〜part15〜
 



たとえあなたが何であっても
わたしたちはあなたの味方
忘れないで
わたしがいなくなっても
 






 
「リノア、どうしたの?」
「・・・・・・・・・・・リノアわるくないもん。」
 






今日、リノアの幼稚園から家に電話がかかってきた。
たまたま今日はオフだったため、ジュリアは家でおやつを作ったりしていたのだが。
先生からいきなり呼び出されたので、慌てて幼稚園までやって来た。
 






見ると、リノアはおでこにたんこぶを作って、むうっとした顔で黙り込んでいる。
隣ではあちこちに怪我をした男の子がわんわんと泣いている。
 






「わたしもなんで喧嘩になったのか見ていないので、わからないんですけれど・・・
・・。」






そう言って、先生がすまなさそうに言った。






「先生の管理不注意でもありますけど、カ−ウェイさん!あなたのお子さん随分乱暴
じゃありませんこと!?」






男の子の母親は真っ赤になって怒っている。






「も、申し訳ございません。」
「まったく、女の子だっていうのに・・・・・・。親がちゃんとしていないから・・
・・・・。」
「本当にすみませんでした。ほら、リノアも謝りなさい。怪我させちゃったんだか
ら。」
「リノアだってけがしてるもん。」






リノアはそう言うと、走って向こうへ行ってしまった。
 






「まあ、何て可愛くない子なんでしょう。」






向こうの母親は火を吹かんばかりに怒っている。






「すみません、本当に。リノアにはよく言っておきますから。」
「所詮芸能人の子供はダメね。乱暴で。カ−ウェイ中佐もとんでもない方と結婚なさっ
たこと!!」






そう言い放つと、母親はふん!!とばかりに帰っていった。
 






「あの、気になさらないほうがいいですよ?あの方、カ−ウェイさんのご主人のこと
がお好きらしくて、あんなことばかり言って回るんです。でも、カ−ウェイさ
んがいい方なのは、私たちみんなわかっていますし。うちの子が言っていましたけ
ど、あそこのお子さんリノアちゃんにいつも嫌なことばかり言うらしいんですよ。」






他の子供の母親が見かねてそう言ってくれた。







分かってる。
わたしたちが結婚した時から言われ続けてきたことだもの。







でも、わたしが言われてるのと同じ事をフュ−リ−も言われていると思う。
わたしのファンでもいい人と残念ながらそうではない人がいる。
そういうファンの人たちに、あんな軍人はわたしにふさわしくないとか言われている
ことを知っている。
 






最初はショックで泣いたりとかしてたけど。
でも、俺たちのことを全く知らない奴らが言うことなんか気にするなって、フュ−が
言ってくれて、ふっきることができた。







そう。
わたしもフュ−とリノアだけが大事。
他にはなにもいらないの。







「ありがとうございます。わたし、気にしてませんから。」






ジュリアはそう言って会釈をし、リノアを探しに行った。
 
 






「リ−ノア?」






リノアは園庭の隅っこで座り込んでいた。






「リノア、もう帰ろっか?」






リノアはむっつりと黙り込んだまま、ぎゅっとジュリアの手を握ってきた。








こういうところ、フュ−にそっくり。
リノアは外見や普段の性格はジュリアに似ているのだけれど。
でも、ふとした時に見せる仕草なんかはフュ−リ−にそっくりだった。
頑固で自分を曲げないところとか。不器用なところとか。







「今日のおやつはねえ、リノアの好きな蜂蜜ド−ナツだよ。帰ったら食べようね。」
「・・・・・・・・・・おかあさん。」
「なあに?」
「リノアがなにをしたかきかないの?」






そう言って、泣きそうな顔でリノアはジュリアを見上げた。
ジュリアは優しく微笑んだ。






「おかあさんねえ、リノアは決して理由なしに喧嘩したんじゃないってわかるもの。
そうなんでしょ?」
「うん・・・・・。でもね、おかあさん、あのおばさんにあやまってたでしょ?リノ
アいけないこなのかなあって・・・・。」
「そうね。あんまりやりすぎはよくないわね。リノアは喧嘩強いけど、女の子なんだ
から。」
「ごめんなさい・・・・・・。でもね、リノアまけたことないんだよ。すごいでしょ
!?」
「せっかくおとうさんがお星様の名前をつけてくれたのにねえ。」






