〜part 8〜 やっと彼に逢える そのことばかり考えていて、どんな結果が待っているかなんて考えたこともなかった の リ−ナやウェイン以外とどこかへ出かけるなんて初めてだった。 そのせいか、ジュリアは朝早く目覚めてしまった。 (どうしよっかな。とりあえず、お昼ごはんでも作って持っていこうかな) 冷蔵庫の中をチェックすると、卵やハム、チ−ズなど、一通りのものは入っていた。 うん。サンドイッチでいいよね。 フュ−、気にいってくれるといいなあ。 ジュリアはいつもの通り、変装をしてフュ−リ−を待った。 やはり、フュ−リ−はこの変装が気にいらないらしく、少し眉をひそめていた。 その姿がなんだかジュリアにはとてもおかしかった。 *** 検問所には昼過ぎ頃到着した。 あらかじめフュ−リ−から聞いていた通り、ここでジュリアのような一般人はいろい ろ申請をしなくてはならない。 ジュリアの担当は、フュ−リ−の同級生であったらしく、明るい感じのいい人だっ た。 でも、ジュリアには少し気にかかることがあった。 フュ−リ−と一緒に歩いていると、いろいろな人が振り返っていくのだ。 最初は、フュ−リ−がハンサムなせいかとも思ったのだが、年配の男性まで振り返っ て見ていくので、どうもそれだけではないようだ。 「どうしたの?なんか、おかしなことでもあったかい?」 少し落ち着かない気分で居たら、イワン・スティルツカヤに声をかけられた。 「なんでもないんですけど・・・・・・。でも、フュ−って、有名なんですか?みな さん、こっちを見ているような気がして。」 「ああ〜!!俺らはもう慣れたけど、そっか、普通の人は驚くかもな。」 そう言って、イワンはおかしそうに笑った。 「カ−ウェイってさ、有名なんだよ。士官学校の主席だったくせに、どういうわけか 出世欲がないっていうかさ。今の部署だって、本来なら奴がいるようなところではな いんだぜ。上層部のほうでは、やっきになってカ−ウェイを説得してるみたいだな。 ま、俺もあいつはもっと上の部署に行ったほうがいいと思うよ。」 「・・・・・・なんで上に行かないのかしら?」 「さあ?誰も知らないんじゃないか?理由がわからないから余計上層部はいらいらす るんだろうけど。ま。そう言うわけで、将軍クラスの要請にも首を振らないから、今 ではいつカ−ウェイが落ちるのかトトカルチョまである始末さ。」 そう言うと、ジュリアに書くところを教えてイワンはフュ−リ−のほうへ行ってし まった。 ジュリアは記入しながら、フュ−リ−のことを考えていた。 そんなこと、一度も聞いたことなかった。 わたし、フュ−にとって、相談できるような友達ではないのかなあ。 いつも、わたしばっかり迷惑をかけてるし。 いっつもわたしがしゃべってるばかりで、考えてみたらわたし、フュ−のことほとん ど知らない。 わたしだけじゃないよね? ちゃんとフュ−もわたしのこと、友達だと思ってくれているよね? そんなことを思いながら、フュ−リ−のほうを見ると、フュ−リ−はジュリアに気付 いて、優しく微笑んでくれた。 フュ−リ−はいつもそうだ。 何かジュリアが不安に思っていると、かならずジュリアの望んでいることをしてくれ る。 きっと、あなたは知らない。 あなたがどんなにわたしに安らぎを与えてくれているかを。 検問所を出たところで、お昼にした。 フュ−リ−はジュリアが料理ができることに驚いていた。 反対にジュリアは、フュ−リ−が不器用なことに驚いた。 今まで気付かなかった、お互いの新しい面を見ることができて、ジュリアは嬉しかっ た。 気になっていた、今の部署にいる理由も、思い切って聞いてみた。 そしたら、フュ−リ−は黙り込んでしまった。 そんな彼の姿を見て、すこしジュリアは傷ついた。 わたしが思うより、フュ−はわたしのこと親しくは思ってくれてないのかなあ。 でも、しつこくして嫌われたくない。 だって、やっとできたお友達だから。 そんなことを考えていたから、思いっきり顔にでてしまったらしい。 フュ−リ−は仕方ないなというように笑って、理由を教えてくれた。 