どうよ?首都の方では。」
「・・・・・・ビンザ−がもうじき結婚する。次の大統領選に出馬するらしい。」
「マジかよ!?・・・・・・んじゃあ、あいつ、もう軍辞めるのか。」
「そうだな。」




「デリングが抜けるんだったら、お前、なおさら中央戦略システム部に行った方がい
いって。お前みたいに優秀なやつが、あんなとこでくすぶってるのは、もったいなさ
すぎる。これからもっと戦局は悪くなるだろうし、そうなったら、1人でも優秀な奴
が軍動かした方がいいんだからさ。」
「・・・・・・・・・。」
「ま、余計なお世話かもしれねえけどさ。俺、お前の優秀さには、昔っから憧れてた
からさ。」
「ありがとう。」
「いいって!!お、ジュリアちゃん、書けた?うん。それでいいよ。」




スティルツカヤは、ジュリアから申請書を受け取ると、にっこり微笑んだ。




「ま、でも、十分注意しろよ。ここんとこ、モンスターの動きも活発になってる。
ウィンヒルのあたりも、少し危険だからな。」






 
車に乗り込んで、しばらく走ったところで、お昼をとることにした。
フュ−リ−はすばやく結界を作る。




「・・・・・・なあに、それ?」




ジュリアは、不思議そうに眺めていた。




「ここら辺に出没するモンスタ−はこの結晶を燃やした匂いに弱いんだ。」
「ふうん。いい匂いなのにね。」




フュ−リ−は懐から、ひとつの小さな袋を取り出し、ジュリアに手渡した。




「一応、これを持っていてくれ。俺がなるたけ守るけど、用心にこしたことはな
い。」




ジュリアは少し顔を赤らめて、それを受け取った。




「えへへ。なんか照れるね。わたし、男のひとに守るって言われたの、初めて。」
「そうなのか?」
「うん。ありがとう。」






ジュリアは、サンドイッチを作ってきてくれていた。
様々な種類があり、これを作るのは大変だったであろうと思われた。




「うん。美味い。」
「ホント?よかったあ。わたし、これぐらいしかできないから。」
「・・・・・・・・そんなことないぞ。」
「そう?そうだと嬉しいな。」





ジュリアにはたくさんのものをもらっている。
口下手な自分は、いつも何も言えないのだけれど、そんな自分にもジュリアは微笑ん
でくれるから。
きっと、この旅が最後の思い出になるだろうが。
それでも、最後の思い出としては十分すぎるほどだ。
これから、この思い出を宝物として、またいつもの生活に戻ることができる。






「あのね、少し聞いてもいい?」




食後のお茶を飲んでいると、ジュリアがいきなり改まったかのように訊ねてきた。




「たくさん聞いてもいいぞ。」




そんな風に言われるのは珍しいことなので、フュ−リ−はジュリアに話を促した。




「フュ−って、すごい人だったんだね?さっきの人も言ってたけど。」
「さっきのひと?」
「イワンさん。フュ−が今の部署にいるのはもったないって言ってた。」
「ああ・・・・、スティルツカヤか。」
「どうして、フュ−は今の仕事を選んだのかなあって、わたし気になったんだ。考え
てみれば、いっつもわたしばっかり話してて、フュ−の話って聞いたことなかったで
しょ?」
「・・・・・・・・・。」




 
どうしようか、と思った。
ジュリアが自分にも興味を持ってくれているのは非常に嬉しいのだが。
できれば、今の職業についている理由はあまり話したくはなかった。
フュ−リ−が黙り込んでしまったのを見て、ジュリアは少し悲しそうな顔になった。




「あ、あのね。別にいいから!そうだよね、ちょっとミ−ハ−だったよね、わたしっ
たら。」




そんなつもりはなかったのに。
ジュリアには別に知っておいてもらっても構わなかったから、フュ−リ−は慌てて訂
正した。




「いや、聞くほどのたいした理由ではないんだ。ジュリアに話したくないとか、そう
いうんじゃないから。」




ジュリアは、ぱっと笑顔になった。




「ホント?じゃあ、聞きたいな。」






どうしてもジュリアは聞きたいらしい。
しかも、この、ジュリアの期待して待っている顔に弱いんだ。
今まで、誰にも話したことはなかったが、自分の好きな人だけが知っているというの
も悪くない。





「まあ、士官学校に行ったのは、学費が一番安かったからだ。俺の出身は、小さな漁
村でな。本当だったら、俺も父親のように漁師になるはずだったんだ。でも、村長や
教師たちに上の学校に行くように勧められてな。」
「ふうん。小さい頃から優秀だったんだ、フュ−ってば。」
「士官学校を出たら、最低7年は軍に勤めなければならない。それで、どうせなら自
分のやりたいと思えるようなところに行きたかった。」
「今の仕事は、どうして選んだの?」
「今の仕事は、戦時中はもちろんそうでないときも、辺境地域の人々を保護する部署
なんだ。戦争で一番酷い目にあうのは、地方の人々だ。そういう人々をなるたけ守っ
てやりたい。なにもなかったとしても、いざそうなるのなら、守れる立場にいたかっ
た。」
「・・・・・・・・・・。」
「ま、そんなとこだ。俺が地方出身だから、そんなこと考えるのかもな。・・・・・
・・・たいした理由じゃなかっただろう?」