ジュリアはやれやれと言った風に苦笑した。
リノアは目をまんまるにして、ジュリアに尋ねた。






「リノアおほしさまなの?」
「そうよ。綺麗なお星様の名前なの。だからあんまり乱暴しちゃダメよ?素敵なお姉
さんになりたいでしょ?」
「うん。リノアね、おかあさんみたいになる。それで、おとうさんにむかえにきても
らうの!」
「なんでおとうさんなの?」
「おとうさん、おうじさまみたいでしょ!?リノア、おとうさんほどかっこいいひと
みたことないもん。」
「おとうさんはだめよ。もうおかあさんのものだもの。リノアは他のひとを探しなさ
い。」

 






***






 
「あっはっは。だから帰ってきたとき、リノア、あんなことを言ってたのか。」
「まったく、一体どこで覚えてくるのかしらねえ。びっくりしちゃうわ。」
 






リノアはフュ−リーが帰って来たとたん、フュ−リ−に飛びついて言ったのだ。






「おとうさん、リノアのことせかいでいちばんあいしてるよね?」






いきなりそんなことを言われて、フュ−リ−は一瞬固まってしまった。
そんな父親の姿が気にいらなかったらしく、リノアは思いっきり膨れてしまい、宥め
るのが大変だったのだ。
 






「なんだかね、童話ではよく王子様がでてくるでしょう?リノアも女の子だから、そ
ういうのに憧れているみたいなの。」
「ジュリアもそうだった?」
「そうね。そうだったかも。男の人はそんなことないものなの?」
「そうだな・・・・・・、別にお姫様に憧れたりはしなかったな。」
「このまま、こうやって幸せだったらいいのにね。」
「ジュリア?」
「だって、あの子は女の子だもの。」
 






そう。
リノアはやっぱり女の子として生まれてしまった。
これから17歳を過ぎるまで、魔女のことはなるたけ隠し通さねばならない。
リノアを魔女にしないために。
 






「大丈夫だから。最後の魔女でない限り、力を継承することはないから。」
「うん・・・・・・・。」






ジュリアはフュ−リ−にきゅっと抱きついた。
フュ−リ−も優しくジュリアを抱き返す。
 






最後の魔女。
お母さんの日記にも詳しいことは書いてはなかった。
でも、断片的に書いてあったことを総合すると、こういうものであるらしい。
 






「全ての力を受け継ぎ、全ての力をもとあるところに返し、新たな契約を行うもの」
 






最後の魔女は、自分の意志に関係なく力の継承を行うらしい。
それが最後の魔女の運命だ、とも書いてあった。
しかも、最後の魔女は潜在的に少しの能力も持ち合わせているらしい。
今のところ、リノアにはなんの能力も持ち合わせていないようだ。
しかし、だからといって、リノアが魔女にならないという保証はない。
 






「わたしたち、あの子のために何ができるのかしら?」
「見守ってやろう。リノアが最後の魔女かどうかはわからない、けれど、もしそう
なったとしても、俺たちだけはあの子の味方でいてやろう。あの子は俺たちの大切な
娘なんだから。」
「そうね。」
 






ごめんね、リノア。
女の子として産んでしまって。
でも、わたしたちはあなたに生まれてきて欲しかった。
あなたに触れたかったの。
 






「リノアのもうひとつのお願い知ってるか?」
「なあに?」
「リノアは可愛い弟が欲しいんだってさ。ジュリアには言わなかった?」
「・・・・・・・・そんなこと聞いてないわ。」
「今から作る?」
「・・・・・・・・えっち。」







そうやってあなたはいつだって、その指でわたしをおかしくさせる。
でも、ほんとはね、わかってるの。
わたしが不安になっているのを察して、そうやって気を紛らわせてくれてること。







「ねえ・・・・・・、わたしたち・・・・・・・。」






もう、とぎれとぎれの声になりながらやっとのことでフュ−リ−に呼びかける。






「なんだ?」






そう答えるフュ−リ−の声も掠れていて、そのことがジュリアの気持ちをもっと昂ぶ
らせる。






「・・・・・・・これからも、こうやって、・・・・・ふつうにしあわせでいようね
・・・・・。」
「ああ・・・・・。」
 






リノアは割とすぐに出来たのに。
次の子が中々生まれないのも、ジュリアの不安に拍車をかけていた。
 






「俺のせいかもな。」
「何が?」






体を休めながら、フュ−リ−が言った。






「リノアに兄弟ができないこと。」
「・・・・・・・・?」
「俺がジュリアを独占してるから、きっと子供が出来る暇がないのかもな。ほら、
昔っからよく言うだろう?仲が良すぎると、子供はできないって。」
「・・・・・・・・ばか。」