その理由を聞いてジュリアは少し泣きそうになってしまった。 フュ−リ−は優しい。 それも、すべての人に優しいのだ。 もともと、フュ−リ−はあんまり好悪の情を抱くことがない。 感情はすべて穏やかにフュ−リ−の上を流れて通り過ぎていくだけだ。 そして、あんまり感情が顔に出ないから、冷たい人間のように思われてしまう。 でもふとしたときに気付く。 フュ−リ−が雛を守る母鳥のように包み込むように守ってくれていることを。 わたし、ほんとうにフュ−と知り合えてよかった。 照れるフュ−リ−を笑いながら、ジュリアはそんなことを考えていた。 *** 前の日ずっと移動だったし。 着いたの遅かったし。 胸がどきどきしてなかなか眠れなかったし。 これが言い訳になるとも思えないが。 とにかくジュリアは寝過ごしてしまい、あげくフュ−リ−に起こしてもらった。 ジュリアは朝が弱い訳ではないのだが、さすがにすこし疲れていたのかもしれない。 ウィンヒルは昨日は気付かなかったが、花が咲き乱れる美しい村だった。 「綺麗なとこだよね、ここって。」 「ああ。モンスタ−が多いのが難だが。」 確かにモンスタ−は多かった。 ラグナの住んでいるというパブは、ホテルとは反対側の村の端にあるのだが、そこま で行くのに、何回モンスタ−とでくわしたかわからない。 それでも、のどかな田園風景と色とりどりの花々は、ジュリアを感動させた。 いつか、この風景を歌にしてみたいかも。 ラグナがここに腰を落ち着けているのがよくわかる。 こんなところにいたら、帰りたくなくなってしまうだろう。 風景を楽しみながら歩いていると、あっと言う間にパブに着いた。 なんだか、いよいよ会えると思うと、体が少し震えてきた。 心の準備はとっくにできているはずなのに、でも、やっぱりいざ会うとなると怖気つ いてしまう。 ジュリアはフュ−リ−の後ろに少し隠れながら、パブの中に入ろうとした。 するとその時。 中から人が出てくるところだったらしく、ぶつかりそうになってしまった。 ジュリアはその人の顔を見て、息を呑んだ。 その人こそ、ラグナ・レウァ−ルその人だったからだ。 中へ招き入れられると、後ろのほうから、綺麗な亜麻色の髪の女性が出て来た。 きっと、この女性がラグナのことを看病したのだろう。 しかし、いつまでたってもラグナはジュリアのことがわからないらしい。 (そうだ、わたし、変装してたんだった!!) 慌ててかつらとめがねをはずすと、ラグナは自分のことがやっとわかったようだっ た。 「え!?ジュリア、なんでここに!?」 「えへへ。お見舞いにきちゃった。」 先程の女性が二階の居住スペ−スへと案内をしてくれた。 「はじめまして?わたし、レインといいます。ラグナの友達が訪ねてきてくれるなん て嬉しいわ。どうぞ、ゆっくりしていってくださいね。」 「はじめまして、ジュリアです。」 レインは、穏やかな落ち着いた美貌の持ち主だった。 大人っぽくて、優しい。 なんだか、わたし、子供っぽいなあ、この中にいると。 フュ−も大人っぽいし。ラグナさんも、なんだか前よりちょっと落ち着いたみたいだ し。 でも、ラグナさん。 久しぶりに見たけど、やっぱりあの明るく楽しそうな雰囲気は変わってなくて。 好き。 やっぱり大好き。 本当はね、わたし、意地になってラグナさんのことを探してるのかもとか思ったこと もあったんだ。 本当に彼のことが好きなのか、しばらく会ってなかったからわからなくなっていて。 今更会ったところで、どうするのとも思っていた。 でも。 彼を一目見たときに。 体の中の血液が逆流するような気持ちに襲われた。 ただ思うことは、この人のことが好き、それだけ。 何か言うことも思いつかなかった。 ただ好きな気持ちが溢れてきて。 ジュリアには、もうラグナのことしか見えなかった。 *** フュ−リ−は気を利かしてくれたのだろう。 先にホテルへ戻ると言って、帰ってしまった。 「しっかし、驚いたぜ〜?今、ここら辺は閉鎖中だろ?」 「うん、でも、さっきの友達がね軍関係者だったから、ついでで乗せてきてもらった の。」 