〜part10〜



初めての恋は、
一目で胸がときめいたの
二度目の恋は、
いつから始まったのか、わたしにもわからない
でも、それはいつのまにかわたしの中を埋め尽くしていた 




 
 
ウィンヒルから戻って一ヶ月がすぎた。
ジュリアの日々は、以前と変わらず流れている。
そういった毎日のことが、自分を穏やかに癒してくれた。
だから、ラグナのことを考えても、少し胸は痛むけれど、懐かしいような優しい気持
ちになる方が強い。

 




わたし、本当に彼のことが思い出になったんだ。
わたしはわたしで幸せになるから、だからラグナさんも幸せになって欲しい。
心からそう思える自分が、少し嬉しかった。
 




今のジュリアの気がかりはひとつ。
それは、あれ以来、どことなくフュ−リ−がよそよそしくなったように感じられるこ
とだ。 
 




ジュリアは自分でも、人に触れたり触れられたりするのが好きなほうだとわかってい
る。
それは、小さいころに、両親と死に別れたからかもしれない。
普通の子のように、両親に触れられたりした記憶は少ししかない。
時々、自分はここにいていいのか不安になることだってある。
人に触れていると、自分がここにいるんだって、実感できる。
だから、フュ−リ−にも触れようとするのだけど、そのたびごとにジュリアは彼に避
けられていた。





 
最初は、ただフュ−リ−が照れ屋なだけだとジュリアは思っていた。
しかし、最近では、フュ−リ−はジュリアと目が合うと、困ったように逸らすように
なった。
 




 
触れられたくないくらい、そんなにわたしのことが嫌い?
わたし、なにかいけないことをした?
 




毎回ライブには来てくれるけど。
でも、以前とは違って、なにか薄い壁が二人の間にあるような気がする。





 
どうしてもっと近づいてきてくれないの?
わたしたち、友達じゃないの?





今まではこんな気持ちにはならなかった。
前も無口ではあったけれど、フュ−リ−の何気ないしぐさにジュリアを親しく思って
くれている気持ちが感じられたから。





ジュリアはフュ−リ−に距離を置かれたくなかった。
リ−ナやウェインより。誰よりも、フュ−リ−は自分の近くにいる人だからだ。
みっともない自分もたくさん見られて、でも、それでいいと言ってくれた初めてのひ
と。
リ−ナやウェインではダメだった。二人はあまりに近すぎて、まるで自分の身内のよ
うなものだったから。
フュ−リ−という他人に受け入れてもらえて、はじめてジュリアはくつろげたのだ。





 
だから、聞いてみようと思う。
そして、なにかいけないことがあったのなら、治すように努力しよう。
もう、1人でいるのは嫌だから。
1人であれこれ思い悩むのも、もう嫌だから。
 
 




***




 
「最近さ、フュ−おかしくない?」




いつものようにフュ−リ−とコーヒーを楽しんでいる時に、ジュリアは思い切って切
り出した。
フュ−リ−は少し、動揺しているようだった。
 




以前だったら気付かなかったフュ−リ−の表情も、今ではかなり読み取れるように
なっている。
長い間一緒にいたわけではなく、最近知り合ったばかりなのだけれど。
でも、もう誰よりも近くにいてほしいひとになってしまったから。
だから、あなたの気持ちを知りたいって、そう思っているの、いつも。
もう、ごまかされないんだから。
 




自分のことが嫌いになったのかという疑問をぶつけてみた。
すると、フュ−リ−は心底驚いた顔をして、一生懸命否定してくれた。
その姿を見て、ジュリアは少し安心した。
よかった。
嫌われた訳ではなかったんだ。
 




でも、その後にフュ−リ−が切り出した話に、ジュリアは非常にショックを受けた。
 
 




しばらく会えないってどういうこと?
フュ−まで、わたしを置いていってしまうんじゃないよね?
本当に、「しばらくの間」だけですむの?
ラグナさんは、「また来る」と言ったきり、二度と来てはくれなかった。
フュ−にも二度と会えなくなるなんて、そんなことはないよね?
 