 
***





          
           

また、月日は巡る。
フュ−リ−は年々忙しくなるみたいで、でもそれでもなるたけ休みを取ってくれた。
ジュリアの方も、年に一回のアルバム発表程度に仕事をセ−ブしていたが、今では国
民的人気歌手だったので、かえって人気をあおるほどだった。
 






「お母さん、今日はどこに行くの?」
「今日はねいい天気だし、今はとってもお花が綺麗でしょう?それを眺めながら、お
食事しましょうって、お父さんが誘ってくれたのよ。」
「わたし、あのピンクのワンピ−スを着る!!」
「あの服、リノアは好きね?まあ、この季節にはぴったりの服だけど。」
 






今年のリノアへの誕生日プレゼントのひとつ。
小花が散らされた可愛らしいピンクのワンピ−スはリノアのお気に入りだった。
どこかへ出かけようとすると、必ず着たがって、そのたびに「まだ寒いから」といっ
て我慢させていた。
 






でも、今日は。
とってもいい天気で暖かいし。
わたしも、今日はいままで我慢してた春物を着ていっちゃおう。
フュ−はどんな顔をするかしら?
 






「おかあさん、おとうさんとはどこで会うの?」
「ガルバディアホテルの前で待っているようにって言われたわ。おとうさんが迎えに
きてくれるって。」
 






ジュリアは有名人であるので、そうやたらと街をふらつくことなどは出来ない。
しかし、ガルバディアホテルは昔ピアノを弾いていた縁もあって、いまだによく利用
していた。








「すみません、ガルバディアホテルまで。」
「はい、わかりました。」






フュ−リ−が軍の要職を務めるようになってから、官舎でくらすようになった。
官舎とはいっても、昔フュ−リ−が暮らしていたようなものではなく、高級官僚用の
大邸宅だ。
高級住宅地の中にあり、閑静だが反面繁華街からは遠い。
門番の兵士に、タクシ−を呼んでもらい、それで街の中心地まで行くことにした。
 






「おとうさんとおでかけ、久しぶりだな。最近、おとうさん忙しいみたいだったか
ら。」
「そうねえ、休みをとれただけ凄いと思うわ。この時期、軍は忙しいんだものね
え。」
「おや、お客さんの旦那さんは、軍の方なんですか?」






人のいいタクシ−の運転手が話し掛けてきた。






「ええ、そうなんです。本人はあまり気にいっていないみたいなんですけど。」






ジュリアはそう言って、くすりと笑った。






「まあ、軍人さんは嫌なことが多いだろうからねえ。どこも大変ですよ。」
「そうですね。」
「でもお客さん、気をつけたほうがいいですよ?最近はかなり物騒になってますか
ら。軍の関係者を狙った嫌な事件とかもありますし。」
「ええ、気をつけます。ありがとう。」
 






もう少しで中心地へ着くかというときに、運転手は怪訝な顔をした。






「どうかしました?」
「いやね、後ろの車がね、なんだか怪しいんですよ。お宅からずっと後をつけて来て
いるし、運転の仕方もちょっと変だし。」
「え?」






ジュリアが後ろを振り返ると、後ろの車の運転手の男はにやりと笑った。
そして、そのままスピードをあげて、ジュリアたちの乗るタクシ−へと突っ込んだ。
 








***






 
ガシャ−−−−ン!!!!
 






「どうしました、中佐!?」






フュ−リ−は持っていたグラスを床に落としてしまったのだ。
控えていた秘書がすばやく飛び出し、フュ−リ−に怪我がないかどうか確かめる。
フュ−リ−に何もなかったことにほっとし、秘書は床に散らばったグラスを片付け始
めた。
 






「めずらしいですね、中佐がぼんやりなさるなんて?」
「いや、ぼんやりしていた訳ではないのだが・・・・・・。」
 






なぜか、とても嫌な予感がする。
何か、重要なことが起こっている予感。
 






「すまないが、これで早退してもいいかね?」
「かまいませんよ。元々今日はお休みでしたのに、午前だけでもと無理して出勤して
くださったのですから。」
「悪い。」






フュ−リ−は上着を取ると、慌てて執務室から出て行った。






 
 
***






 
ここはどこ?
わたし、一体どうなったの?
 