こんな風にラグナと話をするのは二度目だ。 最初のときは、ラグナは酔っ払ってしまい、ちゃんと話した訳ではなかった。 そういう意味で言えば、真面目に話をするのは今回が初めてかもしれない。 「そっか〜。悪かったなあ、わざわざ。」 「ううん、わたしのほうこそ、お見舞いにくるの遅くなっちゃってごめんなさい。怪 我してるの聞いたの、最近なの。もう体平気なの?」 「おう!最初は体の骨がばっらばらだったんだけどな。レインのおかげで今はこの通 りだよ。」 「じゃあ、もうじきウィンザ−シティに戻るんだ?」 「・・・・・・・・・・・・・・・。」 もう、体の具合は良くなったと言っていたから。 ウィンザ−シティに戻るのはもうすぐなのだと思っていたのはジュリアだけだったら しい。 ラグナは真面目な顔をして、何も言わなかった。 気まずい雰囲気のなか、レインが紅茶を持って二階に上がってきた。 「あぶないよ、レイン。こういうものを運ぶときは、俺を呼べっていつも言ってるだ ろ?」 ラグナは慌ててレインのところへ駆け寄り、お茶セットを奪い取った。 「だいじょうぶよ。そんなに重くないわ。それに、今日はとっても体調がいいの。」 そう言って、レインはラグナに優しく微笑んだ。 「今はよくても、また悪くなるかもだろ?レインが辛そうなのを見るの、俺イヤなん だよ。もともと体あんまり丈夫じゃないんだから。」 ラグナさんってこんなに心配性な人だったかしら? ジュリアは、あまりラグナのことを知らないけれども、それでも、昔の彼はもっと豪 放磊落なタイプだったような気がする。 レインを一階へ連れて行き、またラグナは戻ってきた。 「ごめんごめん。レインさ、体が生まれつきあんまり丈夫じゃないんだよ。まあ、こ この気候はまだ体にはいいみたいなんだけどな。」 「・・・・・・そうなんだ?お大事にって伝えておいてください。」 「おう。」 いろいろ話そうと思っていたことはあったのに。 ジュリアはいざ本人を目の前にすると、何も言えなかった。 緊張していたのももちろんそうなのだが。 何か、ラグナは少し変わった気がする。 少し大人びたというか。 もともと自分よりも年上なのだから、大人なのは当たり前なのだけれど、以前の彼は 天真爛漫な子供のようだった。 でも今は、あの頃より落ち着いた感じがする。 「わたしね、歌手になれたんだ。あの時言ってた夢、かなえることができたの。」 ラグナは、ジュリアが歌手になったことを知らなかったらしい。 驚いてはいたが、ひどく喜んでくれた。 「すっげえな〜。さすがジュリア。この辺は田舎だからさ、まだこっちまでは知られ てないけど、でも、もうじき俺たちでも聞けるな。」 「あのね、歌手になれたの、ラグナさんのおかげなの。ラグナさんに背中押してもら えなかったら、、まだピアノ弾きのままだったと思う。」 「俺、何もしてないぜ?」 「ううん。いろいろしてくれた。わたし、ありがとうを言いたかったの、ずっと。」 「はは、なんか照れるな。でも、その気持ち俺にもわかるぜ。何気ないひとこととか が、すっごく励ましてくれることってあるんだよな。俺も、怪我して苦しかった時、 レインにどれだけ助けてもらったかわからない。嬉しかったよ、俺も。」 「ラグナさんは、これからやっぱり旅に出るの?ずっと、世界中を回って記事を書く ジャ−ナリストになりたいって言ってたよね。」 「あ〜・・・・・・。」 ラグナは口ごもると、頭をぽりぽりと掻いた。 「俺さ、その夢はもちろん今でもあるんだけどさ。でも、今はそれよりももっと守り たいものができたんだよなあ。」 「・・・・・・・・えっ?」 ジュリアは予想もつかない答えが返ってきたので、かなり驚いた。 だって、あんなに目を輝かせて語ってくれた夢なのに? 「俺さ、今まで俺の世界の中には俺しかいなかったんだよな。いつもやりたいことだ けやって。それだけだった。世界中を回りたかったのも、自分の目でいろいろなもの を見れば、いつか自分にもかけがえのないものが見つかりそうな気がしてたからなん だ。