わたし、フュ−に置いていかれたら、どうしていいのかわからない。
こんなにフュ−に頼りっきりなのは、本当はいけないと思うのだけど。
でも、フュ−だけが、わたしを甘えさせてくれたひとだから。
あなた以外に甘えたことがなかったから。
今は、甘えるということがどれだけ気持ちのいいことか知ってしまったから。
もう、知らなかった頃の自分には戻れない。
 




でも、こんなワガママ、言っちゃいけないよね。
 




自分に会いたくなくて来ない訳じゃない。
お仕事なんだから。
仕方がないことなんだから。
 




 
そう自分に必死で言い聞かせてみる。





ここで、ダダをこねたりしてはいけない。
ワガママなんか言って、二度と会ってもらえなくなったらどうするの。
とりあえず、一ヵ月後のリ−ナたちの結婚式には会えるんだし。
少しくらい頑張らなくちゃ。
 




そう考えて、ジュリアはにっこり微笑んで、フュ−リ−に応えた。
すこし、笑顔がこわばってしまったこと、フュ−リ−は気付いていたみたいで、彼は
少し辛そうな顔をしていた。
 




大丈夫。
大丈夫だから。
心配しないで。
 
 




フュ−リ−は優しいから、もしここで自分が辛そうな顔でもしたら、無理をしてまで
も会いに来てくれる。
でも、ジュリアはフュ−リ−の側で並んで歩いていきたかった。
ワガママを聞いてもらうだけの関係なんて嫌だった。
いつか、自分でもフュ−リ−のことを支えられるように。
今、自分にできることはしたかった。
 




わたしも頑張る。
あなたの横に立って、恥ずかしくない自分でいたいから。

 




 
話を変えるために、リ−ナたちの結婚式の話をした。
自分が歌うことを教えると、フュ−リ−は甘やかな微笑を浮かべて喜んでくれた。
その笑顔を見て、ジュリアの胸の鼓動が高まった。
 




このひとの笑顔は、どきどきする。
普段はそれほど笑うほうではないから、余計に笑顔が印象深いんだわ。
優しそうで穏やかな微笑み。
まるでフュ−リ−の性格のいいところだけを切り取ったような、そんな微笑をする。
 




 
おかしいわ。わたし、友人のはずなのに。
胸がときめいてしまうなんて。
 
 




 
***





「お疲れ様、ジュリア!ご飯できてるわよ。」




式が近づいてきたので、リ−ナは店に出なくなっていた。
式までにはやることがたくさんあるらしい。




「ウェインも、もうそろそろ帰ってくると思うわ。そしたら、みんなでご飯にしま
しょ。」
「ありがとう、リ−ナ。わたしも手伝うね。」




そう言って、ジュリアはコ−トを脱いでセ−タ−の裾をまくった。
 
 




「ウェインも、忙しいんだね・・・・・。軍人さんって大変だね。」
「ここのところ少し大変みたいね。でも、どうしたの、いきなり?」
「・・・・・・・・・うん。フュ−もね、忙しいんだって。しばらくライブには来れ
ないって、今日言われちゃった。」




そう言って、ジュリアは俯いた。
リ−ナにとっては、少し驚きだった。
フュ−に会えないことで、ジュリアがここまで元気がなくなるとは。
 




確か、ジュリアには好きな人がいなかったかしら?
そのひととは、うまくいってるのかしら?





「そういえば、ジュリア。あなたの好きな人ってどうしたの?会えたんでしょ?」
「会えたことは会えたんだけど、ね。振られちゃった。」
「まあ!!あんたを振るなんて、そんな見る目のない男がいるの!?」
「もう、かいかぶりすぎだよ。そんなこと言うの、リ−ナやウェインだけだよ。」
「あら、フュ−だってそう言うと思うわよ?あの子、ジュリアのことが好きじゃな
い。」




リ−ナはちょっとした冗談のつもりで言ったのだが。
ジュリアは見る見るうちに、顔を真っ赤にさせた。





「もう、からかわないでよ。」




そう言って、真っ赤な顔のまま向こうに行くジュリアを見て、リ−ナはくすりと笑っ
た。
もしかしたら、ジュリアもフュ−のことが好きになっているのかもしれないわね。
可愛いジュリアには、幸せになって欲しいといつも願っている。
フュ−リ−と幸せになってくれれば、これほど嬉しいことはない。






リ−ナってば、とんでもないこと言うんだから。
ジュリアは火照る頬を押さえながら、食器を並べていた。
フュ−がわたしのことを好きなんて、そんなことあるわけないじゃない。
フュ−はどんなひとにも優しいから、だからそんな風に見えるだけよ。
わたしだけが、特別なんじゃない。
 