周りを見回しても、真っ白いだけで何もない。
 






「フュ−!?リノア!?」
 






声を嗄らして叫んでも、何も応えない。
 






確か、わたしは後ろの車に激突されて・・・・・・・。
 






わたし。




わたしは、このまま死ぬの?
 






リノアは、リノアは一体どうなったの?
 







こんな形で、わたしはフュ−やりノアとお別れをしなくちゃならないの?
こんなにいきなり、目の前から消えるような形で?
いや、そんなの絶対嫌よ。
だって、何も伝えてないのよ。
愛してるとか、幸せだったとか、そういうこともすべて。
このまま、二人で仲良くおじいちゃんとおばあちゃんになっていくつもりだったの
に。






 
お願い、この世に神様がいるなら。
お父さん、お母さん、全てにお願いします。
わたしの大事なひとに、気持ちを伝えたいの。
こんな風に、何も言わないままさよならなんてしたくない。







今、わたしに奇跡を起こさせてください。
 








***








『リノアは無事だよ。あの子には僕のところまで来て貰わなきゃならないんだから
さ。』






男の子の声がジュリアの頭の中に響いてきた。






「・・・・・・・・あなたは誰?」

『秘密。まったくあんまり一生懸命願うから、気になって念を飛ばしてしまったよ。
でも、しょうがないかな。リノアの周りに1人くらいは本当のことを知っている人間
がいないと後々困るからさ』

「どういうこと?」





やがて、小さな男の子の姿がジュリアに見えてきた。
男の子は、何か不思議な笑顔をしていた。
懐かしいような、どこか神々しいような。








幼い子供なのに、わたしよりずっと大人びた表情をしている。









『僕はその人に関係すること以外は話さないことにしてるんだ。とりあえずあなたに
関係することは、リノアが最後の魔女だということ、そのことだけ。』

「う、嘘よ!!あの子は普通の子なのよ。何かの間違いだと思うわ!!!」

『じゃあ聞くけどさ、あの事故は本当に酷いものだったんだ。君も運転手ももちろん
後ろの車の奴もみんな重傷を負って死ぬっていうのに、あの子だけ傷ひとつなくて無
事っていうのはおかしいと思わない?』

「それは、たまたま・・・・・・・・。」

『まあ、たまたまあるかもしれないけどね。でも、リノアは違うよ。あの子はその時
が来るまで、何があっても死ねない子だからさ。最後の魔女が持つ能力って、このこ
となんだよ。何があっても死なないっていう能力。』





男の子が言う言葉は、信じられないことばかりなのに。
どこかで納得している自分がいる。
やっぱり、という気持ちを感じている。







「・・・・・・・・・あなたは、なんでそんなことがわかっているの?」

『ふふ、僕は将来リノアと関わるからね。僕の運命はあの子が握っているとでも言お
うかな。』

「どうしても、リノアは魔女になってしまうの?それからは逃れられないの?」

『それも秘密。とりあえず、君の願いは叶えるよ。本当は、今君は死ぬところなんだ
けど、少しだけ、時間をあげる。そして、君の旦那さんにこのことだけは伝えておい
て。』








『リノアが最後の魔女だということをね。』
 
 






お願い、待ってちょうだい。
そう言おうと思って手をのばすと、その手を誰かに掴まれた。
 






この手は誰だか、わたしは知っている。
 






「・・・・・・・・・フュ−・・・・・・・。」
「喋ってはいけない、ジュリア。傷にさわる。」
 






目の前には、顔をくしゃくしゃにしたフュ−リ−がいた。






「・・・・・・・・リノアは・・・・・・・・?」
「あの子は無事だよ。多分君が守ったせいだと思うが、傷一つない。まるで奇跡だ
と、警察や医者が言っていた。」
 






やっぱり。
誰だかわからないけど、あの男の子が言っていたことは本当だったのだ。
 








「ジュリア?」
「・・・・・・・・ご・・・・、ごめん・・・・・なさいっ・・・・・・・」
「何故泣く?」
「・・・・・・・・わたしは、もうじきいなくなるの。でも、少しだけ、時間をも
らったから。わたしの話、聞いてくれる?」
「いなくなるなんて、そんなこと言うな!!ジュリアは大丈夫だ。絶対助かる。」
「・・・・・・・・わかるのよ、わたしのことだもの。」
 






