〜part13〜


神なんて知らない。
誰が許してくれなくってもかまわない。
君が居てくれるなら、それでいいんだ。













二人で読んだ日記の内容は衝撃的だった。
実際、フューリーにもどうしたらいいかわからなかった。







でもそれよりも。
きっと一番ショックなのはジュリアだ。
彼女は何も知らなかったのだから。






今思うと、ジュリアがこの日記を読みたがらなかった訳がわかる。
彼女も、魔女ではないとはいえ、なんらかの潜在能力みたいなものがあるのだろう。
その力が、これから起こることを予想させたのか。








「・・・・・・・わたしたち、一緒になれない、ね・・・・・。」






しばらく二人とも黙ったままだったが、ジュリアがフューリーを見つめてぽつりとこぼした。







「・・・・・・・どうして。」






フューリーは少し掠れた声でジュリアに尋ねる。
フューリーにはなんとなくジュリアが言おうとしていることがわかった。
もし、自分だったらそう言うだろうと思うから。








でも。










「・・・・・・・わかる、でしょ・・・・・?わたしは、ここにいてはいけないの。
 幸せになることなんて、最初から無理だったのに・・・・・・・。」










そんなことを泣きそうになりながら、それでも懸命に言葉をつむぐジュリア。
そんな彼女の姿を見て、フューリーはたまらなくなって後ろから抱きしめた。







彼女の気持ちはわかる。
でも、そんな言葉を言わないで欲しい。
そんな、あきらめたようなことを言わないで欲しい。








魔女。
強大な力を持っていて、その気になれば世界を征服できるほどの力を持った女性。
ビンザーが恨んでやまないもの。
今も世界を混乱させているもの。








だから、何だって言うんだよ。








「・・・・・・・俺はそんなのは嫌だからな。」
「・・・・・・・わたしだって嫌だよ・・・・・・。でも、わたしなんかと一緒にいたら、フューが危険だよ!?
 今は魔女戦争の真っ只中で、しかもわたしの力が血によって継承されるものだということがバレたら、きっと
 政府はわたしたちを殺しに来るわ!?わたし、フューにそんな目にあって欲しくない!!」
「・・・・・だったら、ジュリアはひとりでそんな目に会うって?」
「・・・・・だって、これはわたしのせいだもの・・・・・・。誰のせいでもないもの。」








ジュリアは優しいから。
だから、そんなことを言うんだろう。
でも。
なんだか、それは。







非常にむかつく。








フューリーは無理やりジュリアの顔を自分に向けさせた。
「・・・・・・・なに・・・・・・?」
「・・・・・・・そんな未来、決まってないぞ。」
「だって・・・っ!!今の情勢を考えたら・・・・・・っ・・・・・・・!!!」







そのままジュリアの唇を荒々しくふさいで。
ジュリアの全てを離さないように、封じ込めてしまう。










「・・・・やぁ・・・・っ・・・・・」
「お母さんも言っているだろう、決まった未来なんかない、と。」
「でも、子供が女の子だったらどうするの!?その子もやっぱり魔女になるのよ!?」
「・・・・・・・だから、なんだよ?」








魔女になるかなんてわからない。
ましてや女の子が生まれるかどうかもわからない。






わからない未来に怯えて、ジュリアの手を離す?
そんなこと、させない。










「俺が守るから。」







そう言ったフューリーの顔を、ジュリアは少し驚いたように見つめた。
あまり怒ることをしないフューリーが真剣に怒っているのがわかって、驚いたのだろう。










「ジュリアは俺の言ったこと、全然信用してない。俺、言ったよな?
 もう離れたくないって。」
「信用してるけど、でも、そのために、フュ−を犠牲にしたくないの。わたしさえい
 なければ、フュ−は普通の生活を送れるのよ!?」
「ジュリアがいない、普通の生活なんかいらない。」
 










確かに、俺は普通の生活を望んでいた。
ささやかな、だけど穏やかな幸せが欲しかった。







でも、俺たちは出会ってしまったから。
君に会って、俺は色々なことを知ったんだ。
もう、知らなかった頃には戻りたくない。戻れない。








ジュリアとひきかえにしなくては手に入らないものならば。
俺はそんなもの、要らないんだよ。












フュ−リ−はジュリアの頬を両手で包んだ。








「ジュリアに会うまでは、俺は死んでいるようなものだったんだ。ジュリアが、俺に
 人間らしい喜びを教えてくれた。その、わたしなんかって言うの、止めろ。」
「フュ−?」
「ジュリアは、ジュリアだ。たったひとりの、俺の大事な人だ。代わりなんかない。
 魔女の血がなんだって言う?それとも、ジュリアは俺にそばにいて欲しくないの
 か。」
「そんなことっ・・・・・・!!」