そこまで考えて、ジュリアは少し胸が痛んだ。
でもその時のジュリアには、何故胸が痛むのかわからなかった。
 




***






それから一ヶ月。
その間、一度もフュ−リ−はライブには来なかった。
今日は来ているかも、そういう期待をもってステージにあがるのだけれど。
いくら探しても彼の姿はなくて。
そのたびに、ジュリアは心底がっかりした。





おかしいよね。
たった一ヶ月会えないだけじゃない。
結婚式では必ず会えるんだから。
もう少し我慢しなきゃ。
そう言い聞かせて、この一ヶ月を過ごしてきた。
 





「リ−ナ、早くしないと遅れるぞ!!」
「わかってる、あと戸締りだけ!!」




結婚式の当日だというのに、リ−ナとウェインは慌しく家事をしていた。
これから二人は新婚旅行にも行くので、しばらく家を空けることになる。
しばらく家を空けても大丈夫なように準備をしていたため、忙しかったのだ。




「いいよ、わたしが戸締りしておくから、ふたりは先に教会行ってなよ。もう、間に
合わないよ。特にリ−ナは着替えもあるんだから。」




前日から手伝いも兼ねて泊り込んでいたジュリアは、笑いながら二人に言った。




「そう?悪いわね。鍵の場所は分かってるわよね、あと、電源の落とし方と、ガス
栓、水道の止め方と・・・・・・」
「リ−ナ!!ジュリアだって、分かってるよ。任せて大丈夫なんだから!!」
「ウェインの言うとおりだよ。だいじょうぶ、全部できるから。」
「じゃあ、後で式場でな!!」
「うん」




二人を見送ってから、ジュリアはドレスに着替え始めた。
 




そのドレスは、たっぷりとしたタフタ生地でできていて、淡いラヴェンダ―色のシッ
クなものだった。
先日街を1人で歩いていた時に、目にとまったのだ。
いつもはジュリアは濃い色のものを好んで着るのだけれど。
一目見て、このドレスにしようと決めた。
多分それは、フュ−リ−が好きな色だというのを知っていたから。





ウィンヒルに行ったとき、フュ−リ−と見た花畑では、ちょうど淡い紫色の花が満開
だった。
その時、好きな色の話をしたことがある。
フュ−リ−は、淡い色が好きだと言っていた。
淡い色というのは、彼のイメージにもあっていて、ぴったりだと思った。
 




今日は、久しぶりに会うし。
フュ−の好きな色の服着てたら、フュ−どんな顔するかしら。





ジュリアはくすくすと笑った。
今日の結婚式は、確かにずっと楽しみにしていたもので、ジュリアの気持ちを浮き立
たせるものだったのだけれど。
それに加えて、フュ−リ−と久しぶりに会えるというのも、ジュリアにとっては嬉し
かった。
 




 
あのね。
たくさん話したいことがあるの。
また、優しく微笑んで、聞いてくれるよね?




 

***





 
ジュリアは歌を歌うため、一般招待客と式の間会うことはなかった。
式では、3曲ほど披露をした。
純白のウェディングドレスを着るリ−ナは今までで一番綺麗だった。
二人は、わたしの大事な家族だから。
幸せになって。
そういう気持ちを精一杯こめて歌ったつもりだ。
 




ウェインとリ−ナは、大変喜んでくれた。
式の後、リ−ナはジュリアにブ−ケを渡した。




「え、こんな大事なもの、もらえないよ。」
「大事な妹にあげるのだから、いいのよ。次はジュリアの番ね。」




そう言われて、ジュリアは真っ赤になった。




「わたし、まだ相手もいないのに・・・・・・・。」
「あら、ジュリアが気付かないだけで、もう出逢っているのかもよ?ねえ、ウェイ
ン。」




ウェインは、にっこり笑って、ジュリアの頭を撫でた。




「ジュリアもさ、あんまり考えすぎない方がいいもんだぜ?気持ちなんて、理屈でわ
りきれるもんじゃないんだから。案外、普通の気持ちが自分にとって大切だったりす
るもんだ。」
「ウェインもそうだったの?」
「お、俺のことはいいじゃないかよ!!」




ウェインが真っ赤になって慌てているのを見て、ジュリアは笑った。




「二人とも、幸せになってね!!わたしもがんばるから。」
「おう。」
「ありがとう。」
 




そう言って、ジュリアはパ−ティ会場の方へと向かった。
ジュリアの美貌はいつにもまして輝いていて、ましてやさきほど素晴らしい歌を披露
したので、行く先々で声をかけられた。
そのたびごとに、丁重に挨拶をしながら、ジュリアはフュ−リ−を探していた。
 