ホントは、わかりたくなんてないんだけど、ね。








そう言って、寂しげな笑みを浮かべてから、ジュリアは真面目な顔をしてフュ−リ−
に言った。






「リノアは・・・・・。あの子は、最後の魔女なの。」
「・・・・・・・・・は?」
「あの子は、その時が来るまで、何があっても死ねない子なの。だから、あの子だけ
助かったのよ。」
「一体何を言っているんだ、ジュリア?あの子は、普通の子だって、君が一番知って
いるじゃないか。」
「わたしは、このことをあなたに伝えるために、少しだけ命の時間をもらったの。わ
たしも信じたくないわ。でも、本当みたいなの。」
「・・・・・・・・・・・。」
 






ごめんなさい。
わたしはこれからいなくなるっていうのに、あなたには重荷ばっかり背負わしてし
まって。







「でもね、あの子が一生魔女であるかどうか、魔女になるかどうかはわからないの。
もしかしたら、魔女にならない道もあるかもしれないの。だから、お願い、フュ−。
このことは、あの子にその時が来るまで秘密にしておいて。」







ぽたぽたと、涙がシーツに落ちて、染みを作っていく。
最後くらい、笑ってお別れしたいのに。
 






「たとえ、あの子が何であったとしても、俺たちの娘だろう?それには変わりない。
あの子は絶対に魔女なんかにしない。」







フューリーは、そう言った。
迷いのない瞳で。







ああ、この人はきっと、ずっと覚悟してくれていたんだ。
何があっても、ゆるぎない彼の気持ちに守られて、わたしたちは、本当に幸せだったんだ。






「・・・・・・・・フュ−・・・・・・。」
「ジュリアの両親も言っていただろう?決まってしまった未来などない、と。今から
見える未来はそうなのかもしれないが、これから変わるかもしれない。未来なんて、
可変するものなのだから。」
「・・・・・・・・ごめんね。最後まで、こんな重荷を背負わしてしまって。」
「重荷なんかじゃない。親なら当たり前のことだ。自分の子供を守るっていう。」
「ありがとう・・・・・・。」
 






何か、こみ上げるものを感じて、激しく咳き込む。
どうも、内臓も激しく損傷されているらしく、口から血が溢れ出た。





「ジュリア、もう喋るな。」






泣きそうな顔で、フュ−リ−がジュリアを止める。
 






もう、わたしの時間は少ししかないんだ。
本当は、このまま時間が止まってしまえばいいのにって思ってる。
でも、それが無理なこともわかってるの。







だったら。 
どうしても、あなたに伝えなきゃ。
わたしの想いを。
 






「わたしね、あなたと一緒に居て、本当に幸せだったの。毎日が楽しくて、ずっとこ
のままでいたいって思ってた。」
「だから、もう喋るなって・・・・・・・・!!!!」
 






最後だから、にっこり微笑む。
あなたはわたしの笑顔が好きだって言っていたから。
一番綺麗なわたしを憶えていてもらいたいから。
 






「わたしは、あなたを愛してる。これからもずっと。」
「ジュリア・・・・・!!!!」
「・・・・・・・ほんとはね、これからも、わたし以外のひとを好きにならないでっ
て、言いたいの・・・・。」
「言っていい。俺には、ジュリア以外のひとなんかいらないんだから。」
「・・・・・ううん。そんなの無理。それに、ひとを好きになるって、自然なことだ
し、とっても素敵なことだもの。わたし、あなたを好きになって、本当によかった。
だから、誰も好きにならないなんて、そんな寂しい人生送って欲しくない。」







できれば、わたしがあなたとずっと歩いていきたかったのだけれど。
それは無理みたいだから。
 






この世の終わりみたいな顔をして泣くフュ−リ−の後ろで、あの男の子が見える。
ああ、あなたね?
わたしのことを迎えに来たのね。
ちょっと待ってて。
これが最後だから。
 






「これから、誰のことを愛したとしても、わたしのことは忘れないで。」
「わたしのことも、愛していて・・・・・・。」
 






あなたがわたしのことを憶えていてくれれば、わたしはその中で生き続けることがで
きる。
あなたが見るもの、感じること、わたしも一緒に味わうことができる。
それってとっても素敵でしょう?








 
そう言うと、ジュリアは夢見るように瞳を閉じた。






「・・・・・・ジュリア?」






優しくゆすっても、ジュリアは目を覚まさなかった。
それどころか、だんだんと体が冷たくなっていく。
 






外で待機していた医者が慌しく入ってきた。
医者たちがいろいろ手を尽くしている中、フュ−リ−は呆然としていた。



         BACK/NEXT