まだ何かを言おうとするジュリアに無理やり口付ける。










お願いだから、わかってくれ。
ジュリアはジュリアなんだ。
そんな風に、迷わないでくれ。







本当に俺を愛してくれているのなら、迷ったりしないでくれ。




 




「・・・・・・・んっ。」
「・・・・・・俺にはジュリアが必要なんだ。俺のことを捨てたいのなら、嫌いに
 なったって、はっきり言ってくれ。」









ジュリアの青白い顔を、フューリーは真っ直ぐに見た。
ジュリアは迷っていた。
俯いたまま、じっとしていた。
少し、彼女の肩が震える。









中途半端は、いらない。
どうしても別れるというなら、これ以上ないくらい、こっぴどく振ってくれ。
俺に余計な期待を抱かせないように。









「言わなきゃ、ジュリアを離さないからな。」











***











「・・・・・・・・ふっ・・・・・・・え・・・・・・」







ジュリアは静かに泣き始めた。
その姿が、フューリーを安心させた。








ああ、君は、まだ俺の事を見捨てていない。
なら、大丈夫だ。









泣き始めたジュリアを優しく抱きしめる。
すると、ジュリアはそっとフューリーの背中に手を回した。








「・・・・・・・・わたしは・・・・・・・。」
「愛してるよ。ジュリアがなんだったとしても、愛してる。」
「・・・・・・・・魔女でも?」
「魔女でも。」
「これから、きっと大変なんだよ?」
「大変なんかじゃないさ。ジュリアがそこにいるだけで、俺は幸せなんだ。」










ジュリアのことを見守っていられるだけでいいと思っていた、あの頃からそうだ。
ジュリアがいるだけで、俺は幸せだった。
愛してくれなくても、傍でずっと見ていられたらと願っていた。











「・・・・・・わたし、幸せになってもいいのかな・・・・・?
 許してくれるかなあ・・・・・・?」











ジュリアはまだ、泣いていたけれど、そんな風にぽつりと言った。
フューリーはジュリアの頭をそっと撫でる。
興奮しているジュリアを落ち着かせるために。










「誰が許さないっていうんだ・・・・?」
「・・・・・わからないけど、しいていうなら、神様、かな?
 昔ね、日曜教室で神父さまが言ってた。人はよい行いをするために努力しなくてはいけないって。
 神様が見てるからって。」
「俺たちのことを許してくれない、そんな神様はいらない。」
「・・・・・・フューってば。」
「俺は日曜学校で、人を愛することは一番よい行いだと習ったぞ?
 そうなら、許されないわけないじゃないか。
 魔女だって人間だ。幸せになれないなんて、そんなことあるはずない。」










魔女だって、人間なんだ。
いい人間がいて、悪い人間が居るように、魔女もきっと同じ。












「もし、俺たちに娘が生まれたとしても、俺たちが魔女にさせない。」
「わたしの両親みたいに?」
「そう。身近に成功例がいるんだから、できないなんてことないさ。」









フューリーがそう言うと、ジュリアはやっと少し笑った。










「大体な、俺にジュリアなしで生きさせるっていうことのほうが大変だぞ?人の気も
知らないで、酷いよな。」
「わたしも、フュ−がいなかったら、だめなの。」
「だったら、もう、あんなこと言うな。」
「ごめんね、ごめんね・・・・・・・。」










この世に奇跡があるのなら。
それはきっともう始まっているんだ。











俺は、ずっとひとりで生きていくものだと思っていた。
だけど、君が現れた。
ずっとこの恋は叶わないと思っていた。
だけど、君は俺を愛してくれた。











ひとつひとつのことが、まるで奇跡。
今まで俺が想像したこともないことばかり。










だから、きっと俺たちの夢も叶う。
そうやって、お互いゆっくり年を重ねていくんだ。











「結婚を決めたとき、ジュリア言ったよな?わたしの人生を全部あげるから、あなたの人生をわたしにちょうだいって。」
「うん。」
「同じこと、俺も望むよ。俺の人生を全部あげるから、君の人生を俺にくれ。」
「・・・・・・・うん、あげる。全部あげるよ、わたし・・・・・。」
「そうやって、お互い年をとっても一緒にいような。」
「・・・・・・うん。」








夢に描くものは、いつも笑っている君と、俺、そして可愛い子供たち。







「いい加減、泣き止めよ?明日、顔はれるぞ?」
「ひっく・・・・・・・、フュ−がいけないんだから・・・・・・。わたし、こんな
に泣き虫じゃなかったのに・・・・・・・・・。」
「それは光栄。」
 








くすっと笑って、フュ−リ−はジュリアの瞳から涙を吸い上げた。
「・・・・・・ついでに、もっと泣かしてもいいか?」
「・・・・・・・えっち。」










誰が許さなくっても構わない。
俺は絶対にこの手を離さない。








今は見えなくても、きっと未来はそこにあって。
いつか掴める日が来るんだ。








そうやって信じていきたい。
フューリーはそう思った。





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