もちろん、世界中の人々にいろいろなことを伝えたいと思ってるけど、それは別 に旅をしなくても出来る訳だし。」 そう言ってから、ラグナは穏やかに微笑んだ。 「今はさ、やっと俺の居場所を見つけたんだ。もう、旅をして探さなくてもいい。明 日目覚めたときも、今ここにいる俺でありたい。こんな気持ちは初めてなんだ。」 ジュリアは何も言えなかった。 そしてわかってしまった。 ラグナはレインのことが好きなのだ。 先程から、レインのことを話すとき、ラグナはいつも蕩けるような微笑を浮かべてい た。 今までそのような顔をした彼は見たことがなかった。 わたしのこともいつも見つめていてくれたけど。 あんなふうに熱っぽく見られたことはない。 いつも穏やかに見ていただけ。 あの、「eyes on me」 の歌詞のように。 「それって、レインさんのことでしょ?」 「え!?いや、それだけじゃなくって・・・!!!」 ラグナは慌てふためいていたけれども、否定はしなかった。 やっぱり、そうなんだ。 だって、ラグナさん、否定しないもの。 そうか。 わたしの片思いだったんだ。 *** なんだか、頭の中がぐるぐるしてきて、ジュリアはトイレを借りた。 トイレは一階にあるらしい。 トイレをすませて出てくると、レインがいた。 「すぐ、わかりました?」 「あ、ありがとうございます。」 レインは、何か言いたいことがあるらしく、しばらくもじもじとしていたが、思い 切ったようにジュリアに尋ねてきた。 「あの、ジュリアさんは、ラグナの昔っからの知り合いなんですよね?」 「そんなに昔からではないですが。」 「あのひとを連れて行ってあげてくださいませんか。」 そう言ったレインの瞳はすこし潤んでいるように見えた。 ジュリアが何も言わずにいると、レインは寂しそうに微笑んだ。 「わかってるんです。あのひとにはここに来るまでの生活があるんだから、いつまで もひきとめちゃいけないって。わたし、体があんまり丈夫でないので、ラグナは優し いから心配してそばにいてくれているだけなんだから、甘えちゃいけないって。 今回、あなたが来てくれたことで、ラグナはきっと首都へ戻る気になったでしょう。 いいチャンスだと思います、彼にとって。」 「・・・・・・・・でも、レインさんはそれでいいんですか。」 ジュリアは堪らなくなって聞いてみた。 「わたし、ラグナにはいっぱい幸せをもらいました。でも、わたしのせいで彼の翼を もいでしまって。やっと彼を解放してあげることができます。」 そう言って、レインは慈愛に満ちた微笑を浮かべた。 もうだめ、とジュリアは思った。 わたしの入り込む隙間なんて、少しもない。 こんなに想いあっている二人をひきはなすことなんて、わたしにはできない。 ジュリアは二階に戻って、ラグナの頬をすこしつねった。 「痛っ!!」 「ラグナさん、だめだよ。想いは口に出さないと伝わらないよ。ちゃんとレインさん に気持ちを伝えてあげなよ。」 「ジュリア?」 「女ってね、言われないとわからないんだよ。ただ、見つめられているだけじゃ自信 が持てないの。」 ラグナは頬に手を当てたまま、ぼんやりと聞いていた。 「こんな時代で、いつ何があるかわからないのに、どうして今日できることを今日し ないの?明日なにがあるなんて、誰にもわからないんだから。」 「・・・・・・・・ありがとう。」 ジュリアは少し息を吸い込んだ。 「わたしね、ラグナさんのことがずっと好きだった。でもね、口に出さないでいたか ら、なんだか自分の中で消化しちゃったみたい。そんな風に、ラグナさんはならない で。」 ラグナは少し驚いた顔をしたが、少しして、穏やかに包み込むような微笑を浮かべ た。 「ありがとう。」 「お礼なんていいよ。わたし、何もしてないもん。」 *** 夕飯も一緒に食べていけという、ラグナとレインの誘いを丁重に断って、ジュリアは 丘の方へ向かった。 なんだか、自分がふらふらする。 足元が崩れていくような気持ち。 でも、わたしがんばったよね。 わたし、本当にラグナさんのこと好きだったし、今でも好き。 