ジュリアは、真剣な顔をして首を振った。




「ううん。フュ−はやっぱり優しいね。わたし、フュ−と知り合って、本当によかっ
た。でも、なんでその理由今まで誰にもいわなかったの?」




フュ−リ−は真っ赤になった。




「・・・・・・・・なんでもいいだろ。」




ジュリアは少し驚いた顔で、フュ−リ−をじっと見つめた。




「・・・・・・・・もしかして、単に照れくさかっただけ??」




図星なので、フュ−リ−は赤い顔のまま何も言わず、むっつりと黙っていた。
ジュリアは、つい笑ってしまった。




「・・・・・・・笑うな。」
「だって、意外だったんだもん。でも、なんだか、フュ−が身近になったような気持
ち。今まで、フュ−って大人っぽいなあっていつも思ってたから。」





 
***





 
ウィンヒルに着いたのは、夜になってからだった。
とりあえず、村唯一のホテルにチェックインを済ます。
長い移動時間のせいか、ジュリアは少し疲れていたらしく顔色が悪かったので、その
晩は早く眠ることにした。
 
 




そして、次の日。
フュ−リ−は目を覚ますと、ジュリアの部屋へと電話をかけた。
ジュリアは朝に弱いらしく、なかなか電話に出ようとはしない。
しつこくベルを鳴らしていると、やっと電話に出た。




「おはよう、ジュリア。」
「・・・・・・・・もう、フュ−?なに、こんな朝から・・・・・。」
「いや、もう十分日は高くなっているんだが。早く、ラグナさんに会わないと、時間
がなくなるぞ。」
「・・・・・・・・・え!?ちょ、やだ!!もうそんな時間!?」
 




待ち合わせのロビ−でたたずんでいると、ジュリアは慌ててやってきた。




「ごめんね、わたしの用で来てもらったのに寝坊しちゃって。」
「かまわないさ。俺も少し寝坊したしな。」




そして、ふたりでホテルを出る。
このホテルは村の端にあり、ラグナの住んでいるパブは、反対側の端にあるらしい。
昨日は夜もふけていたので気付かなかったが、ウィンヒルはたいへん美しい村だっ
た。
ありとあらゆる花が咲き乱れ、どこまでも続く緑のじゅうたんは、ここが戦時中だと
いうことを忘れさせる。
 




「綺麗なところだよね、ここって。」
「そうだな。モンスタ−が多いのが難だが。」
「こんなところで休養していたら、帰りたくなくなっちゃうかも。」




この美しい景色をジュリアと見ることができただけで、フュ−リ−は満足だった。





ふたりで村の景色に見とれながら歩いていると、少々大きい広場に出た。
この広場の端に、目指すパブはある。
そこは、すぐにわかった。
その扉を開けようとしたところで、中から出てきた男とぶつかりそうになった。
 




「あ〜っと!!ごめんな!!俺、急に開けたから。」
「いや、こちらこそ・・・・・。」




フュ−リ−はそこまでしか言うことができなかった。
なぜなら、その男が、ラグナ、その人だったからだ。
 




「???俺の顔になんかついてるか??」




ラグナは不思議そうな顔をしていた。




「いや。あんたが、ラグナ・レウァ−ルだな?」
「そうだけど・・・・・・。俺に用か?なら、ま、とりあえず入ってくれよ。」




そうやって、ラグナがパブに招きいれようとしたところで、店の中から、女の人の声
がした。




「ラグナ?どうしたの?」




その女性は、長い亜麻色の髪の美しいひとだった。
ジュリアが、明るい美貌だとすると、この女性の美しさはしっとりと落ち着いた美貌
だった。
 
 




ラグナは、最初、ジュリアのことがわからなかった。
ジュリアは、例のかつらとめがねの変装をしていたからだ。
ジュリアがかつらとめがねをはずすと、やっとわかったようだった。
 




「え!?ジュリア!?なんでここに?」
「おひさしぶり。ラグナさん。お見舞いにきちゃった。」
「あら、ラグナのお友達なのね?どうぞ、ゆっくりしていってくださいな。二階へど
うぞ。今、お茶をいれますから。」




亜麻色の髪の女性は、レインと名乗ると、二人を二階へと案内した。
何気なく行うそのしぐさに、ラグナの目が少し切なそうにゆがんだ。





(・・・・・・・?)