フュ−、きっとこういうパ−ティ苦手そうだから、すみっこにいるんだわ。
今日はどんな風に彼は聴いてくれたかな。
 





やはり、フュ−リ−は会場の隅のほうにいた。
今日の彼は、軍人の正装である礼服を着ていた。
礼服はデコラティブなデザインであったが、それが彼の繊細な美貌を引き立ててい
た。
遠目からでもすぐに分かった。
 




やっぱり、フュ−って綺麗だよね。
男の人にこんな感想っておかしいのかもしれないけど。





フュ−リ−は顔もそうだが、佇まいやしぐさも非常に凛としている。
本人は目立たないようにしているらしいが、独特の雰囲気が人の目を誘うのだ。
実際、周りの女性たちはフュ−リ−のほうをちらちらと見ながら色めきたっている。
 





あんなにかっこいいのに。
わたし以外、親しい女の人っていないみたいなんだよねえ。
もったいないなあ。
 




そんなことを考えながら、ジュリアはフュ−リ−の方まで近づこうとした。
しかし、それ以上足は進まなかった。
フュ−リ−は1人ではなかったからだ。





 
誰なの?
フュ−に、わたし以外に親しい女の人なんていたの?
 




その女性は、フュ−リ−と同じように礼服を着ていた。
ブルネットの艶やかな巻き毛に、ヘイゼルの瞳。
理知的な雰囲気を持つ、美しいひとだった。





フュ−リ−が凛としたストイックな美貌の持ち主なので、彼女の理知的な美貌とよく
似合っていた。
まるで、一枚の絵のように、二人はお似合いだった。
 




二人はかなり親しいらしい。
滅多に笑わないフュ−リ−が、あの優しい微笑みを浮かべながら、彼女と話をしてい
る。
その様子を見て、ジュリアは胸が焦げるような気持ちがした。
 




今まで気にしたことなかったけど。
わたし、フュ−のこと何も知らなかったんだ。





フュ−リ−から、恋愛の話などは聞いたことがない。
ジュリアは、フュ−リ−が奥手だからだと思っていたのだが。
 




でも、もし、もう既に恋人がいるから、ジュリアに相談することもなかったのだとし
たら?




 
そう考えて、ジュリアは愕然とした。
 




フュ−に恋人がいるということは。
友人のわたしのことも大事にはしてくれるだろうけど、でも、彼の一番にはなれない
ということだ。





そんなの嫌。
だって、あのひとと笑いながら話しているフュ−を見るだけで、こんなに胸が痛い。
 




わたしだけ見ていて。
他の人なんて見ないで。
わたしにだけ微笑んでいて。
他の人に笑いかけたりしないで。
 




そういう気持ちが、ジュリアの心の中から荒れ狂ったように吹き出している。
その気持ちがなんなのか、ジュリアには分かってしまった。 
そう、それは独占欲。
フュ−リ−を誰にも渡したくない。
そして、自分もフュ−リ−以外のひとのものにはなりたくない。
 




わたし。
フュ−のことが好きなんだ。





今までも、フュ−のこと特別だって思ってたけど。
誰よりも側にいて欲しいと思っていたけど。
それは好きだったからなんだ。
 




 
いつの間に、こんな気持ちになったのか、ジュリアには分からなかった。
確かに一ヶ月前までは、ラグナのことが好きだったのに。
でも、ラグナのことを思い切るとき、妙に楽だったのを覚えている。
もう、あのころからフュ−リ−のことが好きだったのかもしれない。
 




本当だね、ウェイン。
理屈じゃないんだね。
普通にありすぎて、わたし分からなかったよ。
フュ−リ−が側にずっといてくれるなんて、そんな保証、どこにもなかったのに。
 





その場に立ち尽くすジュリアに、フュ−リ−は気付いて近くに寄って声をかけた。




「ジュリア!!・・・・・・?どうかしたか?」




いきなりフュ−リ−に話し掛けられて、考え事をしていたジュリアはかなり驚いた。




「・・・・・えっ、あっ、フュ−。」
「フュ−?どうかしたの?」




くだんの女性も、フュ−リ−が女性に声をかけるなんて珍しいと思ったのか、こちら
へやって来た。
 




そのひとも、フュ−って呼ぶんだ。
ほんとにわたし、特別でもなんでもなかったんだね。





「あら?あなた、ジュリア・ハ−ティリ−?」
「・・・・・・・・・ええ、そうです。」
「さっきの歌は、本当に感動したわ!!ねえ、フュ−?あなたいつの間にこんな有名
な歌手と知り合いだったの?」
「ジュリアは、キャリッジ先輩の幼馴染なんだ。その紹介で友人になった。」