でも、ラグナさんは、結局わたしのことは、お気に入りの芸能人、それ以上には見て くれなかった。 本当は泣きそうだったし、声も震えていたと思う。 でも、ちゃんとがんばって、最後まで自分の気持ちを全部言うことができた。 もともと、もう二度と会えないかもしれないと思っていたんだから、会えただけでも よかったじゃない。 なのに、どうしてこんなにつらいのかなあ。 泣いたら、だめ。 泣いてしまったら、きっと止められない。 そんな姿で戻ったら、フュ−にも心配をかけてしまう。 「ジュリア−−−−−!!!!」 自分の名前を叫ぶ声がして、はっとジュリアは気がついた。 目の前には獰猛なモンスタ−が牙をむいて自分を襲おうとしている。 ああ、このままわたし、死んでしまうのかなあ。 そんなことを考えていたら、「伏せろ!!」という声がした。 それはフュ−リ−の声で。 目の前でモンスタ−がもんどりうって倒れていく向こうで、走ってくるフュ−リ−が 見えた。 もう、日が暮れていたことにも気付いてなかった自分が情けなくて、ジュリアは少し 口の端をゆがめた。 「ごめんなさい。もう日が暮れてしまったのね。全然気付かなかった。」 少しでも口を開くと、涙がでてしまいそうになる。 フュ−リ−にはあまり心配をかけたくなかったのに。 でも、結局こうして自分を探させてしまい、心配をかけている。 そんな自分が情けなかった。 たくさん尽力してくれたフュ−リ−には、結果を言わなくては。 そう思ったジュリアは、努めて明るくフュ−リ−に自分の恋の顛末を語った。 少し声は震えていたかもしれないけれど。 でも、涙は出さなかった。 そして、一番言いたかったこと。 「ありがとう。」を。 ちゃんと微笑んで言うことができた。 わたし。 本当にこれでよかったと思ってるんだよ? そういう気持ちをこめて、フュ−リ−に言ったのに。 フュ−リ−は自分が辛そうな顔をしていた。 そして、いきなり強く抱きしめられた。 「フュ−?」 「・・・・・・・そんな風にひとりで我慢しないでくれ。」 「辛いことがあったら、俺にも分けてくれ。ひとりで泣かないでくれ。」 そう言う、フュ−リ−の声も震えていて。 わたし、ひとりじゃないんだ。 わたしが、ほんとうにこれでよかったと思っていることも、でも同じくらい辛い気持 ちなことも、フュ−は全部わかってくれてる。 そして、分け合おうとしてくれている。 体中に広がる、フュ−のぬくもりが、わたしの心まで癒してくれるみたい。 ジュリアは、今まで人前で泣いたことはほとんどなかったのだけれど。 この時は、涙が止まらなかった。 ラグナに振られて辛いというよりなにより。 自分のことを分かって、そして一緒にいてくれるフュ−リ−の気持ちに涙がでて止ま らなかった。 *** ジュリアが目を覚ますと、そこはフュ−リ−の部屋だった。 昨日の晩はあのまま、泣き疲れて眠ってしまったらしい。 自分はちゃんとベッドでケットをかけて眠っていたようだ。 きっと、フュ−リ−がベッドに寝かしつけてくれたのだろう。 そのフュ−リ−はどうしたのかと、ジュリアは辺りを見回してみる。 やだ。 あんなところで眠ってる。 フュ−リ−はコートをかけて、ソファ−で休んでいた。 ジュリアは慌ててケットをとって、フュ−リ−の方へ近づいた。 眠っている彼を起こさないように、そっとケットをかけてやる。 こうしてまじまじとフュ−リ−の顔を見るのは初めてだ。 いつもは大人っぽい彼なのに、眠っていると少し子供のように見える。 あのね。 わたし、フュ−がいてくれなかったらこんなに吹っ切れなかったんだよ? フュ−がいてくれたから、がんばってラグナさんに気持ちを伝えることができた。 いつも助けてもらってばかりなわたしだけど、フュ−が困っているときにはいつでも 駆けつけるから。 「だから、これからも一緒にいてね?」 ジュリアは眠っているフュ−リ−にそう語りかけると、少しかがんで彼の頬に触れる だけのキスをした。 |
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