まさかな。
少し浮かんだその考えをフュ−リ−は振り払った。
 
 




「ジュリアも、積もる話があるようですから、自分はいったんホテルに戻ります。」




そう言って、フュ−リ−はパブを出て来た。
特にやることもないので、ついでといってはなんだが、村の状況を調査する。
やはり、急な徴兵によって、村のガードが甘くなっているらしい。
また、現在この村への交通は閉鎖されているにも等しいので、モンスタ−を防ぐ品も
入ってこないらしい。
次の配給の時は多めにしないとな。
そんなことをフュ−リ−は考えていた。
 




今ごろ、ジュリアはラグナと上手くいっているんだろう。
フュ−リ−の目から見ても、ラグナはとても魅力に溢れていて。
ジュリアが彼のことを好きなのがわかるような気がした。




自分にはない、人を明るくさせる雰囲気。お祭りのように賑やかだが、決してうるさ
くない。
まさに、自分がなりたかったタイプの人間だった。
ラグナにはかなわない。フュ−リ−は純粋にそう思った。
このまま、きっと自分の手の届かないところまで二人は行ってしまうのだろう。
でも、それでよかった。
自分には届かないくらい幸せになってくれれば、いっそ自分も諦めがつくというもの
だ。
少し胸が痛かったが、ジュリアがこれで幸せになれるのならば、耐えられる
ような気がした。
 




 
***




 
そうこうしているうちに、夕飯の時間になった。
しかし、ジュリアはまだ戻ってきていなかった。
フュ−リ−は少し不安になった。
 




いったいジュリアはどうしたのだろう。
もしかしたら、ラグナと夕飯を食べてくるのかもしれない。
そう考えて、フロントに問い合わせをしたが、何も伝言は入っていなかった。
いくら、話が弾んでいるとは言っても、少し遅すぎやしないか。
この村は、昼間でもあれほどモンスタ−がでるのだ。
日が暮れてからでは、どんな危険があるかわからない。
それに、もし、ラグナと夕飯を食べてくるのであれば、なにかしら連絡がはいるはず
だ。




 
そこまで考えて。
昼間会った、ラグナの様子を思い出す。
レインを切なそうに見つめていたラグナ。
 




もしかしたら。
 




フュ−リ−は、ホテルを飛び出した。
 
 
 




モンスタ−を切り捨てながら、村のはずれまで行くと。
ジュリアが丘に向かって歩いているのが見えた。
 




「ジュリア−−−!!!」
 




ジュリアは、驚いたように立ちすくんだ。
そんなジュリアを狙ってか、一匹のモンスタ−が飛び出してきた。




「伏せろ、ジュリア!!」




フュ−リ−はモンスターに向けて、銃を放つ。
弾丸はモンスタ−の眉間に命中し、モンスタ−はもんどりうって倒れた。
しかし、ジュリアはそんな様子をぼ−っと眺めていた。
 





「一体、何してるんだ、こんなとこで!!」




今まで心配していたせいであろうか。こんなところを暢気に歩いていたジュリアに怒
りを感じた。




「ごめんなさい。もう、日が暮れてしまったのね。全然気付かなかった。」




ジュリアはそう言って、少し口の端をゆがめた。




「・・・・・・・・・。」




なにかあったのか。
本当はジュリアに聞きたくてたまらなかった。
でも、今のジュリアは初めて会ったときよりもいっそう儚げで、フュ−リ−の推論を
裏付けていた。
 




やっぱり、昼間感じた通り。
ラグナには愛する人がいたのだ。
 
 




「わたし、なんとなくわかっちゃった。ラグナさんは何も言わなかったけど。でも、
ラグナさんの話すこと、全部あのレインさんのことなの。わたしの1人相撲だったみ
たい。」
「・・・・・・・・・・・。」
「ありがとう、フュ−。」




いきなり礼を言われて、フュ−リ−は顔を上げてジュリアを見た。
ジュリアは、綺麗に微笑んでいた。




「最後に思い出作ってくれて。わたし、ラグナさんの気持ちを知ることができてよ
かった。そうじゃなかったら、きっとずっとひきずっていたと思う。」




そんなことを言いながらもジュリアの声が少し震えていたのを、フュ−リ−は見逃さ
なかった。
 




きっと、俺たちが別れた後、1人で泣くのだろう。
自分に心配させまいと、頑張っているジュリアの気持ちを考えると、いてもたっても
いられず、フュ−リ−はジュリアを抱きしめた。
 




「フュ−?」
「・・・・・・・・そんな風に、ひとりで我慢しないでくれ。」




そういうフュ−リ−も声が震えていた。




「辛いことがあったら、俺にも分けてくれ。1人で泣かないでくれ。」




ジュリアはそっとフュ−リ−の背中に手をまわした。




「・・・・・・わたし、フュ−にワガママ言ってもいいの?」
「ジュリアのはワガママじゃない。」




その言葉を聞いて、ジュリアは泣き始めた。




「・・・・・・しょうがないことはわかっているんだけど。今だけ。今だけ、泣いて
もいいかな。」
「今日は、泣いてしまった方がいい。ジュリアは、本当にあいつのことが好きだった
んだから。」
 




 
二人の恋が上手くいくのなら、どんなことだってしたのに。
ジュリアには幸せになってもらいたいから、ここまで来たのに。
どうして、人の気持ちはこんなに難しいんだろう。





 
そうして、いつまでも、震えながら泣くジュリアをフュ−リ−は抱きしめていた。
 

      BACK/NEXT