改めて二人の関係をはっきりフュ−リ−に言われて、ジュリアは少しショックだっ
た。
確かに、わたしたちって、それだけの関係なんだ。
もっと近しい関係だと思っていたのに。
言葉にすると、こんなに薄っぺらい関係だったのね。
 




「そうなの!もう、フュ−ったら全然教えてくれないんだもん。そういうことは言っ
てよね。わたし、ジュリアさんの歌好きなんだから。あ、わたしはシエラ・マクリー
ンといいます。フュ−とはもう8年越しの仲になるかしら。」
「・・・・・・始めまして。ジュリア・ハ−ティリ−といいます。」





この、シエラっていうひともフュ−のことが好きなんだ。
ジュリアはそのことにすぐに気付いた。
だって、わたしのこと牽制してるもの。
そして、フュ−を見つめる瞳は甘やかで、理知的な美貌に華を添えている。
女のジュリアから見ても、彼女は見とれるほど美しかった。
 




わたし、もう遅いのかなあ。
フュ−に好きになってもらえないかなあ。

 




側にいられるなら、このままずっと友達のほうがいいのかなあ。





でも、誰かがフュ−の一番になるのを、側で見ているだけ?
そんなことになって、わたし耐えられるのかしら。
 




急に自覚した思いは、怒涛のように溢れ出す。
どうして気付かなかったんだろう。こんなに好きだったこと。
 





「俺、まだキャリッジ先輩のところへ挨拶に行ってないんだ。ジュリア、案内してく
れるか?」




黙り込んでしまったジュリアを見て、フュ−リ−はそう切り出した。




「え・・・・・いいけど。」




シエラのことはいいのだろうか。
ジュリアが軽く小首をかしげると、フュ−リ−は穏やかにシエラに向かって言った。




「そういう訳だから、シエラ。ちょっと席はずすな。」
「あ、うん。行ってらっしゃい。わたしはもう挨拶しちゃったし。」
 
 



二人で歩くと、胸がどきどきする。
今までだって、何回も一緒に歩いたりしてたっていうのに。
自分の気持ちに気付いてから、なんだか余計に彼のことを意識してしまっている。
 



「ジュリア。」



いきなりフュ−リ−に声をかけられて、ジュリアはびくっとした。



「な、なあに?」
「その服、珍しいな。ジュリアはそういう淡い色は着ないだろう。」
「うん、そうなんだけど。たまにはいいかなって・・・・・。似合わない?」
「いや・・・・・。すごく綺麗だ。そういう淡い色、俺好きだし。」




そこまで言うと、フュ−リ−は頬を赤く染めて顔をジュリアから背けた。
 




嬉しい。
わたしの服、ちゃんと気付いてくれた。





「歌も。今日のは、なんというか、凄かった。普段の歌より適度に力も抜けていて、
くつろげるような歌だったな。」
「ありがとう。わたし、本当に嬉しい。二人は、わたしにとって安らげる場所だから
そういう意味もこめて歌ったの。ちゃんと伝わったのね。」





嬉しい。
わたしの歌、いつもちゃんと聴いてくれる。
あなたの言葉がどれだけ励みになっているか、あなたは知らないでしょう?
 




 
好き。
大好き。
あなたの一言でこんなにも癒される。
あなたはわたしの特別なの。
 




わたしは、まだあなたの特別じゃないけれど。
いつか特別にしてもらえるかしら?
わたしのことも振り向いてくれるかしら?
 




 
一度目の恋は気持ちを伝えないでいたせいで、失敗した。
二度目の恋は失敗したくない。
この恋も失敗したら、わたしきっともう歌えなくなってしまう。





もうきっと、あなたみたいなひとは現れないから。
 
 




ジュリアはフュ−リ−を見つめた。
フュ−リ−はその視線に気がつき、首をかしげた。




「ジュリア、どうかしたか?」
「あのね。わたし、あなたに言わなくちゃいけないことがあるの。その時が来たら、
聞いてくれる?」
「もちろん。」





そう言って、フュ−リ−は微笑んでくれた。
ジュリアもフュ−リ−の笑顔を見て、微笑んだ。
その笑顔は、今までフュ−リ−が見た中で、一番美しかった。

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